2013年8月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第3回 HF受信機

いよいよアマチュア無線の受信機の製作に挑戦しましょう。まず、どんなものを作ればよいのか考えてみます。最初から難しいものや複雑なものは作るのが大変なので、できるだけ作りやすいものを考えます。アマチュア無線を始めるにはやはりHF帯の7MHzの受信機がいいのではないでしょうか。

受信機のための適当なICを探しましたが、すぐには適当なものが見つかりません。昔は自作する人も多く、部品の種類も多く販売されていましたが、今は販売されている部品を探すのに苦労します。無線通信機の構成で紹介したNJM2552のICがなんとか使えそうです。このICはAMとFMのラジオ用なので、HF帯のアマチュア無線の主流であるSSBとCWを聞くためには実験と工夫が必要と思います。

このICはアマチュア無線を受信するための考慮はされていませんので、少し実験しながら使えるかどうか確認していきます。心配される主なポイントは次の通りです。

1. FM信号の復調に使われる乗算器でSSB信号が復調できるか。
2. FM用に作られている振幅制限器の影響ががまんできる範囲か。

最初の問題はSSBを復調できるかどうかです。このICのFM復調部はクワドラチャ検波と言う方式になっています。復調部のIC回路はアナログ乗算器で構成され、FM検波の場合は、乗算器の片方の入力は信号がそのまま入りますが、もう一方はセラミック共振器で構成された位相回路から入力されます。FM変調によって周波数が変化しますので共振器に入った信号の位相も変化します。この変化した位相と元々のFM信号をかけ算するとFM変調に従った振幅が得られます。

今回はこの乗算器を利用して片方の入力は周波数変換されたIF信号が入り、もう一方の入力は周波数一定の発振器、BFO(Beat Frequency Oscillator)の信号が入ります。この信号は元のSSBのキャリヤーに相当するものです。この2つの信号を乗算器でかけ算するとSSBの元の信号が復調されます。

上の図のLSBの信号で一番高い周波数は、実は音声周波数の範囲の一番下の300Hzに相当し、一番低い周波数は音声周波数の3.0kHzに相当します。300Hzに相当する一番高い周波数より更に300Hz高い周波数のキャリヤーが元あった所に、BFOの信号を入れて乗算器にかけると、周波数的には引き算になるので元の300Hz~3.0kHzの信号が取り出せることになります。

もう一つの問題は、元々のFM用回路には振幅の影響をできるだけ受けないよう振幅制限回路が入っています。SSB信号は振幅変調なので振幅制限を受けると基本的に歪んでしまいます。ICの中にAM放送用の中間周波増幅器も入っていますが外にでている端子がないので利用できません。FM放送は強い入力レベルで聞くのが一般的なので、あまり強くないSSBの信号では歪みが我慢できるのではないかと思いますが基本的にはよくないやり方です。

このICの外部に必要な回路や部品を考えます。2つの問題点を何とかクリアーできるとして考えた回路は次のようなものです。ICの周辺に追加した回路または素子について個々に検討し実験していきたいと思います。

3.1 高周波フィルター

高周波の入力は7MHzのアマチュアバンドを通すフィルターで、回路図では次のようになっています。

このフィルターの設計方法は長年の経験によるもので、普通のバンドパスフィルターの設計方法では部品的に難しい定数になります。巻末のコラムにこの設計方法の資料を載せておきます。

7MHzのアマチュアバンドを7.0MHz~7.2MHzとすると、今回は中間周波数に455kHzを使っているため局部発振器は6.545MHz~6.745MHzとなります。今回使ったスーパーヘテロダイン方式では、この局部発振の周波数からさらに455kHz下がった6.1MHz付近も受信されることになりますが、これをイメージ信号と言います。イメージ信号は妨害となるので、ない方が良いのですがゼロにはできません。これは高周波フィルターの性能によって決まります。このフィルターで取り除けるレベルは1/1,000程度です。1/1,000と言うと比率が大きいように思われるかも知れませんが、弱い信号を聞いていると1,000倍の強さの信号は珍しくありません。もしこのフィルターで不十分なら後で考えることにします。

無線通信機など電気の関係では大きな倍数を扱うことが多く、一般的には対数を使ったデシベル(dB)で表すことが多くまた便利です。巻末のコラム「dB」も見てください。

このフィルターを作るにはコイルを作らなければなりません。ゲルマラジオを作る時に使ったクリアファイルのフィルムを使って作ってみます。
・クリアファイルのフィルムを20mm×50mmに切って単3電池に巻き付けます。
・重なった部分を押さえてセロハンテープでとめてフィルムのボビンを作ります。

・フィルムのボビンを電池の端までずらせて重なった部分にキリか千枚通しのようなものでエナメル線の通る小さな穴をあけます。

・ゲルマラジオで使ったものと同じエナメル線(φ0.4mm)をこの穴に通して線を全部で30回巻いていきます。ボビンを電池に戻して巻かないと巻きにくいのですが、電池の上で全部巻いてしまうと後で抜けなくなってしまいます。10回位巻いた所で少しずらして抜き、また巻いていくようにします。

・巻き終わった端に最初と同様な小さな穴をあけて線を通します。もし形が崩れそうなら瞬間接着剤で貼り付けてもOKです。フィルターには同じものが2個必要です。


コイルの完成図

このコイルを使って回路図のように配線します。コンデンサーは部品屋さんかネットの通販で探してください。配線図の通りに配線したものを測定器で測定してみました。このフィルター部分だけを先に組み立てて実測とシミュレーションを行いました。結果は次の通りです。


実験のためのフィルター回路


実際の測定(上)とシミュレーション(下)

測定器は、先に説明した周波数ドメインのスペクトラムアナライザーです。ほぼシミュレーションに近い特性のフィルターができましたのでこれを使います。シミュレーションと実測が異なるのは、コイルやコンデンサーの値のバラツキがあることと、シミュレーションでは理想的なコイルやコンデンサーなのに、実際にはコイルやコンデンサーに損失などがあってQが下がっているのが主な原因です。

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