2014年11月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第18回 省エネシステム

太陽電池を使用する方法も省エネですが、太陽熱そのものを利用する省エネ方法にもトライしてみました。太陽熱システムも、やはり電気によるコントロールやセンサーが必要で、「楽しいエレクトロニクス工作」の部類に入るのではないかと考えましたので、ここでご紹介いたします。

システム全体

基本的には雨水を利用して太陽熱温水器で湯を沸かし、風呂と給湯に利用するものです。全体の構成図は次の通りですが、進めていくうちに最初に思い描いていたのと異なり、色々な不利な条件が分かってきました。

まず太陽熱温水器ですが、敷地が傾斜地の関係で建物より低い位置しか設置する場所がなく、残念ながら一番低い位置になってしまいました。このため、温水を家屋のお風呂に給湯するにはポンプが必要になったり、温水タンクの高さが希望の高さにできなかったことで、シャワーも重力による自然落下の噴出になりませんでした。以下でそれぞれの部分について説明します。

フィルター

雨水を利用して太陽熱温水器で温めたお湯をお風呂と家屋の水道の蛇口への給湯を行うため、屋根から流れ落ちる雨を樋で集めてフィルターを通します。雨水をそのまま利用しても良いかも知れませんが、不純物も含まれているように感じられたためフィルターを作りました。

下の写真のように200リットルの大型バケツの上に大型タライを乗せて2段構造にしました。上のタライで粗ゴミを除去し、下のバケツで不純物を除去するという考えです。

上のタライはホームセンターで買ってきた砂を入れているだけですが、確かに落ち葉などのはっきり目に見えるゴミを取り除く他、しばらくすると黒いゴミが砂の表面に溜まりますので2、3ヶ月に一度、これら上のゴミを削り取って取り除きます。やはり雨にはゴミが混入している様です。下の大型バケツは、インターネットの文献を参考にして主には砂を使い、下の方に牡蛎の殻を割って敷き詰め、上の方には大量の炭を入れ、その上にシュロの網を入れています。

最初はホームセンターで買ってきた砂をそのまま使っていたのですが、それには細かい粒子も含まれていたため意外に詰まりました。そこで料理に使う目の細かいフルイにかけて細かい砂の粒子を取り除くと上手くいきました。

水タンク

フィルターの底から取り出した水を貯めておく500リットルのタンクです。屋根の大きさが約30m²ありますので20mm以上の雨が降れば満タンになります。後で気がついたのですが、雨の降らない期間もあるので1,000リットルのタンクにしておけば良かったと思っています。太陽熱温水器とバスタブの容量が160リットル位なので、500リットルのタンクでも満タンなら3回風呂が沸かせます。

このタンクは樋の関係で必然的に低い位置にありますので、この水を汲み上げるためにタンク内に水中ポンプを入れています。このポンプは水タンクから太陽熱温水器に給水するものです。

太陽熱温水器

太陽熱温水器はインターネットで見つけて通販で買ったものですが、中々の優れもので1日天気が良ければ最高76℃まで湯が沸きます。この太陽熱温水器は、2重構造のガラス管の中空が真空になっているものが20本と、風呂1回分の155リットルのタンクで構成され、1対の線だけで温度と水位が分かるコントローラーがついています。温度はデジタル表示で水位は4段階表示になっています。コントローラーの電源は12Vで、温水器のタンクが空になるとリレーが働き100Vをスイッチして水タンクのポンプを動かして自動的に給水します。

太陽熱温水器で沸かした湯は3メートル程高い位置にある温水タンクまでポンプで上げなければなりません。160mmφの大きな塩ビパイプを加工して作ったバッファタンクにこのポンプを入れています。実は水タンクと同じ水中ポンプを使っているので60℃以上の温度で動かすと仕様の温度を上回り故障が心配です。そのため温度の高いときはドレインからバケツ4杯分位の湯を抜き、代わりに水を入れて温度を60℃まで下げた後ポンプを動かしています。高温でも動くポンプがあれば良いのですが、まだ見つかっていないためこのローテクの方法を続けています。

湯をくみ出す時と給水の時に使うパイプは同じ1本の16mmφの塩ビパイプで往復させていますが、水中ポンプは働いていないときは水が素通りできる構造なのでこの動作ができます。太陽熱温水器から温水を温水タンクへポンプで送る時、水タンクへ逆流しないよう逆流防止弁をつけています。これは「異径ソケット」と呼ばれる塩ビパイプの継手部品の中にガラス玉(ビー玉)を入れてその重さで蓋をするものです。水タンクのポンプが動く時にはビー玉を押し上げて水が流れます。

温水タンク

温水タンクはせっかく沸かした湯を冷めさせない考慮が必要です。タンクそのものは水タンクと同じ500リットルのタンクですが、断熱のため回りを発泡スチロールで囲うことにしました。まず、50mm厚の発泡スチロールの板でタンクに密着する箱を作り、隙間にはガラスウールを詰めてその外側にアルミホイルを貼り付け、輻射を防ぐ構造にしました。発泡スチロールの外はいわゆるコンパネの板で囲っています。

これ位にすれば40℃の湯が1週間後に30℃程度に保つのではないかと期待しましたが、期待に反して1週間後は気温プラスα程度の20数℃まで下がってしまい、がっかりしました。断熱がいかに難しいかよく分かりましたが、今では40℃の湯が真冬で1週間後に10数℃程度であればよしとしています。当初はこの湯を使って床暖房まで考えていたのですが、完全に挫折しました。

この温水タンクにはいくつかの工夫を凝らしています。湯はタンクの下の竈(かまど)ボイラーから入れ、給湯パイプは内部に柔らかいホースに浮きをつけていつも温度の高い湯の上面より取り出します。また、太陽熱温水器から温水タンクにはポンプから注入するため、上部に水流センサーをつけて温水器の湯が来なくなれば自動的にポンプの電源を切るようにしています。

温度計

温水タンクの温度計は室内から監視できるようリード線付きセンサーの温度計を買ってきたのですが、最初使用したものはリード線の長さを変えると表示が合わないタイプで、それを知らずにリード線を切って延長線をつけたため失敗しました。

次は、センサーと本体の分離型の無線で情報を送るものを取り付けましたが、センサーがタンク内の高温高湿に耐えられず半年も持ちませんでした。その次にはリード線を延ばしても問題のない温度計を使いましたが、温度が高く湿度も高いタンク内ではセンサーの部分に水分が入り2年程で故障してしまいました。そのため現在は、このセンサーに水分が入らないよう接着剤を流し込んで使っています。

今進行中の計画は、この場所に滞在していない間は太陽電池の発電を利用していないので、この電気を使って湯を沸かすことです。最初はニクロム線むき出しのヒーターを作ってみましたが、金属部分が少しでも水に浸かっていると電気分解を起こすためか、湯が赤くなっていまい入浴時に不快でした。また、長期間完全防水のヒーターを作ることは不可能でした。

熱帯魚用のヒーターや業務用の電極が露出していないヒーターは、そのほとんどが100Vか200V仕様で、太陽電池出力に合う20V程度の大型ヒーターが見つかりませんでした。仕方がないため100Vで500Wの熱帯魚用ヒーターに合うよう、太陽電池の電圧から60V程度まで上げるDC-DCコンバーターの製作を現在進めています。

水位計

温水タンクは中が見えないので水位計が必要です。この水位計の製作にこれほど苦労するとは思いませんでした。構成はタンクの水位を7段階に分けてそれぞれセンサーを7個取り付け、それに相当するLEDを点灯させる簡単なものです。7個にした意味は、結線に使用する信号線に8芯のLANケーブルを使いたかっただけの理由です。センサーの構造は外径20mmのアクリルパイプの内側に15mm角程度のステンレス板を対向させたものです。センサーは水の直流抵抗を計って水に浸かっていれば抵抗は低く、なければ抵抗は高いと単純な発想です。

テスターで抵抗を計りながらセンサーを水に浸けると確かに数10kΩ以下に下がります。ところがこれを実際に温水タンク内に設置するとどうしても合わないのです。端子の接触不良とか線の断線とか色々検討し、センサーの対抗する電極の寸法や間隔も随分変えましたが解決しませんでした。

それから1年以上経ってから何気なくインターネットで、水の抵抗測定について記載されていたところをよく見ると、水の抵抗測定は直流では電気分解を起こしてだめだ、ということを初めて知りました。確かに最初は数10kΩだったものが暫くそのままにしておく3MΩ位になるのです。そのため、回路内に発振器を入れ交流的に働くセンサーに変えてやっと正常に動作するようになりました。


水位計の回路図 (クリックで拡大します)

お風呂

風呂場の防水加工だけ業者にやってもらい、バスタブは自分で買ってきて設置しましたが、シャワーに問題が発生しました。建物の関係であまり高い位置に温水タンクを設置できなかったため、そのままではシャワーの蛇口から温水が勢いよく噴出しませんでした。これは落差が1mもないことが原因で、落差を3m以上とらないとシャワーにならないようです。そのため、小さなタンクに一度湯を入れ、それを風呂用のポンプでくみ出してシャワーにしています。落差が足りないことで、台所の給湯も今のところうまくいっていません。

竈 (かまど)

太陽熱でいつも40℃以上になればいいのですが、天候が悪ければ湯温が低く、何かで沸かさなければなりません。そのため調理ストーブと称する次の写真のようなものをホームセンターで見つけてきて使っています。この竈に使う熱変換器として、銅のパイプを丸めたものをやはりホームセンターで見つけました。これを竈の中に入れて火を燃やすと熱交換器となって結構湯が沸きます。熱交換器と取り替えて羽釜を載せてご飯も炊いています。燃料は木材ですが、廃材や倒木などが入手できるため困りません。

すぐ近所の話ですが、風呂を作って沸かしたところ家に火が燃え移って全焼したとのことで、絶対に類焼しないよう竈と建物と分離し、竈と温水タンクとは塩ビパイプで繋ぐことにしました。

最初は竈で湯を沸かすと勝手に循環するのではないかと考えそのまま沸かしたところ、湯が100℃を超えて蒸気になり途中の塩ビのパイプがグニャグニャになって湯が漏れ、工事のやり直しになってしまいました。

この経験から温水を強制的に循環させなければだめなことが分かり、循環ポンプを買ってきて取り付け、温水タンクと竈の間の温水を循環させたところ、今では良好に働いています。さらに、竈に温度センサーをつけて自動的に循環ポンプを回せばよいと考え、これの配線はしているのですがまだ動かしていません。一度循環ポンプを回すのを忘れて高温となり、塩ビパイプを壊したことがあるため、少しトラウマになっています。

この竈は写真のようにかなり古く汚くなっため、作り直さなければならない時期にきています。次は耐火煉瓦で作る予定にしていますが、その時は温度センサーをつけて循環ポンプを自動運転したいと考えています。

浄水と流し

この場所の水道は、自治体が運用しているような正規なものがなく、自治会で運営しており、鉄分の多い少し黄色い水が出ます。水質検査によると飲めないことはないのですが、やはり黄色い水は飲みにくいので、毎回自宅から水道水を持ってきます。これが最初の図にある浄水で、持ってきたタンクから流しの上のタンクにポンプで上げて使っています。このポンプは手動でスイッチを操作するもので、特にハイテクなものではありません。

まとめ

最初は温水タンクの入出力の開閉に電磁弁を使うつもりで、秋葉原のジャンク屋で電磁弁を買ってきたのですが、知識不足で使えませんでした。一般的な電磁弁は電磁石で強制的に弁を動かしているのではなく、パスカルの原理をうまく使って電磁石の力はほとんど使っていません。この方式はある程度の水圧がなければうまく働かないことを後で知りました。また温水タンクは落差が小さいので水圧がほとんどないため、洗濯機に使っているような落差がなくても働く電磁弁が欲しいのですが、現状では手に入れるルートがなく希望が叶っていません。

省エネシステムを設置しているこの場所は冬に温度が下がり、凍結防止の対策が必要です。このため、12月上旬より水道関係は全部水抜きをして帰る必要があり、うっかり忘れるとパンクして大変です。循環ポンプも逆さに吊り上げて水抜きします。また、太陽熱温水器の取説には、冬場はヒーターをつけるよう書かれていますが、そんなことはできないので、下の写真のように装置そのものを回転してガラス管の水抜きをするようにしました。

今のところ、この場所へは週末に行くだけですが、お風呂にも不自由なく入っています。電源は冷蔵庫があるため電力会社からの電力が不要とまでいきませんが、太陽電池の恩恵を十分受けています。アマチュア無線に直接関係のある電気の実験も楽しいですが、労力を伴う力仕事の実験も結構楽しいものです。

■パスカルの原理
男子トイレの小便器にプッシュ式の水洗器具がついていますが、概略次の図のようになっています。押しボタンを押すとバネの上の蓋が傾いて上の水が流れます。上の部分の水圧が下がって下のパッキンが持ち上がり水が流れます。

押しボタンを放すと小さい穴から水が入り、この穴の大きさと上の可動部の面積の比でパッキンが押し下げられて水が止まります。水が流れる時間は小さい穴から入る水がパッキンを押さえつけるまでの時間です。

電磁弁は上の図のバネの上の蓋の代わりにプランジャーで穴を塞ぐようになっています。

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