2015年2月号

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連載記事

移動運用のオペレーションテクニック

JO2ASQ 清水祐樹

第11回 鉛蓄電池の上手な使い方

移動運用で用いられる電源の一つに、鉛蓄電池があります。自動車のバッテリーにも多用されています(電気を動力源とするものを除く)。しかし、取り扱いにはいくつかの注意が必要で、使い方が適切でないと、電圧低下により送信音が“チャピる”原因になったり、数回の使用で劣化したりすることがあります。

完全密封型の鉛蓄電池は、無停電電源などの保守用として安価に入手できることがあり、ニッケル水素電池などでは容量が不足する場合に、手軽に使える電源として重宝します。今回は、鉛蓄電池を少しでも長持ちさせ、効率の良い運用を行うための、鉛蓄電池の上手な使い方を紹介します。

鉛蓄電池の特性

鉛蓄電池には完全密封型と、開放型の2種類があります。開放型は内部で発生するガスを逃すための通気孔があり、倒すと内部の電解液(希硫酸)が漏れる可能性があります。電解液は腐食性があり、取り扱いには注意を要します。

蓄電池の容量はAh(アンペア時)で表示します。これは使用できる電流(アンペア)×時間を意味します。鉛蓄電池は、残容量が0%になるような使用は望ましくない(後述)ので、実際に使える容量は、表示よりも小さいと考えるべきです。

残容量の目安は無負荷時の電圧から知ることができます(表1)。定格12Vの鉛蓄電池の場合、満充電(残容量100%)で12.6V、残容量25%で12.0Vとなります。


表1: 鉛蓄電池(12V)の残容量と、無負荷時の電圧との関係

充電は専用の充電器を使います。電池の容量(Ah)の1/10の電流(A)を1Cと表記し、その電流での充電が基本となります。急速充電は3C程度まで可能なものが多いようです。充電終了は、端子電圧が14.4~15.0Vになることで判定します。充電器の製作例は2013年12月号に示しています。

鉛蓄電池は、残容量が少ない状態で放置すると性能が低下します。また、残容量が0%に近くなるまでの使用は望ましくありません。使用後はすぐに満充電が必要です。(ただし、鉛蓄電池以外では、満充電での保管を推奨しない電池もあるので注意)

鉛蓄電池は重いので、持ち運び時に転倒・落下などしないよう、十分な注意が必要です。筆者は特注の金属製ケースに入れたり、保護用のプラダン(プラスチック製ダンボール)を巻いたりしています(図1)。運搬の際の身体への負担も大きいので、運搬方法は十分に検討し、無理のない範囲での使用をお願いします。

鉛蓄電池は、宅配便も含めて航空機での輸送ができませんので、注意が必要です。



図1:鉛蓄電池を運搬するための特注ケース(上)、底面に保護用のプラダンを巻いた様子(下)。
取っ手には手が痛くならないようタオルを巻いている

無線機の電源電圧と電池の電圧との関係

無線機の電源電圧の定格値は一般に13.8V±15%です。下限電圧は単純計算では11.73Vで、表1では12Vの鉛蓄電池で十分な電圧が得られそうに見えます。しかし、これは無負荷時の電圧です。実際には、電池の内部抵抗と配線抵抗によって電圧が低下するため、無負荷時の電圧がこれより高くても使用できない場合があります。

出力50Wの無線機は送信時に最大13~14A程度の電流を消費します。鉛蓄電池から出力50Wの無線機に安定した電源を供給するには、少なくとも20Ah程度の鉛蓄電池が必要です。無線機の電源電圧が低下すると、出力電力が低下する、送信波形がひずむ(チャピる、ピヨピヨといった音になる)といった影響があります。

出力50Wの無線機の電源電圧と出力の関係を図2に示します。送信時の電源電圧が約12V以上の時、送信時のPoが100%を表示し、出力は約40W以上になります。12Vの鉛蓄電池で送信時にも12Vを維持することは、残容量の減少による電圧低下を考えると厳しい条件です。そこで、電圧低下の影響を減らす方法を次に述べます。


図2: 定格出力50Wの無線機における電源電圧と出力の関係(筆者による測定)。 安定化電源から純正電源ケーブル1m+ヒューズを通して無線機に電源を供給し、終端型電力計でCW連続送信の出力電力を測定した。電源は安定化電源の端子電圧を示す。

電圧低下の影響を減らすには

鉛蓄電池の電圧低下の影響を小さくするには「出力電力を下げる」ことが最も有効です。しかし、どうしてもフルパワー運用したい場合に、電圧低下の影響を減らすには、次のような方法があります。

1) 配線抵抗を減らす
電源ケーブルは極力短く、ヒューズの接点を磨いたり、接続部分の接触面積を広くしたりして、配線抵抗を極力減らします。端子部分が小さい鉛蓄電池には、「リン青銅板」を取り付けて接触面積を広くしています(図3)。また、使用中にヒューズホルダーが発熱して電圧降下した場合、ヒューズホルダーを圧迫すると、一時的に症状が改善することがあります。


図3: 端子部分が小さい鉛蓄電池に「リン青銅板」を取り付けた例

2) 充電をこまめに
自動車での運用の場合、無線機専用の鉛蓄電池を使って、移動運用の途中でもこまめに充電すれば、端子電圧が高い状態を保つことができます。DC12V→AC100Vの変換器と、鉛蓄電池用充電器を組み合わせて使用します。

普通自動車のバッテリーから連続して電源を供給する場合、車のバッテリーから取り出す電流は10A以下、または無線機用の鉛蓄電池に充電する電流は5A以下が目安です。

5Aで充電しながらCWで50W連続運用すると、無線機の消費電流は平均7~8Aになるため、鉛蓄電池の容量は次第に減っていきます。運用時間を少しでも長くしたい場合、フローティング充電よりも、2個の鉛蓄電池の交互使用が有利です。詳しくは2013年12月号をご参照ください。

シガーソケットから大電流を連続で取り出すと、発熱でシガーソケットの故障の原因となります。そこで、平行コードの両端にシガーソケットとバッテリークリップを取り付けた専用のケーブルを使っています(図4)。シガーソケットのマイナス側に付けてある端子は、車のボディーアースと電気的につながるもので、送信時の回り込みが発生した場合に、無線機本体や電鍵のアース側を端子に接続すると、解消されることがあります。


図4: DC12V→AC100V変換器の電源を自動車のバッテリーから直結で取り出すケーブルの例ヒューズは10Aを使用。シガーソケットに付いている端子はアースを兼ねており、回り込み対策のために無線機や電鍵のアース側に接続する。

3) DC-DCコンバータを使う
DC-DCコンバータには、無線機用のDC12V→DC13.8Vの機種があります。これを使えば、12Vの鉛蓄電池でもフルパワー運用ができます。また、12Vの鉛蓄電池を2個直列にして、入手しやすいDC24V→DC13.8VのDC-DCコンバータを使うことも考えられます。いずれにせよ、鉛蓄電池の過放電には注意が必要です。

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