2015年3月号

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連載記事

熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第5回 那智の火祭との出会い

昨年の7月14日、はじめて那智の火まつりを目の当たりにして、その躍動感と古式豊かな伝統に強い印象を持った。

和歌山市に住む知人から火祭りの前に田楽の舞を是非と勧められ、紀伊勝浦駅近くに前泊。当日、勝浦港の朝市でマグロの朝食をとり、バスに駆け込んだ。那智大社のバス駐車場から石段を上ると、「那智大社例大祭」「扇祭」「那智の火祭」の看板が目に入った。バスでいただいたパンフには「神武天皇は那智の御滝を神として崇め、那智山中腹に熊野那智大社が造営され、那智の御滝は飛滝神社となりました。『那智の火祭り』は熊野の神が鎮座している那智大社から御滝に年に一度里帰りされる行事であり、神霊を振るい起こし、万物の生成発展を祈る神事です」(抜粋)とある。詰まるところは、五穀豊穣を祈るお祭り。既に那智大社には12体の扇御輿と大松明が神殿前に立ち並び、火まつりへの心が掻き立てられる。

11時になると、稚児による大和舞から田楽の舞になった。「この田楽の舞は平安時代に興り、熊野詣の人により伝わった。当初、野良仕事の姿であったが、その後精錬された舞となり、2012年に世界文化遺産に追加された。」とアナウンス。約45分間の舞の中で、「耕す」を表現する鋸刃の舞などは確かに見応えがあった。「奈良地方では、田んぼの中で女性が泥んこになって歌ったり、踊ったりする田楽の舞がある」と隣の方から教えられ、機会があれば一度訪ねたいと思った。

炎天下の木陰でかき氷でのどを潤していると、県立高校の写真部の女子生徒にツーショットを求められ、連写を浴びた。付き添いの先生とも出会い、一緒に火祭りの行われる旧参道へ。既に立錐の余地もなく、私らは、参道より数メール高いところに陣を張った。写真部の彼女らは参道の群衆に紛れ込んでいった。

1時50分すぎ「第一、第二、第三の使いが出発」と放送があり、観客は静まった。白装束の氏子が小さな松明を抱えて、石段を登り、静かに御滝本に降りていく。御滝本では、間もなく12体の大松明(50kg)が点火されて、扇御輿を迎えに登る準備が進められている。一方、私たちの前には、神を乗せた12体の扇御輿の列がゆっくりと現れた。

しばらくすると、御滝から大松明が上ってきて、扇御輿は起立して出迎えを受ける。歓迎の大松明は上下に揺れながら舞い上っているのがやっと確認できたが、出会いを清めて円を描きながら石段を下りて御滝本へいく様は、遠くて見えない想像の世界である。御滝本前に下りてきた12体の扇御輿は「扇褒め神事」を受けてまた御本社に帰着し、一連の神事が終わるが、帰宅時間が気になり帰り支度を始めた。間もなく写真部女子生徒が喜々として上ってきて、メモリーを見せてくれた。松明の火の粉、氏子の汗、御滝本前の神職など、リアルなアップと連写の動きで、思わぬ臨場感を体感した。これが今年も火祭りへと心が動かされたキッカケとなった。


スケッチ 東牟婁郡那智勝浦町那智山1(熊野那智大社)

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