2016年11月号

トップページ > 2016年11月号 > 楽しいエレクトロニクス工作/JA3FMP櫻井紀佳 第42回 容量計

連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第42回 容量計

昨今、チップ型の部品を使う機会が多くなってきました。チップ抵抗は小さい文字ながら表面に値が印字されています。しかしチップコンデンサーは表面にその印字がなく、一度落とすと拾い上げてもさっきのものかどうか信用できなくなってしまいます。

そのような定数が分からなくなったチップコンデンサーが溜まってきたため容量を測って分類したくなり、今回は容量計を作ってみました。容量計はネット通販でも比較的安く販売されていますのでチップコンデンサーの容量を測る目的だけなら買った方が早いかも知れませんが、製作の楽しみという趣旨も考え自作してみました。

容量計はCR回路に電圧をかけてその過渡応答の時間と電圧の測定で計算する等、色々な方式がありますが、今回は少し変わった方法にします。

下図のようにLCの同調で決まる発振回路を作り、測定する被測定Cを並列に接続し、同じ発振周波数になるようバリコンを回してその角度から容量を読み取ります。この方法ではバリコンの最大容量より大きい値は測れませんが用途は結構あると思います。

今回製作する容量計は、基本的に固定のLとバリコンによるCの同調回路の発振器です。この同調回路に測りたいCを並列に接続し、バリコンを回して補正します。そのバリコンの変化量を目盛りから読み取ります。従って測定可能な範囲はバリコンの可変範囲に限られますが、HF帯およびVHF帯で使うコンデンサー等は結構この範囲で使うものが多く、実用になると思います。

バリコンの容量を最大値まで回した周波数を7.0MHzとしてこの周波数を測定周波数とします。回路は非常に簡単でコイルにタップを付けて帰還端子としたハートレー発振回路です。ハートレー回路にした理由は容量計なので測定したいC以外のストレー容量を少なくしたいためです。コルピッツ回路等では帰還のCの関係でどうしてもストレー容量が増える傾向にあります。次の図はこれらの回路例です。

実際に製作した回路は次のようになっています。発振用の素子は2SK125を使いました。このFETは生産終了品ですのでもう新品は手に入らないかも知れませんが、特にこのFETでなくても高周波FETならなんでもOKです。バイポーラートランジスターの回路でも問題ありません。今回このFETを使用したのは、性能がよいということで昔買い込んだものが残っていたためです。

発振の後は接続する周波数カウンターの影響がでないようにICのバッファーアンプを入れました。今までこの連載の中で何回も使ったμPC1651ですが、これも高周波増幅ICならなんでもOKです。

発振周波数は温度変化や経年変化などの補正をおこなう必要があります。外付けのCをできるだけ少なくしたいため、補正はトリマーのCではなくLでおこないます。誤差をできるだけ小さくするため1kHz以内位に補正した方がベターです。

発振部とバッファーアンプのICはプリント基板に組み込み、コイルはインダクタンスを調整できるようネジ付きのコアをコイルの中心に入れ、上下に可動するようにしました。

実際に測定するコンデンサーを取り付けるDUT(Device Under Test)端子を取付け、通常の両端子や片端子のコンデンサーも測れるようにしました。またチップコンデンサーを測定できるように穴あき基板で治具を作りました。これには有線LANケーブルのコネクターを1つ壊して電極のバネを取り出し、このバネでチップコンを挟み込む構造にしました。さらにリードタイプのコンデンサーの測定用にリードを差し込む2Pのソケットを取りつけました。この治具に取り付けているカニの爪型電極をDUT端子に接続して使います。

全体ができあがるとバリコンの目盛り作りと校正が必要です。まず、この発振器から取り出した出力に以前の連載、第8回~第12回の「周波数カウンターの製作」記事で製作したカウンターを接続して周波数を測ります。もちろんこの周波数を測れるカウンターならなんでもOKです。周波数が7.0MHzちょうどになるようにLを調整して合わせます。

目盛表示板を作るため、できるだけ誤差の少ないコンデンサーを巻末資料のE12系列に合わせて、1pF、2pF、5pF、10pF、12pF、15pF、18pF、22pF ・・・ 等を用意します。これらのCを取り付けると周波数が下がるのでバリコンを回して元の7MHzになるよう合わせ、この時のバリコンの目盛りをつまみの周りに描きます。

目盛りを描くためコンデンサーをソケットに差し込みバリコンのつまみを回すと、表示するのが予想外に困難であることが分かってきました。小さい容量のところはピッチが密集し過ぎ、逆に大きい容量のところは粗いピッチとなり、小さい容量が正確に測れそうにありません。使用したバリコンが430pFではなく周波数直線型の最大350pFだったため、その傾向がより強くなっていると思われます。

また、昔は全く気が付かなかったのですが、今回バリコン本体にもバックラッシュがあることに気が付きました。右回しで合わせて少し行き過ぎたとき左に回すと直ぐに行き過ぎてしまいます。バリコンの軸受けのベアリングにガタがあるのかも知れません。

なんとかこのデータで目盛版を作ってみました。

実際の測定はバリコンを最大値(目盛りは0pF)に合わせて周波数カウンターの値が7.0MHzちょうどになるよう補正Fine TuneのLのコアを回して合わせます。チップコン用治具を使う時には、治具を取り付けた後補正します。

測定したいCを取り付けるとカウンターの周波数がずれるので元の7.0MHzになるようバリコンを回します。その時のバリコンの表示がそのCの値になります。


ユニットの内部

このままでは小さい容量の目盛が正確に読み取れません。そこでせっかく周波数カウンターを接続しているので測定した周波数から容量を逆算することにしました。

まず7.0MHzの時の容量を知るためDUTに100pFを付けると6.215MHzとなりました。これらの関係を計算すると元々の7.0MHzの容量は372pFになりました。次の表はEXCELの計算式を埋め込んだもので測定周波数のところにカウンターの測定値を入れるとDUTの容量が表示されます。

計算の方法は、「(基準周波数/測定周波数)^2×基準容量-基準容量=DUT容量」です。この計算値ではバリコンの目盛版の読み取り誤差もなく、遥かに精度のよい測定値となりました。この方法で測定すると基準の7.0MHzさえ合わせれば正確に計算してくれますので、別に大きなバリコンを使う必要がないことにも気が付きました。

容量計算用エクセルファイルはこちらからダウンロードできます。
ダウンロード後、zipファイルを解凍してお使いください。

この容量計の実際の製作は、バリコンが主体になるため、バリコンを立てて取り付け、上側に目盛りを付けるため縦長のケースになりました。バリコンそのものは今回の回路では単連のものでよいのですが、たまたま手持ちのものが2連だったためこれを使うこととしました。このようなバリコンは今や国内で作っているメーカーはおそらくなく、ジャンク品も徐々に世の中から消えていくので貴重な部品となっています。贅沢は言えませんが、今回は結果的にあまり役立たないことになりました。

もし同じような容量計を製作するのであればバリコンをやめて固定コンデンサーに置き換え、周波数カウンターの読みとEXCELの計算で測定されることをお勧めします。

昔、自励発振による局部発振を使った受信機では、最大430pFのバリコンがよく使われ、最低周波数と最高周波数の比が3倍位になっていました。アマチュア無線の周波数を主に考えてオールバンド受信機にしたいため、3.5MHz~10.5MHz、10MHz~30MHzのような構成でした。周波数比が3倍ならバリコンによる容量比は9倍のはずです。

バリコン単体の最小容量は12pF位と思いますが、配線によるストレー容量などでこれより増加します。(C+430)/C=9で計算するとCは53.75pFで、バリコンの最小容量を引くとストレー容量は40pF以上になり、昔の配線と真空管の入力容量が随分大きかったことが分かります。今回はこれよりストレー容量を低くできると思われ、従って測定範囲は広くできます。

バリコンの羽根の形は、容量直線型、波長直線型、周波数直線型等があります。容量直線型は羽根が半円形で、波長直線型はその昔、周波数表示でなく波長表示だったためこれに合う形で、周波数直線型は容量変化が2乗特性にして周波数に合う形になっています。昔は、バリコンは一般的な部品としてどこにでもありましたが、現在手元に残っているのは次の写真の一つだけになりました。

 

楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー

頭の体操 詰将棋

Masacoの「むせんのせかい」~アイボールの旅~

目次

ニュース

連載記事

テクニカルコーナー

JAIAコーナー

今月のハム

  • 連載記事一覧
  • テクニカルコーナー一覧

お知らせ

発行元

発行元: 月刊FBニュース編集部
連絡先: info@fbnews.jp