2013年4月号

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連載記事

アマチュア無線への思い

JA1CIN 三木哲也
(公益財団法人 日本無線協会)

第1回 科学技術人材を育てるアマチュア無線

1.まえがき

ずいぶん前から指摘されている青少年の「理科離れ」に対して、文科省をはじめ教育界、理工系の学会などが危機感を持って「子供の科学教室」など種々の取り組みをしているものの、改善されたという話をいっこうに聞かない。
最近のOECDやIEA(国際教育到達度評価学会)による国際比較調査では、日本の児童生徒の理科の成績は国際的に見ても上位にあるものの,「理科が好き」,「将来,科学を使う仕事がしたい」などとする者の割合は最低レベルにあることが指摘されている〔1〕。小学生では約80%も理科が好きと言っていても、上級生になるに従い興味を失い高校生では理系に進路をとる生徒は20%台に減ってしまうという。理科離れの底流には、若者の間での理系のイメージの悪さと、理系は文系より不遇という社会的通念の存在があるとも言われているが、これは日本がこれからも科学技術立国として生きて行く上で何としても解決しなければならない大きな課題である。小学生時代の理科への興味を、中学・高校時代も持続させ、さらに科学技術分野で社会に貢献することを目指す青少年を増やすことに効果のあるあらゆる方策を講じて行かなければならない。
このような方策の一つとして、中学生、高校生へのアマチュア無線の普及は大きな意義があるに違いない。

2.アマチュア無線から技術者・研究者の道へ

いま社会で活躍している技術者・研究者には、子供のころ理科工作、ラジオの製作、そしてアマチュア無線にのめり込んでいった人がずいぶん多い。
ソニーの創設者である故井深大氏は、昭和2年以前の日本では未だアマチュア無線が許可されていなかった時代に、送受信機を自作して不法ではあったがJ3BBというコールサインでアマチュア無線を行っていたことが関係者には有名な話である。
2000年にノーベル化学賞を受賞した筑波大の白川秀樹名誉教授は、小学5年生の頃、鉱石ラジオを組み立てたのがきっかけで、夢中になり中学の時には短波の受信機を製作し海外からの放送を聞いて楽しんでいたそうだ。さらに無線送信機も組み立てようとしたが、費用がかかりすぎて断念したというエピソードが当時報道されたので、覚えておられる方も多いと思う。
東大大学院理学系研究科長・理学部長(2007-2008年度)であった山本正幸教授は、「私が理学を志したのは、「生物はどういう原理で存在しているのだろう?」という素朴な疑問を突き詰めて理解したかったからです。 中学高校時代にアマチュア無線が趣味だった私は、「メカニカルな側面から自然を研究してみたい」と思ったのです。」と語っている〔2〕。
東北大大学院環境科学研究科長(2004-2005年度)であった新妻弘明教授は、「小中高では生物以外の理科はみんな好きだった。特に化学実験が大好き。中学校からは電気工作(ラジオ、アンプ、モータ、アマチュア無線受信機等)に主体が移る。東通工(現ソニー)のトランジスタを使ってラジオも作ったが,トランジスタは安っぽいと思ったので真空管が主体だった。」と自身のWebに書かれている〔3〕。
現在の企業や大学などで活躍している世代では、特に通信、放送、情報、エレクトロニクス分野の仕事に就いている人達には、アマチュア無線によって無線通信に魅せられて進路を決めた人が非常に多い。これは日本に限らず世界的にも同様で、これらの分野の国際会議に参加しパーティなどで話をしていると、「自分のコールサインは○○○○」と明かされることもたびたびである。

3.日本のアマチュア無線の実情

太平洋戦争後、日本のアマチュア無線は1952年に再開され、それ以来アマチュア無線従事者、アマチュア無線局数は指数関数的に増加していったが、1990年代に入ると新規に従事者資格を取得する者は急激に減少し、またアマチュア無線局数も1995年に約137万局に達した後、急激に減少して2012年には約44万局である。このような減少は、携帯電話の普及により友人などとの通話に関する限りアマチュア無線より便利な環境が出現したことによる。このような状況から、現在のアマチュア無線は真に無線通信に魅力を感じ、無線機やアンテナの実験など技術的興味を持っている者が主体であり、むしろ正常な姿と言える。


図1 日本のアマチュア無線従事者(免許交付累積数)およびアマチュア無線局数の推移
〔当該年の3月末時点の数値〕

最近はこの減少傾向も止まり、アマチュア無線従事者は毎年2万人ほどが新規に増加している。また、一昨年の東日本大震災後は無線通信の有用性が再認識されたためであろう、新規資格取得者はやや増加傾向に転じている。しかし、アマチュア無線を始める年代層を見ると大変心配である。従来は、新規に無線従事者の資格を得るのは中学、高校、大学生が圧倒的に多かったのに対して、現在ではこの層が激減しているのである。
現に、多くの中学、高校、大学において、以前には多くの部員を擁していたアマチュア無線関係のクラブ活動が低調となっており、クラブ活動の組織を維持できないほどに興味を持つ生徒や学生数が減っているのである。筆者自身も高校の時にクラブ活動でアマチュア無線を始めたのであるが、当時は大変活発でクラブ局の制度が出来たときも真っ先に申請してJA1YAKという初期のコールサインを得た経験がある。高校でのクラブ局開設は比較的早かったことから、図2のように当時のCQ ham radioの表紙にもなったものだ。しかし、このクラブ局も10数年前に部員の減少で維持出来なくなったことが顧問の教師から知らされて、現在ではOBで維持している状況である。このような、状況に至っている所が非常に多いと推測できる。
これは、近年の子供達の理科離れに通じるもので非常に由々しき状況である。科学技術に携わる人材の層を厚くする上で、特に中学・高校でのアマチュア無線の再活性化の道を開く必要がある。


図2 CQ ham radio誌の表紙となった高校のクラブ局開設
〔提供:CQ出版社、左端が筆者〕

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