2013年9月号

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テクニカルコーナー

EMEにチャレンジ (3)

編集部

前号まではEMEの受信方法について説明しました。今号ではいよいよ送信方法について説明します。EMEのQSOは大別して2通りの方法があります。1つはスケジュールを組んでQSOにトライするスタイルのスケジュールQSO、もう1つはCQを出している局を見つけてコールするか、あるいは自局がCQを出して相手から呼んでもらうスタイルのランダムQSOになります。

かつてまだWJSTが存在せず、CWによるQSOが主流だった頃は相応の設備がないとランダムQSOは難しかったため、小規模設備の局はスケジュールQSOを行うのが一般的でした。しかし現在ではスケジュールQSOもまだまだ行われていますが、ランダムQSOの方が主流になってきています。これにはインターネットの普及も大きく関わっています。

7月号で紹介した2つのページ(JT65 EME Link by NØUK、Live CQ)を閲覧しているだけで、その時間にどこの周波数でどんな局がCQを出しているかがすぐに分かります。そのためわざわざスケジュールを組まなくても、容易に受信にトライすることができ、もし受信に成功したら、QSOにトライみるという流れになってきています。今号ではまず50W出力でQSOにチャレンジすることを前提に説明します。

相手を選ぶ

50W出力でQSOを成功させるには、微弱な信号を受信できる良い耳をもったビッグガンを相手に選ぶことが重要になります。現在ではアンテナが16八木(八木アンテナが16本)以上の局が概ねビッグガンに該当します。また8八木の局ともQSOできるチャンスはあります。相手局の設備については、JT65 EME Link by NØUKに出てくる局なら、多くの場合、コールサインの後ろに自局の使用アンテナと送信出力を表示しているのでそれで判断できます。

たとえば、「16X13/1KW」という表示であれば、「13エレの16スタックに出力1000W」という意味になり、「8X17/1500」という表示であれば、「17エレの8スタックに出力1500W」という意味になります。選ぶ相手の目安として、8八木以上の局がCQを出している場合は、優先して受信にトライしてみて下さい。コンディション次第では4八木や2八木の局を受信できることもありますが、強力に受信できないとこちらからの50Wの電波は届かないため、QSOにトライする場合、強力な信号を送ってくる相手を選ぶことが重要です。

QSOできるかどうかの目安

JT65モードでは相手局の信号がS/Nで表示されるため、この数値の大小によって相手局の信号強度が容易に把握できます。相手局の信号が受信できた場合は、その局の信号強度、ならびにその局の送信出力から、自局の電波が届くかどうかが計算によってある程度判明します。たとえば、自局が50W出力とすると、1kW出力の局との出力差は13dBになります。そのため、1kW出力の局のCQがS/N -20dBでこちらに入感した場合、電力差が13dBなので、単純計算するとこちらの電波は相手局にS/N -33dBで届くことになります。しかしS/N -33dBでは、JT65Bのデコード限界値であるS/N -32dBより弱いため、相手局ではデコードできないという計算になります。

このことから、電力差が13dBの場合は、相手局がS/N -19dBより強くないと届かない計算になります。ただしS/N -19dBの場合、相手側では-32dBのギリギリなので、届いたとしてもデコードできない確立の方が大きくなります。高確率でデコードできるS/Nは概ね -28dB程度のため、この信号強度で相手局に届かせるためには、相手局の信号がS/N -15dBでこちらに届いていればOKという計算になります。

このレベルが目安と考え、50W出力でトライする場合は、相手局が1kW出力の場合はS/N -15dB以上入感するとQSOできるチャンスが高くなります。なお、相手局が500W出力の場合はS/N -18dB程度でよく、逆に相手局が2kW出力の場合はS/N -12dB程度で入感している必要があります。ただし、これはあくまでも机上の計算値であり、実際には様々な要因(偏波回転等によるコンディションや、両局の周辺ノイズの状況など)によって、計算値より弱い信号でもQSOできる事もあれば、計算値よりかなり強力に入感しても届かないこともあります。


(写真1) S/N-12dBの強力なCQが入感した例。

相手局をコール

7月号の「WJSTの設定」の項で説明した送信を制御するCOMポートの設定やサウンドデバイスの選択が完了しているものとして話を進めます。またPCの内蔵時計の誤差が±1秒以内であることを確認しておいて下さい。すでにHF帯などでWJSTを使ったJT65モードの運用経験をお待ちであれば、基本的な要領は同じになりますが、EMEではS/NレポートではなくTMOレポートを送出しますので、ひと通り説明します。

JT65モードでのQSOは、まずTx 1st(偶数分送信)かTx 2nd(奇数分送信)を決める必要があります。相手局が偶数分でCQを出している場合(Tx 1st)は自局をTx 2ndに設定、相手局が奇数分でCQを出している場合(Tx 2nd)は自局をTx 1stに設定します。なお、東側に位置する局がTX 1stを使用することが推奨されているため、自局より月が東側にある場合はTx 2nd、自局より月が月が西側にある場合はTx 1stを使用するのが目安とはなりますが、現実的には1st 2ndを自由に選択している局が多いのが現状です。


(写真2) Tx Firstにチェックを入れると自局がTX 1stになる。(チェックを外すとTX 2nd)

この状態で、「Auto is Off」ボタンをクリックして、「Auto is On」(赤色)に変えるとスタンバイOKとなり、(Tx 1st設定の場合)ボタンをクリックしたのが偶数分の0~48秒の間であれば、即座に送信状態になります。ボタンをクリックしたのが奇数分であれば、次の偶数分の0秒になると同時に送信がスタートします。右下の緑色の「Receiving」が黄色の「(例) Txing: 9X0EME JA3YUA PM74」に変わり、トランシーバーが送信状態になればOKです。


(写真3) 送信中の表示例。

もし緑色の「Receiving」が黄色の「Txing: 9X0EME JA3YUA PM74」に変わっても、トランシーバーが送信状態にならない場合は、COMポート設定、使用しているインターフェース、無線機への配線などを確認して下さい。またトランシーバーが送信状態になってもパワーが出ない場合は、AF系の配線の確認およびPCのスピーカー出力がオフになっていないかを確認。もし無線機からパワーが出ていても弱い場合は、PCからのスピーカー出力のレベルを確認し、調整を行って下さい。

無線機は0~48秒に送信した後、自動的に受信戻ります。次の1分間は受信時間ですので送信にはならず、0~50秒(約2.5秒間のディレー含む)に受信した後、51~60秒の間にデコードして結果を表示します。(参考: PCの性能が高いほど、デコードにかかる時間は短い) 50Wでコールした場合、ほとんどの場合は相手局からの応答がなく、相手局はCQを出し続けるか、競合した他局にコールバックする状況になりますが、これは(出力差から)あたりまえ、と考えて下さい。

アピール

計算だと行けるはずなのに、相手局から応答がないのは理由があります。最大の理由は、こちらのコールサインとグリッドロケーターが相手局のcall3.txtファイルに入っていないために、相手局には辛うじて(例S/N=-28dBレベル)こちらの電波が届いていても、相手局のディープサーチデコーダーでデコードできないからです。

そこで、EMEを成功させるためのステップとして、コールしている相手局に対して、自局がコールしていることを伝えることが必要です。JT65 EME Link by NØUKにログインし、「今貴局をコールしている」意を伝えると、相手局はこちらのコールサインとグリッドロケーターを自分のcall3.txtファイルに即座に登録してくれます。この操作が行われることで以後S/N -32dBまでデコード可能となり、こちらの電波を拾ってもらえる可能性が格段にアップして、QSOに繋がります。

当初から大規模設備で挑む場合を除き、ビギナーのうちはCQを出している局をこっそりとコールしてもQSOに至る確立は極めて少なく、自局のコールがWSJTの最新版に包含されるcall3.txtファイルに掲載されるまでは、相手局にこの様なアピールを行わないとQSOを成功させるのは難しいとお考え下さい。

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