2016年7月号

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テクニカルコーナー

9.6V/3300mAhニッケル水素バッテリーの運用テスト

編集部

HF帯の無線機を使って、入手容易な市販のニッケル水素バッテリー(組電池)を空になるまで使用すると、実質どのくらいの時間を運用できるのか興味がありましたので、5月29日(日)に実験を行いました。今回はその様子をレポートします。

今回使用したのは、ホビー用として市販されている9.6V/3300mAhのニッケル水素バッテリーで、主に電動ガンで使用するものです。9.6Vのバッテリーは1.2Vのセルを8個直列に接続してパッケージングしたもので、概ね容量1000mAhから5000mAhのものが市販されています。当然ながら容量が多くなるほど価格が上がります。今回はコストパフォーマンスに優れた3300mAhのものを使用しました。現在5000円程度で入手ができます。


9.6V/3300mAhのニッケル水素バッテリー

使用した無線機はアイコムのIC-703で、この無線機は9.6Vでも正常に動作します。ただし12Vを供給すれば10W出力が可能ですが、9.6Vの供給だと出力は自動的に5Wに低減されます。そのため5Wでの運用を余儀なくされますが、10Wも5WもHFでバンドがオープンしていれば大差はないだろうと考えてよしとしました。運用前には専用充電器でバッテリーをフル充電状態にしておきました。それから、事前にバッテリー側と無線機側の電源コネクタを合わせておく作業は必須です。

アンテナには、この実験で使った全長約1mのホイップアンテナを使用しました。ただし、今回は無線機直づけではなく、車の屋根にマグネット基台を使って取り付けました。基台がマグネット式なので、HF用のアンテナを使用するにはアース配線が必要となりますが、今回は市販のマグネットアースシートでアースの代用としました。しっかりとしたボディアースに比べると若干効率が下がるかもしれませんが、これでよしとしました。


アンテナ設置にはマグネット基台とマグネットアースシートを代用
(奥に見えるのは車両に標準装備されているラジオ用受信アンテナ)

ちなみに今回の運用場所は沖縄県豊見城市です。アンテナを車の屋根に取り付け、無線機を車のリアシートに設置し、隣に置いたロギング用(交信ログ入力用)のパソコンを立ち上げ、いよいよ運用のスタートです。まずは28MHzをワッチしたところ、Eスポが発生しており本州の局が強力に聞こえます。ひょっとするとと思ってアンテナを50MHzにセットして、50MHzをワッチしたところ関東の局が聞こえました。そのため50MHzから運用をスタートすることにしました。今回の運用モードはすべてCWです。

1245j(以下のjはすべてJST)にCQを出しましたが、なかなか応答がありません。Eスポが発生しているとはいえ、さすがに5Wでは弱いかなと思いながらも、50MHzの場合はアンテナ長が1/4λのフルサイズに近く、Eスポなので反射していないハズはないと信じ、CQを出し続けること約3分、ようやく神奈川の局から応答がありました。その後4局とQSOしたところで、またCQ連発になってしまいました。この時はまだEスポの電子密度が十分ではなかったようです。1300j過ぎまで50MHzでCQを出し続けましたが、その間地元沖縄の局から1局呼んでもらっただけで終わりました。約20分間の運用で合計6QSOでした。まあ5W出力なのでこんなものかなと思いながら、28MHzに降りることにしました。

アンテナコイルのタップ位置を28MHzにセットして、28MHzでCQを出しました。すると28MHzはビッグオープン中ですぐにパイルアップになりました。5W出力でもEスポ層がしっかりと電波を反射して本州まで送り届けてくれているようです。1304jから28MHzの運用を始め22分間で、58局とQSOできました。交信エリアは日本の1~0の全エリアと中国の1局を含みます。後日調べたところ、1309j-1324jの15分間で28MHz CWによるAJDが完成しており、沖縄県からEスポ運用の威力を改めて感じました。


アンテナ全景 (豊見城市にて)

あまりにも28MHzが好調なので、28MHzが途切れた機会にもう一度50MHzをのぞいてみることにしました。アンテナを50MHzにセットしてワッチすると先ほどより強力にオープンしていました。すぐにCQを出したところ、今回は50MHzでもパイルアップになりました。1331j~1345jの15分間で31局QSOできました。ただし、さすがに50MHzでは全エリアという訳にはいかず、1エリアを中心としたQSOとなりました。1345j以降はいくらCQを出しても応答が来なくなったので、まだ運用していない21MHzにQSYすることにしました。

アンテナを21MHzにセットし、1352jから21MHzの運用をスタート。再び快調に呼ばれ始めました。それでも10分もするとCQ連発となりました。この日は高いバンドまでオープンしているため、多くの局が上の方のバンドを運用している様子です。そのため、24MHzにトライしてみることにしました。しかしこのアンテナは24MHzには対応していません。試しに21MHzのセッティングのまま、IC-703の内蔵チューナーを動作させたところ、幸運にも同調してくれました。

アンテナそのものは24MHzには同調しておらず、チューナーの回路で無理矢理同調させた状態なので効率は悪そうですが、とりあえず電波は出せる状況です。CQを出したところうれしいことに応答があり、その後も予想に反して快調に呼ばれました。もう一度28MHzを運用し、最後にもう一度50MHzを運用しました。50MHzはまだまだ強力にオープンしており、結果的に合計3回の運用で、8エリアを除く全国9つのエリアとQSOすることができました。

ここまでの約2時間の運用(アンテナのセッティング切り替え時間などを除く)で、交信局数は211局となりました。ニッケル水素バッテリーはまだ持ちそうです。そのため、50MHzまで反射するEスポがオープンしている間に、もう一箇所別のところから運用しようと思い、隣の糸満市に車を移動させました。

糸満市に到着後、さっそく1524jから50MHzから運用します。しかし、Eスポが少し弱くなっていました。CQを出してもパラパラ呼ばれるだけで、豊見城市の後半のようなパイルアップにはなりません。CQが5~6回空振りとなったら、順次下のバンドに降りることにして、その後28MHz、(強制同調で)24MHz、21MHzと降りながら、QSOを続けました。どのバンドもある程度呼ばれますので、Eスポが継続していることは間違いありませんが、電子密度が薄くなってしまったような感じです。1610jに強制同調で18MHzを同調させようと思ったところ、バッテリーの電圧が9Vを切っており、低電圧のために内蔵チューナーが起動しなくなりました。そのため18MHzでの運用をあきらめ、アンテナを14MHzにセットして14MHzを運用しました。

この頃にはバッテリーの電圧が下がったため、無線機のパワーメーターで見ると2~3W位しか出ていません。1620j頃に14MHzでもCQが空振りの連続となったのでここで一旦運用を終了しました。ここまで、糸満市で77局と交信し、豊見城市での211局と合わせると288局となりました。

最後に、ちょうどこの日に開催されていたCQ WPX CWコンテストで呼び周りを行うことにしました。しかし、このアンテナと出力2~3Wでの海外とのQSOはCWでも容易ではなく、なかなか電波が届きません。結局2局とナンバー交換できましたが、かなり電気を使ってしまったため、バッテリー電圧がさらに下がり、3局目となる中国の局とのナンバー交換の送信中に電源が落ちてしまいました。自動復帰はしましたが、起動時に電圧が表示されるので、目視確認したら8.0Vまで下がっていました。再度この中国の局にNRを送ってみましたが、送信したらまた電源が落ちましたのでこれが限界と判断し、この局とのQSOをあきらめて運用を終了しました。時刻は1641jでした。糸満市での運用時間(アンテナの設定切り替え時間などを除く)は、約1時間でした。

その結果、今回使用した9.6V/3300mAhのニッケル水素バッテリーで、CW 5W出力でののべ運用時間は約3時間という結果となりました。(電圧降下とともに終盤の出力は減少しています) 交信局数は、豊見城市で211局、糸満市で79局の合計290局という結果でした。

仮に5000mAhのバッテリーを使用した場合は、CW 5Wなら4時間以上運用できそうです。またCWよりも平均消費電流の少ないSSBであれば、さらに長時間の運用が可能だと思われます。

交信局数については、コンディションに大きく依存しますので、簡単に計算で算出できるものではなく、今回の290局という結果は、Eスポが好調にオープンした場合のひとつの目安として捉えていただければと思います。もちろん優れた運用技術をお持ちの方なら同じコンディションでももっと多くの局と交信できるでしょうし、逆にコンディションが悪ければ、達人をもってしても交信局数は減少することでしょう。

今回は8本組みの9.6Vのニッケル水素バッテリーを使用しましたが、10本組みの12Vタイプも市販されています。12Vのバッテリーであればほとんどの無線機で使用可能だと思います。ニッケル水素電池は鉛シールドバッテリーと比べて軽量で、この程度のサイズなら担ぎ上げでの山岳移動も楽しめるのではないでしょうか。

最後になりましたが、ニッケル水素バッテリーの使用にあたっては、バッテリーに付属する取扱説明書を必ず熟読された上で、安全な方法でご使用下さい。

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