2013年8月号
連載記事
移動運用便利グッズの製作
JO2ASQ 清水祐樹
第5回 50MHz 軽量HB9CVアンテナ
小型で性能の良いアンテナの一つにHB9CVがあります。これは約1/2波長の2本のエレメントを約1/8波長の間隔に設置し、お互いのエレメントで誘起した信号を逆位相に給電する構造で、エレメント間隔を1/4波長にする2エレメントの八木アンテナよりも、コンパクトで高い利得が得られる特徴があります。
今回は、50MHz用のHB9CVをできるだけ軽く、組み立ての手間が省けるように工夫した制作例を紹介します。移動運用で使用している様子を図1に示します。また、分解すると図2のようになり、コンパクトに収納できます。軽量であるため、1本のポールに逆V型ダイポールアンテナやモービルアンテナと共存して設置することも容易です。
図1 移動運用で使用している様子
図2 分解したところ
構造
構造を図3に示します。2本のエレメントに逆位相に給電するように、2本のエレメントをフェーズラインと呼ばれる平行線(フィーダー線)で接続したもので、平行線の1本はエレメントの中央で共通、もう1本の給電位置は2本のエレメントで左右を逆にした「ガンママッチ」と呼ばれる方式で接続しています。フェーズラインは、テレビ用の200Ωフィーダー線を、ショートバーの接続には目玉クリップを2個接続したものを使いました。目玉クリップは挟む部分の幅が30mmのもので、つまみの部分に開いている穴を3mmのビスとナット、ワッシャーで連結すると、4cmの間隔で2本のアルミパイプを並列に接続できます。
図3 全体の構造。配線が分かるように給電点とコンデンサは拡大して示してある。実際には最短距離で配線する。
給電点にはコンデンサを直列に接続します。コンデンサの容量は、「アンテナ・ハンドブック(CQ出版社)」の製作例によると20pF×3となっていますので、47pF 2kVの固定コンデンサと20pFのトリマコンデンサを並列にしました。実際に使ってみたところ、トリマコンデンサは容量最大に固定した状態、つまり67pFで特に調整を必要とせずに動作しています。
軽量化のために、素材を軽量化することと、ネジなどの金属部品をできるだけ使わない構造を考えました。素材として、ブームは木材、ブームの固定にはアクリル板、エレメントにはアルミパイプを使用しました。エレメントの固定は「ナイロンサドル」を用いました。これは壁面に同軸ケーブルなどを固定するために用いる、プラスチック製の弾力性のある部品です。2個の穴のうち一つをネジで固定することで内径に合うアルミパイプを挟むことができ、工具を使わず簡単に着脱できる利点があります。挟む部分が1/4インチのサイズのものを使いました。
アルミパイプは1mの長さで、外径8mm、肉厚1mmのアルミパイプの両端に、外径6mmのアルミパイプを差し込む構造です。太い側のアルミパイプに切り込みを入れ、細い側のパイプ先端側面から飛び出している木ネジの頭を引っ掛けて固定する構造です。差し込んだだけでは周囲の物体との接触等により脱落する可能性があります。そこで細い側のパイプを回して引っ掛けることで脱落を防ぐようにしました。Uボルトを固定する部分も木材(ベニヤ板)を使い、ブームとU ボルト固定部分はL金具で固定しました。
製作方法
木製ブームに目玉クリップ、ナイロンサドルを付けたアクリル板(厚さ3mm、幅1.5cm、長さ10cm)を木ネジまたはビス・ナットで取り付け、フィーダー線、コンデンサ、コネクタ(給電線)を配線します(図4)。目玉クリップと各部分の配線は、ネジ止めした部分に卵ラグを挿入してハンダ付けしました。コネクタはアルミ板にM-BRを取り付け、ブームにビス止めしました。なお、木ネジを使った場合、ブームの木材が割れて木ネジが抜け落ちることがあるため、接着剤を併用すると確実です。
図4 ナイロンサドルとアクリル板の取り付け(左図:放射器側、右図:反射器側)
アルミパイプの加工寸法を図5、連結部分の構造を図6に示します。8mmのアルミパイプの両端には切り込みが入っており、6mmのアルミパイプの一端にはネジの頭が飛び出しています。図6の下に示す6mmのアルミパイプの内部には木の丸棒が埋め込んであり、それによって木ねじを留めています。その加工方法を図7に示します。切り込みを入れる部分に沿ってケガキ針またはアクリルカッターで傷をつけます(溝を彫る)。2.5mmのドリルで溝に沿って連続した穴を開け、精密ヤスリを使って穴をつなげて整形します。精密ヤスリは高級品であれば申し分ありませんが、100円ショップで市販されている安価な製品でも十分です。ヤスリの使用後はワイヤーブラシで切り粉を取り除き、ミシン油を塗っておきます。
図5 アルミパイプの寸法(長さ指定の無いアルミパイプは全て100cm)
図6 エレメント連結部分の構造
図7 アルミパイプの接続部分の加工方法
細い方のアルミパイプの接続部は、アルミパイプの内側にぴったり合うような木または竹の棒を差し込み、パイプの側面に穴を開けて太さ2mm程度の木ネジを差し込みます。木または竹の棒は割れやすいので、キリで小さな下穴を開けておき、瞬間接着剤で固めるとよいでしょう。 給電部の目玉クリップとM-BRコネクタは、1.5D-2Vの同軸ケーブルで接続し、トロイダルコア(FT-114#43)に2回巻きのバランを挿入しました。 (図4左図)
調整
調整は中心周波数(例えば50.3MHz)でSWRが最小になるようショートバー(目玉クリップ)の位置を動かします。ショートバーを給電点に近づけるとSWR最小の周波数が低くなります。どうしても希望の周波数に合わない場合は、放射器の長さを調整するか、給電点のコンデンサの容量を調整してみます。インピーダンスが測定できるアンテナアナライザを使うと調整が容易です。
エレメントの差し込みの組み合わせは、色テープなどで識別できるようにしています。私は放射器は赤色、反射器は青色としています。エレメントの先端は、丸く削って熱収縮チューブをかぶせ、周囲の物体に傷を付けないようにしています。ブームの前方下面には光を反射するテープを貼り付けました。これは夜間に懐中電灯で下から照らすと、ビーム方向を確認できるようにする工夫です。収納時はブーム部分を除き、市販の「すだれ収納袋」に入れています。また移動運用で持ち運ぶ際には、他のアンテナと一緒に釣竿収納バッグに入れています。
使用感
このアンテナは、メーカー製のアンテナと比較してF/B比が小さい、つまりバック方向にも利得を持つ特徴があります。これは1mのアルミパイプを前述の方法で接続するため、エレメントの長さに上限があり、F/B比を上げるには設計上の制限があるためです。使用するアルミパイプの長さに制約が無ければ、修正は可能です。ところが、愛知県で使っている限りでは、バック方向に利得を持つことが利点になると感じました。コンディションが良ければ、アンテナを回さなくても、1エリアと3エリア、または8エリアと6エリアが同時に入感します。アンテナの使いやすさは、フロントゲインだけでなくビームパターンも関係しており、自作のアンテナではその違いを楽しめることを実感しました。