2013年11月号

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連載記事

移動運用便利グッズの製作

JO2ASQ 清水祐樹

第8回 ダイポールアンテナ用バラン

ダイポールアンテナなど平衡型のアンテナに、不平衡型である同軸ケーブルを用いて給電する場合、バランと呼ばれる装置を介して接続します。市販品のバランは、バランとアンテナのエレメント(ワイヤー)を接続する部分が複雑な構造になっています。電気的な接続をネジ止め式の端子で行い、それとは別にエレメントの張力を支える固定部分を設けてあります。そのため、エレメントには張力を支える固定部分の加工が必要となります。移動運用で断線等のトラブルがあった場合、修理するために専用工具が必要となる可能性があります。

固定局での使用を考えて作られているバランは、一般に耐電力が大きく、大型で重くなります。移動運用では耐電力の上限は50Wで済むので、これに合わせた小型軽量のバランで十分です。移動運用で使うバランにおいて、バランとポールをUボルトで固定する方式は、固定用のナットを締めつける手間がかかります。

以上の理由により、移動運用において市販品の(固定局用の)バランを使うと、いくつかの不都合を感じました。それらを解決するため、食品保存用のポリエチレン製密閉容器を使った移動運用専用のバランを考案しました(図1)。


図1a 正面から、フタを外したところ


図1b 側面


図1c 伸縮ポールへの取り付け部分

このバランは、市販のバランと比較して、次のような特徴があります。
1. 小型軽量
2. 設置の際に工具が不要
3. エレメント(ビニル線)に特別な加工が不要
4. 伸縮ポールの先端にも、中間にも取り付けられる

概要

食品保存用のポリエチレン容器(サイズ80×60×30mm)に、トロイダルコアで作ったバランを組み込んだものです。容器の側面にM-BRコネクタを取り付け、この面を下にして同軸ケーブル(3D-2Vまたは5D-2V)を接続します。同軸ケーブルは、コネクタに直接荷重が掛からないように、コネクタの数10cm下で少し緩めた状態で、マジックテープ式の束線バンドで伸縮ポールに固定します。容器の側面には、水道用の塩ビパイプを加工して作ったC型のクランプを取り付けました(図2)。


図2 上から見た図

クランプの内径は使用する伸縮ポールの最上段の外径よりも大きく、クランプの開いた部分の幅は伸縮ポールの最上段の外径よりも小さく作ってあります。このクランプは、塩ビパイプを熱湯で加熱して変形させ、伸縮ポールにピッタリと取り付けできるサイズに加工しました。クランプの上端に止めネジを取り付けることにより、伸縮ポールの先端にバランを取り付けることができます(図3)。伸縮ポールの中間部分に挟み込むと、伸縮ポールの上端に八木アンテナなど別の種類のアンテナを取り付け、ダイポールアンテナを支線の代わりとして使うことが可能です。


図3a 伸縮ポール先端への取り付け方法。ストッパーのネジを取り付ける。


図3b 伸縮ポール中間への取り付け方法。伸縮ポールが細い場合は、塩ビパイプに開いている2つの穴に紐または針金を縛り付ける。

このクランプは、取り付けがワンタッチで工具を必要としない一方で、伸縮ポールの直径が異なる場合に対応できない欠点もあります。伸縮ポールが細過ぎる場合は、図3に示すクランプ上端の2つの穴に、紐または針金を通して固定します。

ダイポールアンテナのエレメントは0.75mm²の平行ビニル線(ACコード)を1本ずつに分割して使います。ポリエチレン容器の側面に、ビニル線の外径と等しい幅のL字型の切り込みを入れ、端に結び目を作ったビニル線を差し込み、結び目を容器の内側に引っ掛けて固定します(図4)。ビニル線の端は、結び目があるのみで、特別な金具等を付ける必要はありません。そのため収納時に引っ掛かることが無く、扱いが容易です。(ただし、写真ではビニル線の端に平型端子を取り付けています)。収納には第6回でご紹介した巻き取り器を使っています。


図4 側面の切り込み(拡大図)

バランをビニル線に接続する部分において、ビニル線の被覆は軟らかいポリエチレンと接触するために被覆に傷が付きにくく、運用中にこの部分で断線したことは一度もありません。1.9MHzの1/2波長ダイポールアンテナ(片側エレメントが約40m)を取り付けて強い張力で引っ張っても、ビニル線は外れませんでした。それでありながら、工具を使わずにビニル線を簡単に着脱できます。

製作方法

製作の要点は、塩ビパイプ製クランプの加工、ビニル線を固定する切り込みの加工、M-BRコネクタの取り付け穴の加工、バランの配線、です。

クランプの加工は、水道用塩ビパイプ(VP25、内径25mm)を長さ35mmに切り、側面の一部を伸縮ポールの直径(30mm)より狭い幅で切り取ります。塩ビパイプは一般金属用の金ノコで切断できます。塩ビパイプを熱湯で加熱して変形させ、伸縮ポールの直径に合うようにします。「鍋焼きうどん」などの容器として使われているアルミ箔製の使い捨て鍋で塩ビパイプを煮沸して取り出し、成型した後に水冷する工程を数回繰り返しました。この時、熱湯に直接触れて火傷しないように、ゴム手袋を使ったり、乾いたタオルで塩ビパイプを巻いて作業したりするなど、十分に注意してください。

クランプとポリエチレン容器は、長さ5mmのスペーサーを入れてネジ止めしました。クランプの内側にネジの頭が出ないように加工しています。切り込みの加工は、カッターナイフ等で切り込みの部分に傷を付けておき、2.5~3mmのドリルで連続した穴を開けた後、カッターナイフで穴の周囲を削ってつなげることで成型しました。M-BRコネクタを取りつける穴は、リーマーで加工しました(図5)。コネクタのアース側の配線は、3mmのビス・ナットおよび卵ラグを使いました。


図5 コネクタの配線

バランの種類には、強制バランとフロートバランの2種類があります(図6)。アンテナが非対称の場合はフロートバランが適している(「トロイダル・コア活用百科」山村英穂著、CQ出版社)ので、ここではフロートバランを採用しました。動作原理等の解説は本稿では省略します。バランに用いるトロイダルコアはFT-114-43と呼ばれる型番で、これに2本撚り合わせたビニル被覆線を7回巻きます。バランは出力電力が大きい場合に発熱するので、可能ならば耐熱性のあるビニル被覆線を用います。ビニル被覆をハンダごてで加熱すれば耐熱性の見当が付きます。被覆線の片側はM-BRコネクタにハンダ付け、他方は小型のミノ虫クリップを取りつけ、エレメントに接続します。


図6 バランの構造。今回はフロートバランを採用した。

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