2014年9月号

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連載記事

移動運用のオペレーションテクニック

JO2ASQ 清水祐樹

第6回 電波がよく飛ぶ運用場所の選び方

電波がよく飛ぶ場所と聞いて、どんな場所を連想しますか?
山の上、海岸、湿地など…。それらは「高い所」と「周囲に何も無い、開けている場所」に分類できます。電波がよく飛ぶために、どちらの場所が有利かは、周波数帯によって違います。それは電波の伝搬の性質が、周波数によって異なるためです。
今回は、電波がよく飛ぶ運用場所の選び方について解説します。

HF帯における運用場所の選び方

HFの電波は、上空の電離層で反射して、見通し距離外の遠方に到達することを第1回で解説しました。電離層反射が起こる場合の、アンテナからの電波の打ち上げ角を図1に示します。到達距離が同じであれば、F層は高度が高く、電離層反射が起こる場合の打ち上げ角は大きくなります。E層は高度が低く、打ち上げ角は小さくなります。

また、電離層の高さが同じ場合は、電波が遠距離に到達するほど打ち上げ角が低くなります。
打ち上げ角が小さい場合、地上にある建物や山などの障害物に電波が遮られる可能性が高くなり、電離層に到達する電波が弱くなります(図2)。実際には、HFの電波は地面に沿って伝搬したり、障害物の裏側に回り込んだりする性質があるため、完全に遮られることは少ないと思われます。


図1 電離層反射と電波の打ち上げ角との関係。到達距離が同じ場合、F層反射は打ち上げ角が大きく、E層反射は打ち上げ角が小さい。


図2 打ち上げ角が小さい場合、電波が電離層に届くまでに、地上の障害物に電波が遮られることがある。

F層反射は昼間の14MHzなど、E層反射は夜間の3.5MHzなどが主な対象となります。7MHzではコンディションによってF層反射の場合とE層反射の場合があります。この性質から、電離層反射による交信を狙う場合、
・近距離交信で打ち上げ角が高ければ、周囲に障害物があっても影響を受けにくい
・F層反射で遠距離交信を狙う場合、およびE層伝搬が主体の1.9MHzや3.5MHzは、周囲に障害物が少ない場所が有利といえます。ただし、近距離の場合は電離層反射だけではなく、地表に沿って電波が伝搬することもあるので、それに対する地表の障害物の影響があります。

山間部の「道の駅」で運用している7MHzの信号が日本全国に到達するのは、主にF層反射で打ち上げ角が大きく、周囲の山などの影響を受けにくいため、と考えられます。

ローバンドの短縮アンテナを使う場合の運用場所
移動運用向けの1.9MHzや3.5MHzの短縮ホイップアンテナが販売されています。これを使った方から「電波がよく飛ぶ時と、飛ばない時の差が激しい」と感想を伺ったことがあります。第一の理由として、全長が短いためアンテナの利得が低く、送受信の性能が長いアンテナに比べて劣ると考えられます。他の理由として、アンテナの打ち上げ角が小さく、周囲の障害物の影響を受けやすいことが挙げられます。これは周囲に障害物が無い場所で運用することで改善できます。

ダイポールアンテナなど水平型のアンテナの場合、一般に図3左のように電波の打ち上げ角が大きい側に指向性を持ちます。垂直型のアンテナの場合、図3右のように電波の打ち上げ角が小さい側に指向性を持ち、上方には電波が放射されません。垂直型アンテナで最も放射が強くなる打ち上げ角は、例えば7MHzの1/4波長アンテナで約25°です(筆者のシミュレーションによる)。ですから、垂直型アンテナを設置する場所は、周辺に障害物が少なく、その仰角が例えば25°より十分に小さい場所が望ましいと考えられます。


図3 水平型アンテナと垂直型アンテナの指向性の概念図。黒色がアンテナ、青色の矢印が電波の方向と強さを示す。

仰角の簡易測定法
運用場所の周辺に山や建物がある場合に、道具を使わずに、おおよその仰角を求める方法があります。手の親指と人差し指を上下に広げ、腕をいっぱいに伸ばして親指の先を目の高さと同じにすると、人差し指の先が約15°になります(図4)。測量機器の傾斜計を使うか、大きな紙に角度の目盛りを書くかの方法で、自分がこの動作をした時の角度を測っておくとよいでしょう。


図4 角度の目測方法。手の親指と人差し指を上下に広げ、腕をいっぱいに伸ばして親指の先を目の高さと同じにすると、人差し指の先が約15°になる。

VHF/UHFにおける運用場所の選び方
VHF/UHFの電波は、基本的には見通し距離に伝搬するため、高い場所ほど到達距離が延びます。多くの局と交信するには「町の明かりがたくさん見える場所」が有利になります。そのような見通しの良い場所は、車両や歩行者の通行が制限されていたり、他の利用者がいたりして、無線に適した場所とは限りません。地図で地形を確認するだけでなく、現地の状況について情報収集が重要になってきます。

山の上から運用したけれど、ある特定の方向には電波の飛びが良くないことに気付く場合があります。それは木の葉による遮蔽効果かもしれません。VHF/UHFの電波は木の葉を通さない、と覚えておきましょう。木の葉の影響を避けるようにアンテナを配置します。


図5 VHF/UHFの電波は木の葉を通さない

木の葉による遮蔽効果は、衛星からの電波を受信することで分かります。衛星の軌道をあらかじめ調べておき、衛星が木の葉の影に隠れると、信号が急激に減衰することが確認できます。

UHF帯における反射の利用
430MHzや1200MHzなどのUHF帯の電波は、建物や山で反射する性質が強いです。利得の高いビームアンテナを反射源に向けることにより、標高の低い場所でも遠距離交信のチャンスがあります。全面ガラス張りの高い建物や、雪に覆われた山があれば試してみましょう。
特に冬季の富士山反射は強力です。筆者は1200MHzで静岡県の海岸付近から富士山頂にアンテナを向けて、本来は電波が届かない見通し距離外の東京都や埼玉県と交信した経験があります。

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