2016年12月号

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My Project/第3回 【ミリ単位を活かす】小さなチップ部品で大きく変わる高周波の世界【アッテネーターとフィルター】

JP3DOI 正木潤一

前回は、チップ部品を使って回路を小さく組むことを提案しました。しかし、チップ部品を使うメリットは回路の小型化だけではありません。チップ部品はリード部品と比較して高周波特性がよいので、電波を扱う回路に向いています。今回は、チップ部品を使って作るアッテネーターとフィルターをご紹介します。

リード部品とチップ部品、高周波特性の違い

電子部品は、寄生パラメーターという隠れた性質を持っています。例えば、抵抗器は、直流抵抗という要素以外にインダクタンス成分(コイルとしての要素)とキャパシタンス成分(コンデンサとしての要素)を持っています。低周波回路では、こういった寄生パラメーターによる影響は無視できますが、pFとかnHという小さな値でも高周波回路では無視できません。そして、周波数が高ければ高いほどその影響が大きく表れます。

また、電子回路は複数の部品によって構成されるので、各部品の寄生パラメーターが蓄積されて大きな特性の違いとして現れることになります。リード部品は寄生パラメーターが比較的大きいため、計算通りの性能が出なかったり、動作が不安定になったりします。一方、チップ部品にはリードが無く、物理的なサイズも小さいので、寄生パラメーターも小さくなります。


リード抵抗の等価回路図(イメージ)

<参考:寄生パラメーターの計算例>
上記の51Ωのリード抵抗には10nHの寄生インダクタンスがあるので、試しに440MHzにおけるインピーダンスを求めてみます。

Zr= R= 51Ω(直流抵抗)
Zl= 2πfL= 2×π×440MHz×10nH= 2×3.14×(440×10^6)×(10×10^-9)≒ 27.6Ω(寄生インダクタンス)

合成インピーダンスZは、
Z= √(Zr^2 + Zl^2)
Z= √(51^2+27.6^2)
Z≒ 58Ω

51Ωの抵抗器として使うつもりが、部品の寄生インダクタンスによるインピーダンスが加わり、440MHzの信号にとっては58Ωの抵抗器になることが分かります。
※厳密には寄生容量の0.2pFも考慮する必要がありますが、計算結果から分かるように寄生インダクタンスが支配的なため、上記の計算には含めていません。

アッテネーターの製作

では、リード抵抗とチップ抵抗をそれぞれ使ってアッテネーターを作り、実際に高周波特性を比べてみます。アッテネーターは入出力インピーダンスと減衰量で抵抗値が決まっているため、定数はインターネット上で広く共有されています。


π型アッテネーターの回路図
(5dBと20dBは参考)

リード抵抗を使った10dBアッテネーター:
ユニバーサル基板に1/6Wタイプのリード抵抗を差し込み、裏面で接続しています。


リード抵抗による10dBのアッテネーター


スペクトラムアナライザーによる測定結果

430MHzバンド付近の減衰量は、-10dBの設計値に対して-12dBとやや大きくなっています。また、500MHzを過ぎた辺りから減衰量がさらに増加しており、1GHzでは-15dB近くになっています。

チップ抵抗を使った10dBアッテネーター:
では、チップ部品を使えばどのくらい特性が改善されるのでしょうか?

例によって、ユニバーサル基板のランドを接続点にして1608サイズのチップ抵抗を実装します。銅箔テープを貼り、ベタアースにした裏面のGNDには、リード抵抗から切り取ったリードをホールに2本ずつ通して接続します。

高周波回路では、GNDのインピーダンスを下げるために、部品点数に関係なくGND面をできるだけ広く取ります。今回は、あとでケースに収めることを考慮してユニバーサル基板を8×4マスに切り取りました。


チップ抵抗による10dBのアッテネーター


スペクトラムアナライザーによる測定結果

430MHzバンド付近の減衰量は-9.56dBと、ほぼ設計値になっています。また、1GHz付近まで減衰量をほぼ維持しています。

より正確な測定データ:
上記の測定結果において、200MHzから700MHzにかけてリップル(波うち)が見られます。これは当局が使っている廉価版スペアナの性能の限界によるものと思われます。正確な特性を確認するため、知人にお願いしてHP社製の業務用スペアナで計測してもらいました。どちらもマーカーの位置は435MHzです。
※縦1目盛りは5dB、横1目盛りは100MHzで、右端が1GHzです。


HP社製スペクトラムアナライザーによる測定結果(左:リード抵抗を使用 右:チップ抵抗を使用)
(クリックで拡大します)

リード抵抗のほうは、600MHzあたりから減衰量が増加し、1GHz手前で-12dB程度になっています。一方で、チップ抵抗のほうは700MHzあたりからリップルが出ているものの、1GHz手前でも減衰量を維持しています。430MHzバンド付近における減衰量(チャート右上に記載)は、リード抵抗もほぼ設計値通りですが、チップ抵抗はピッタリ-10dBになっています。

実のところ、もっと顕著な差を期待していました。1/6Wタイプのリード抵抗でも500MHz以下ならば特性の良いアッテネーターを作れるという、今回の記事の趣旨に反した結果が出ました。

<参考:廉価なスペクトラムアナライザー>
当局が所有するのは、RIGOL社製のスペクトラムアナライザー『DSA815』のトラッキング・ジェネレーター付きモデルです。業務用のスペアナは数百万円もしますが、この機種は破格の20万円台です。業務用よりも精度は劣りますが、自作のフィルターやアンプの目安となる特性データを得ることができます。

DSA815(TG)

430MHzバンド用フィルターの製作

リード部品とチップ部品の高周波特性を比較したところで、(実際に使う機会はあまり無いと思いますが)、430MHzバンドのLPFとHPFをチップ部品で作ってみました。

当局が入手できたチップインダクタが12nHですので、LPFとHPFの両方に12nHを使う前提で容量を設定しました。まず共振周波数からコンデンサの大まかな値を求め、回路シミュレーターで特性を見ながらカット&トライして回路を確定させました。


回路図


シミュレーション結果 (左:LPF 右:HPF)
(クリックで拡大します)

シミュレーションによると、どちらも430MHzバンド付近の通過損失は-1dB以上と高めで、SWRは概ね1.5以下になるようです。

そして、こちらがチップ部品を使って実際に組んだフィルターとその測定結果です。


(左:LPF 右:HPF)


廉価版スペクトラムアナライザーによる測定結果 (左:LPF 右:HPF)
(クリックで拡大します)

より正確な測定データ:
これも知人にお願いしてHP社製の業務用スペアナで計測してもらいました。マーカーの位置は435MHzです。
※縦1目盛りは5dB、横1目盛りは100MHzで、右端が1GHzです。


HP社製スペクトラムアナライザーによる測定結果
(クリックで拡大します)

シミュレーション結果とは異なり、430MHzバンド付近の通過損失(チャート右上に記載)は、どちらも-1dB未満と良好です。このことから、どうやら手持ちのスペアナは1dB程度の計測誤差があるようです。

<参考:無料で使える回路シミュレーター>
今回使用したのは、ANSYS社製のAnsoft Designer SV(Student Version)です。学習用の無料版なので部品点数や解析精度に制限がありますが、電子工作用途には十分です。周波数特性や整合状態などの回路解析が可能です。

基板をケースに収める

チップ部品を実装した基板を10mm角可変コイル(例:10SサイズのFCZコイル)の金属ケースに収めます。こうすることでシールド効果と物理的強度が得られます。リード部品を使うと、これほど小さいケースには収められません。

ケースの側面には予め6mm程度の穴を開けておきます。ケースに収めたあとにハンダとコテ先を穴に挿入してSMA端子の芯線と信号線をハンダ付けします。両端にはフランジ付きのSMA端子を取り付け、ハンディー受信機に直接取り付けられるようにしました。


金属ケースに収めるところ (左: 切り取った黄銅タワシを詰めたところ)

基板のGNDとケースとの導通には、ウール状の『黄銅タワシ』を使いました。適量を切り取って基板とケースの隙間にギュっと詰め込みます。


黄銅タワシ
(コテ先のクリーニングにも使える)

熱収縮チューブを被せると見た目が良くなります。


熱収縮チューブを被せたところ

最後に

高周波回路は、周波数が高くなるほど回路設計が複雑でデリケートになります。電波の飛びと同じように、予想やシミュレーションと合致しないところが面白いです。UHF帯の回路製作に慣れれば、VHFやHF帯の回路製作もスムーズに進められると思います。

今回作成したアッテネーターはARDFなどに利用できます。たいていのハンディー受信機の内蔵アッテネーターは10dBなので、もっと信号を落としたいときに減衰量を組み合わせて使えます。フィルターも、LPFとHPFを繋げれば、やや帯域が広いですが430MHz帯のBPFになります。
※今回製作したアッテネーターとフィルターは受信用です。

<参考:チップ部品の入手先>:
チップインダクタやチップトランジスタを店頭に置いているパーツショップは多くありません。大抵の場合、ネット販売を利用することになります。
※取り扱い品目は変更されることがあります。

・『秋月電子通商』*
http://akizukidenshi.com/catalog/top.aspx
・『鈴商』(ネット販売のみ)*、**
http://suzushoweb.shop-pro.jp/
・『マルツ』*
http://www.marutsu.co.jp/
・『シリコンハウス』
http://eleshop.jp/shop/

*チップトランジスタも取り扱いあり
**チップインダクタも取り扱いあり

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