2013年11月号

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テクニカルコーナー

D-STAR×GPS講座(1)

JK3AZL 高岡奈瑞

はじめに

アマチュア無線の世界でも、GPSを標準装備する無線機が増えてきました。カーナビゲーションや携帯電話などさまざまな製品に利用されているGPSですが、最近ではデジカメやシューズ、登山用ゴーグルにまで内蔵されるほど、利用範囲はますます広がっています。

従来アマチュア無線の世界では、GPSデータのやり取りをパケット通信によって行っていましたが、一般社団法人日本アマチュア無線連盟(以下JARL)が開発したアマチュア無線のデジタル通信方式(以下D-STAR)のデジタルボイスモード(以下DVモード)では、音声通信とデータ通信を同時に扱えることから、GPSデータのやり取りが今まで以上に手軽にできるようになりました。


登山では欠かせないGPS付無線機の例。


GPS付無線機で列車のスピードが「見える!」。

最近では、さらに多機能なD-STAR無線機が登場したり、国内外のアマチュア無線家によってD-STAR用のアプリケーションが作られたりするなど、D-STARを取り巻く環境は進化を続け、楽しみ方も広がっています。このような背景から、D-STARとGPSに関連した話を4回程度の連載でご紹介します。

GPSの基礎知識

GPS(Global Positioning System/汎地球測位システム)は、米国国防総省が軍事用に開発したシステムですが、1996年に民間利用が法的に許可されたことから、航法支援などへの利用が広がりました。しかし、当初は軍事上の理由で民生用GPS向けのデータに故意に誤差を加える操作(Selective Availability、SA)が行われていたため、誤差が100m程もありました。しかし2000年に米国国防総省がSAを解除した後は、誤差が3~10m程度と格段に精度が上がりました。

GPSは、地上約2万Kmの上空に約30個の人工衛星があり、位置情報や時間、暦データなどを含む電波を送信しながら地球の周りを回っています。GPSレシーバーはこの電波を受信して位置情報を算出しますが、地表面の位置を決定するのに最低3個の衛星からの良好な信号が必要、さらに高度を決定する三次元の位置情報を得るには4番目の信号が必要です。


ID-51のGPS情報画面。GPS衛星5個を受信しているため、高度も表示されている。

しかし原理的に高度の精度は、水平方向より悪くなってしまうことと、日本国内の都市部や山間地では高い建物や山などが障害となって4機の人工衛星からの測位信号が届かず、測位結果に大きな誤差が出ることもよくあります。これを補正するため、カーナビゲーションなどでは取得したデータを道路情報データと照らし合わせることで誤差を修正する機能を持っていますが、測量や子どもの見守りシステム、自動運行システムなどでは、測位誤差の改善が大きな課題となっていました。

この問題を解決するため、既存のGPS衛星の補完・補強を目的に、2010年9月、宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)によって準天頂衛星の初号機「みちびき」が打ち上げられました。


準天頂衛星の仕組み(JAXA HPより)


「みちびき」の形状とパーツ(JAXA HPより)

みちびきは日本のほぼ真上を、変則8の字の準天頂軌道で回り、日本の山間部や高層ビル街などでも、GPSで測位できる場所や時間が広がりました。ただし日本の天頂付近に常に1機以上の準天頂衛星を見えるようにするには最低3機の衛星が必要となることから、今後技術実証を進め、その結果を評価した上で第2段階へ進むとされています。

すでに、準天頂衛星に対応したGPS受信機も市場に出回るようになり、今後は準天頂衛星にも対応したアマチュア無線機の登場を期待する一方で、この準天頂衛星システムのLEX(L6)と呼ばれる補強信号が、中心周波数1278.75MHz、帯域幅42MHzを使っているため、これがアマチュア無線の1200MHz帯のほぼ全帯域と重なります。1200MHz帯でのアマチュア無線は二次業務としての割り当てで、運用には「優先される一次業務に有害な影響を与えないことが前提」となっていることから、今後十分に注目していく必要があります。

コールドスタート/ウォームスタート/ホットスタート

GPSレシーバーをはじめて使う際に「位置情報が表示されるまでに時間がかかる」という声をよく聞きます。GPS衛星から送られてくる信号の中には、衛星自身の正確な軌道情報「エフェメリス」と、全衛星のおおざっぱな軌道情報「アルマナック」が含まれており、GPSレシーバーは、アルマナックの情報を元に、受信するGPS衛星を決めています。

はじめてGPSレシーバーの電源を入れる時は、この衛星のおおざっぱな軌道情報すら持っていない(=アルマナックなし)ため、衛星を補足して計算を始めるまでに時間がかかります。これを「コールドスタート」と呼びます。GPS再補足(アルマナック&エフェメリスあり) の場合は「ホットスタート」と呼び、再取得までの時間は短くなります。GPSレシーバーの電源をオフにしても、短い時間であれば再取得までの時間は短くなり、この状態をウォームスタート(アルマナックあり)と呼びます。

ウォームスタートとホットスタートの場合は短時間でデータ取得/位置算出ができますが、コールドスタートの場合はデータ取得/位置算出に時間がかかるため「位置情報表示に時間がかかる」となるわけです。コールドスタートの場合は、GPS衛星からの電波を受けやすい屋外で受信をさせると、一定時間後に位置情報が取得できるようになります。ただしこれにかかる時間は、GPSモジュールによって異なります。最近の機種の多くはコールドスタートでも数十秒程度で位置情報を取得できるものが主流となっていますが、かなりの時間が必要なものもあります。

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