2013年6月号
テクニカルコーナー
HF帯で極めて弱い局と交信するためのJT65の運用テクニック
編集部
ディープサーチデコーダー
(画像6) ディープサーチデコーダーを動作させた例
画像6の07:43のデコード結果は、DB1NWAのCQがS/N-24dBで受信できている。デコード行の末尾の2つの数字1 0は、前の1がリードソロモンデコーダーで解読に成功したことを示し、後ろの0はディープサーチデコーダーで解読に失敗したことを示している。(この時点ではcall3.txtにDB1NWAが登録されていないために、ディープサーチデコーダーは結果を導けていない)
この直後(07:44)に、「DB1NWA JO50」をcall3.txtに手入力で登録した。その結果、07:45のデコード結果は、DB1NWAのCQが-25dBで受信でき、行の末尾が1 10となった。前の1はリードソロモンデコーダーで解読に成功、さらに後ろの10ではディープサーチデコーダーでも信頼度10(最高)で解読に成功したことを示している。
07:47のデコード結果は、DB1NWAの信号が-27dBに下がったため、(行の末尾の前の方の数字が0となり)、リードソロモンデコーダーでは解読に失敗している。しかし、ディープサーチデコーダーでは信頼度10で解読に成功している。すなわち、この信号レベルでは、ディープサーチデコーダーを使用しないとデコードできないレベルになっている事が分かる。
07:49のデコード結果は、DB1NWAの信号が、さらに-28dBまで下がったが、ディープサーチデコーダーでは引き続き、解読に成功している。しかし、信頼度は7に下がっていることを示している。リードソロモンデコーダーしか搭載していない「JT65-HF」で受信すると、07:45まではDB1NWAのCQがデコードできるが、07:47以降はもうデコードできない事になる。
(画像7) ディープサーチの信頼度が4でデコード結果に「?」が付いた例
Call3.txtへの相手局の登録方法
「WSJT」がもともと持っているコールサインリスト(call3.txt)に掲載されている局は、VHF帯以上でアクティブな局が中心である。受信している微弱信号がすでにリストアップされている局であれば、ディープサーチをオンにしておくことで、Min.-32dBまでデコードするが、HF帯しか運用していない局などはリストアップされていないため、ディープサーチが効かず(参照するリストに当該局のコールサインがリストアップされていないために比較ができない)、そのため、ユーザーが自分でリストに追加入力する必要がある。
直接call3.txtをエディターなどで編集する方法ももちろん有効だが、通常は下記のように行う。
1. To radio: のところに、相手局のコールサインを入力
2. Grid: のところに、相手局のグリッドロケーター(4桁もしくは6桁)を入力
3. Addボタンをクリック
4. 「Is this station known to be active on EME?」 と表示されるので「No」をクリック
以上で、その局がcall3.txtに追加される。
(画像8) 前述のDB1NWAのCQを受信直後に、「DB1NWA JO50」をcall3.txtへの登録した例
ディープサーチデコーダーの活用方法
仮に下記の様にデコードした場合、
奇数分 103100 5 -15 0.1 -100 3 * 9G5EME 5W0M AH36 1 0
偶数分 103200 0 -28 0.0 -101 5 * (デコード結果は出ず)
奇数分 103300 4 -16 0.1 -100 3 * 9G5EME 5W0M R-15 1 0
偶数分 103400 0 -27 0.0 -101 5 * (デコード結果は出ず)
奇数分 103500 6 -15 0.1 -100 3 * 9G5EME 5W0M 73 1 0
9G5EMEをコールした5W0Mの信号はS/N-15~-16dBでデコードできているが、しかし9G5EME(と思われる)信号は-27~-28dBのため、ウォーターフォールに極細い同期信号は見えているが、デコードできない。5W0Mの送出メッセージから判断する限り、間違いなくそれは9G5EMEの信号である。しかも9G5EMEがCQを出している側なので、ぜひともQSOしたい。このまま一か八かコールして、こちらの信号が万一9G5EME側でデコードできたとしても、9G5EME からのコールバックはこちらではデコードできないので、QSOには至らない。
このような場合、call3.txtに「9G5EME IJ95」を追加登録することで、ディープサーチが動作し、9G5EMEの信号がデコードできる可能性が格段にアップする。グリッドロケーター(IJ95)はQRZ.comやターゲット局のHP等で調べるしかないが、万一、ターゲット局のグリッドロケーターが不明な場合は残念ながらリストに追加登録できないので、その場合は、リードソロモンデコーダーで解読できるレベルに信号がアップするまで待つしかない。
1度でもリードソロモンデコーダーで解読できれば、その時点でターゲット局のグリッドロケーターが判明するので、すぐにcall3.txtに追加登録するのがベターである。一度登録してしまえば、それ以降信号が弱くなっても、ディープサーチデコーダーがしっかり解読してくれる。
SYNC=0に設定
ディープサーチデコーダーに頼らないとデコードできないような弱い信号を復調させるにはもうひとつコツがあり、SYNC=0(ゼロ)に設定することだ(画像9)。このSYNCとは、1シーケンスで目的信号に同期した回数のことで、デコード結果の各行で、時間表示のすぐ右にある数字(0~20程度の範囲が表示される)が示す。デフォルトのSYNC=1設定のままだと、1シーケンスで1回以上同期した信号でないと「WSJT」がデコードしない。しかし、SYNC=0に設定することで、1回も同期しない信号でもデコードする。実際S/N-30dB前後の信号は、1回も同期しない事が多いので、SYNC=0に設定することで、デコード可能となる。詳しい理由は不明だがSYNC=-1の設定も有効なようだ。
(画像9) Sync=0に設定した例
うまくいった場合は下記のようになる。
偶数分 104000 0 -28 0.0 -101 3 * (デコード結果は出ず)
奇数分 (ここで、「9G5EME IJ95」をcall3.txtに登録)
偶数分 104200 0 -28 0.0 -101 3 * CQ 9G5EME IJ95 0 10
奇数分 コール中 (9G5EME JA3YUA PM74)
偶数分 104400 0 -28 0.0 -101 5 * JA3YUA 9G5EME -25 0 8
奇数分 レポート送出中 (9G5EME JA3YUA R-28) ※1
偶数分 104600 0 -29 0.0 -101 5 * JA3YUA 9G5EME RRR 0 10
奇数分 レポート送出中 (9G5EME JA3YUA 73) ※2
※1 上段で9G5EME の信号を(ディープサーチデコーダーにより)、-28dBでデコードできた場合、通常であればこのように「9G5EME JA3YUA R-28」を送出するが、先方(9G5EME側)でもこちらの信号が-25 dB で、次のシーケンスで信号強度が落ちて届かなくなる可能性がある。このような場合は、「9G5EME JA3YUA R-28」の変わりにショートハンドメッセージである「RO」(了解のRと、EMEで常用するTMOレポートのOを組み合わせたメッセージ)を送出することで、さらに高い確率で相手に届くようになる。
ただし、ショートハンドメッセージ(RO RRR 73)は「JT65-HF」でも送出できるが、HF帯ではあまり使用されていない。このため、TMOレポートのROを送った場合は、相手側が慣れていない場合、「S/Nレポートを返してこない」と判断され、ノーQSOとされてしまう可能性も考えられるので注意が必要である。
もしQSO相手がEMEerの場合は、通常からJT65の運用でショートハンドメッセージを使用しており、意味を十分に理解しているので心配不要である。(相手局がEMEerかどうかは、call3.txtにリストアップされており、かつその局の行に「EME」という表示があるかどうかで判断できる) たとえば、EMEペディションに行ったチームが、月の見えない時間に暇つぶしでHF帯にJT65で出ていたような場合、信号が弱い場合は、迷わずTMOレポートを送出した方が、よりQSOの確率が上がるのでベターである。
(写真10) EMEペディション局PJ4EMEがHFに出てきた例。13:40、13:42ともディープサーチデコーダーのみでのデコードで、13:44にはショートハンドの73を送ってきた。
※2 この部分は13文字までにランダムメッセージを送るケースも多いが、弱い信号の局を相手にしている場合、ランダムメッセージに対してはディープサーチデコーダーが機能しないため、定型文である「9G5EME JA3YUA 73」もしくは、ショートハンドメッセージの「73」がベターである。