2013年10月号
テクニカルコーナー
EMEにチャレンジ(4) 最終回
編集部
DXペディション局の攻略
EMEのDXペディションは、ほぼ100% MMMに掲載されます。この情報を参考に狙い時を定めます。自局の設備が小規模の場合は、ある程度空いてくるDXペディションの3日目以降が狙い目となります。なお、現在EMEerはヨーロッパに集中していますので、ヨーロッパでは月が見えない時間で、狙っているDXペディション局と日本で月が見える時間が最大のチャンスといえます。
なお、DXペディション局はシングル八木、もしくは2八木の局が多いため、自局が4八木以上でないと厳しいケースが多いですが、もし自局が2八木でも、DXペディション局が見えたら、ダメもとでQSOにチャレンジしてみてください。何十回に1回程度はQSOできるかも知れません。また、EMEのDXペディションは、1度実施されると、世界のニーズをほぼ満たしてしまうため、次はもう無いとお考えください。
1週間以上のDXペディションで、後半になると、DXペディション側も暇になってくるため、こちらからの様々な要求に応えてくれることがあります。たとえば、DXペディション局の送信周波数がQRMでNGの場合は、QSYをお願いしてみたり、DXペディション局が水平垂直の両偏波を使用している場合は、送信もしくは受信の偏波面変更をお願いしてみたりすることができます。これらはN0UKチャット上でリアルタイムで行ってください。それまでまったく受信できなかったのに、送信偏波を変えてもらったら受信できたというケースはよくあります。
もし自局がパイルアップを受けた場合
EMEにアクティブな局は、普段から運用している常駐局をやり尽くしてしまった局が多いので、新局がでてくると、皆が交信したがります。もしその新局が弱ければ、ビッグガンにしか聞こえませんので、パイルアップはなりませんが、ある程度のANT設備でデビューした場合はパイルアップになることがあります。
このよう場合は、CQからスタンバイすると、SpecJTウインドウに、複数の信号が見えます。HF帯でよく使われているJT65-HFであれば、見える信号を全部デコードしてくれますが、WSJTでは、(通常は)最強の信号を1つだけしか自動ではデコードしてくれませんので、その他の信号は、同期信号の上をマウスで左ダブルクリックすることで、手動デコードする必要があります。もし、高性能なPCを使っているのであれば、結果は1~2秒程度で出るため、自局の送信終了後、51~60秒の間に4個か5個の信号をデコードできます。中程度の性能のPCでも、2個か3個はデコード可能です。
ここで、たとえばCQからスタンバイ後、下記3局の信号がデコードできたとします。
JA3YUA JM1GSH QM06
JA3YUA RU1AA KP40
JA3YUA 9K2YM LL48
どの局に応答するかはもちろん自由です。もしここで9K2YMに応答する場合、WSJTデコード画面上の9K2YMのコールサインの上をマウスで左ダブルクリックすると、自動的に送信メッセージ「9K2YM JA3YUA PM74 OOO」がセットされ、Tx2にチェックが入ります。そして、時計が0秒になれば、コールバックが始まります。あとは、流れに従って9K2YMとのQSOの成立へと駒を進めます。
なお、コールバックの最中(Tx2送出中)でも、さらに前回のデコードを続けることができます。たとえば、上記3局はデコードできたが、その他にもまだ同期信号が見えていた場合、とりあえず9K2YMへのコールバックを継続(送信)しながら、さらに同期信号をクリックしていきます。すると、4局目として「JA3YUA CN8LI IM63」というデコード結果が現れたりすることがあります。
ここであなたは重要な判断をしなければなりません。そのまま9K2YMへのコールバックを継続し、9K2YMとのQSOを成立させるか、あるいは、9K2YMへのコールバックを中断して、CN8LIへのコールバックに切り替えるかです。0秒からコールバックをスタートしていても5秒や10秒程度の経過後なら、一旦送信を止めて、別の局にコールバックしても行けます。もしそれまでにアフリカが未交信で、アフリカとのQSOでWAC完成という様な状況であれば、送信の途中で相手局を切り替えるという荒技も有効と思います。デジタルモードのEMEではこのような事も可能です。
小電力でQSOを成立させるためには
第2回で説明したグラウンドリフレクションを利用するのが大きなポイントです。グラウンドリフレクションは受信時だけでなく、送信時にも同様に有効のため、一説によると最大6dBまでアンテナゲインをアップさせられると言われています。これは50W送信の場合、200W出力に匹敵します。
同じ局を受信し続けた場合、月の仰角が15度以下になってくると、(偏波の回転が無い場合)、信号強度がアップしてくると思います。そこからがチャンスです。受信は何度も成功しているが、なかなかQSOには至らないといった場合、月の仰角が概ね15度以下の時を重点的に狙って、QSOにチャレンジしてみてください。東向けの運用では月の出から15度までが有効です。
QSLカードの記載方法
最後にQSLカードの記載方法の要点を説明します。ほとんどの項目はEME以外のQSOでの記載と同様ですが、EME特有の記載が必要となる項目について説明します。
1. QSO時間
QSOが成立した時間(自局もしくは相手局でRRRが確認できた時間)を記載してください。中には、QSOのトライを始めた時間(コールを開始した時間や、スケジュールを開始した時間)を記載する局、相手からのレポートを受信した時間/自局がレポートを送った時間、あるいは73を送り終えた時間などを記載する局もおり、あまり統一されていませんが、一番多いのはQSOが成立した時間を記載する例です。
写真4 QSLカードの記載例。
2. シグナルレポート
O(TMOのO)、もしくはS/N(例: -28dB)、もしくはこれらの組み合わせ(例 O -28)を記載してください。最も多いのは、Oをダブルクオーテーションマークで囲み「”O”」と記載する表記です。なお、S/Nレポートを記載する場合は、QSO中で受信したベストのS/N値を記載してください。たとえば、QSO中に相手局の信号が、-29 -27 -28 -30と変化した場合は、-27dBがベストのS/N値です。
3. その他
モードは「JT65B」と表記してください。「JT65」でもOKです。また、QSLカードの何処かに、月面反射通信であることを表示してください。具体的には、「EME」という文字の明記です。その他に、イニシャル番号を記載する局も少なくありません。これは、EMEで何局目のQSOであるかの通し番号のことです。イニシャル番号は#に続けて記載します。たとえば100局目の場合は「#100」となります。
このイニシャル番号の定義は少々難しく、相手局がファミリー局や、クラブ局の流用などで同一QTHからオンエアの場合は、たとえ相手局のコールサインが異なっても、新局とは見なされません。しかし、相手局が移動した場合、コールサインが同一でも、QTHが異なれば新局と見なされます。たとえば、移動運用で毎日別のQTH(異なるグリッドロケーター)から出てきた場合は、移動地毎に全て新局扱いとなりますので、注意が必要です。
最後に
今回にて「EMEにチャレンジ」の連載を終了します。JT65モードの登場によって身近になった月面反射通信に、一人でも多くのハムが、チャレンジされることを願っています。 (完)
参考
2013年のARRL EMEコンテストの日程 (144MHz)
ラウンド1: 10月26-27日
ラウンド2: 11月16-17日