2013年10月号

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連載記事

移動運用便利グッズの製作

JO2ASQ 清水祐樹

第7回 1.9~7MHz 逆L型アンテナ

ローバンド用(1.9~7MHz)のアンテナとして、第3回ではホイップアンテナを紹介しました。これはエレメントを垂直に伸ばし、エレメント長が短い場合には、給電部にローディングコイルを入れる構造です。エレメント全体を垂直に伸ばす代わりに、エレメントの給電部に近い一部を垂直に、残りの部分を水平方向に展開する方法があります。これが逆L型アンテナです(図1)。


図1 設置の様子

逆L型アンテナのエレメントの全長は約1/4波長です。エレメントの一部が垂直になるため、水平方向には1/4波長よりもやや短いスペース、つまり、1/2波長ダイポールアンテナの約半分のスペースで済み、設置の手間を少なくできます。ただし、利得は1/2波長ダイポールアンテナに比較するとやや低下します。それでも1.9MHzの国内QSO向けであれば十分な性能です。

逆L型アンテナの特徴として、伸縮ポールに同軸ケーブルなどの重量が加わらないため、自重で曲がる可能性が低く、釣竿アンテナが立てられないような強風時でも使用可能であることが挙げられます。さらに、逆L型アンテナとローディングコイル(第3回 ホイップアンテナで使ったもの)を併用すると、例えば3.5MHzの1/4波長サイズ(約20m)で1.9MHzを運用することも可能です。

逆L型アンテナはアンテナチューナーとの相性が良く、HFのオールバンドのアンテナとして利用することも可能です。夜間のローバンド運用中に突然Eスポが発生した場合や、強風で逆L型以外のアンテナが立てられない場合に、すぐにQSYできます。

構造

電気的な基本構造は、1/4波長の接地型ホイップアンテナと同じです(図2、図3)。アースとして自動車のボディやカウンターポイズ(約1/4波長の電線を地面に沿って置いたもの)を使用します。エレメントのうち、給電部に近い所は垂直に、それ以外は水平方向に展開します。垂直部分の長さは手持ちの伸縮ポールに合わせて5.4mとしました。エレメントの途中をギボシ端子で切り離すことで、1.9MHz、3.5MHz、7MHzの3バンドを切り替えます(図4)。1.9MHzと3.5MHzのエレメントの先端は、1m間隔で長さを微調整するためにギボシ端子が余分に入っています。


図2 全体寸法

図2は全長を1.9MHzの1/4波長として、1.9, 3.5, 7MHzの3バンドに対応するものです。それ以外のバンドも、エレメントの長さを1/4波長とすれば対応できます。例えば10MHzの1/4波長で切り離します。その場合、ギボシ端子が地面から手が届かない高い位置にくるため、バンド切り替えの際に一旦伸縮ポールを縮める必要があります。


図3 給電部の配線(第3回 ホイップアンテナの記事を再掲)

給電部は、第3回のホイップアンテナのコイルを使って給電しています(図3)。1/4波長のエレメントを設置した場合にはコイルを短絡して(ミノ虫クリップのタップを最下端に接続して)使っています。アースはホイップアンテナと同じように、アース側がボディと導通しているモービルアンテナ基台を使うか、20×30cmのアルミ板を車の屋根に置いて容量結合アースとしています。


図4 バンド切り替え用のギボシ端子。鉢底ネットとインシュロックタイで固定し、ビニル線が切れないようにゴム管を巻いて保護している。なお、写真に示す端子は、正しくは「平型端子」。

製作

エレメントには、インターホンコードと呼ばれる商品名で市販されている0.3mm2のビニル線を使いました。平行2線を1本ずつに引き裂いて使います。このビニル線は安価、軽量である反面、極端な引っ張りや折り曲げが加わると断線の可能性があります。使い始めは荷重をかけると少し伸びる性質があること、目立ちにくい色しか入手できないことも考慮する必要があります。

ビニル線の最も垂れ下がった部分は地面から0.5m程度にしています。一見、地面に接近しすぎており、損失があるように見えます。しかし、これでも1.9MHzで8エリア-6エリア間の交信が安定してできるだけの性能があります。また、この程度の高さであればビニル線の張力が小さく、風でエレメントが揺れても安定する利点があります。ただし、ビニル線が足元にあって見づらいため、人や通行車両が引っ掛けないように、ご注意ください。

エレメントの途中は伸縮ポールから吊り下げています(図5)。伸縮ポールの先端に水道用の塩ビパイプキャップをかぶせ、ナスカンと呼ばれる金具で、ワンタッチで取り付けできるようにしています。ワイヤーの吊り下げ位置には金属リングを取りつけ、ビニル線の表面が傷つかないように釣り用の浮きゴム管で保護しています。ワイヤーと反対側はロープで引っ張り、伸縮ポールがほぼ垂直になるように長さを調整します(図1)。このロープにかかる荷重は小さいので、ロープの端はワイパーの根元やドアミラーに縛り付ければ十分です。


図5 伸縮ポールの先端からワイヤーを吊り下げる部分

ビニル線の先端部分を地面から浮かせるには、コンクリート製の土台ブロックと、釣り用のタモの柄を使った専用の台を使っています(図6)。土台ブロックは台形のコンクリートに支持用の鉄棒が取り付けられているもので、鉄棒にプラスチック板(100円ショップのプラスチック製まな板を6×10cmに切断)またはベニヤ板とUボルトを取りつけてポールを立てられるようにします。なお、プラスチック製の薄いまな板は、Pカッターで両面に傷を付けて折ることで、簡単に切断できます。


図6 コンクリート製土台

エレメントの先端は釣り用の「たも網の柄」を使っています。最長で6m程度の長さの製品があります。ところが、実際に試してみたところ、これを全て伸ばす必要はなく、地面からの高さが1.5~2mで十分な性能が得られることが分かりました。6mをフルに伸ばしたところ、簡単に折れてしまいました。

ギボシの間隔を長くしたい場合、エレメントのビニル線を連結すると、張力でその部分が断線する可能性があるので、カットアンドトライで最適値を求めた後、新しいビニル線でその部分を作り直しています。収納は第6回で紹介した巻き取り器を使います。

調整方法

移動運用では、周囲の状況によってアンテナの共振周波数が変わるので、共振周波数の微調整が必要です。このアンテナの共振周波数は、垂直部分として使っているビニル線の余った部分の処理による影響が特に大きく現れます。周波数調整には2種類の方法があります。

一つは、ワイヤーの長さをギボシ端子で調整する方法、もう一つは、コンクリートの土台の位置、および先端のポール(タモ網の柄)の長さを調整する方法です。さらに、給電部のコイルを調整する方法(これは共振周波数を下げる場合のみ有効)もあります。1.9MHzおよび3.5MHzのエレメントは、図2に示す通り1mの間隔で2個のギボシ端子が取り付けられており、長さの微調整により共振周波数を変えることができます。この部分を調整すれば、1.8MHz、3.6MHz、3.8MHz帯などにも対応可能です。

コンクリートの土台の位置を給電点に近付けると、ワイヤーが垂れ下がって地面に接近するため、共振周波数が低くなります。また、コンクリートの土台を給電点から遠ざけると、ワイヤーが引っ張られて地面から離れるため、共振周波数が高くなります(図7)。アンテナアナライザなどで、SWRが最も低くなる周波数を探し、それが運用周波数に近くなるように調整します。ただし、7MHzではエレメントの先端が地面から離れているため、この方法では効果がありません。


図7 エレメントの先端を動かすことによる、共振周波数の調整方法

図3に示すトランスのタップは、3.5MHzでは10T側(巻数が少ない、アンテナ側のインピーダンスが低い)に合わせる方が、同調する帯域が広くなります。すなわち、3.5MHzではアンテナのインピーダンスが50Ωより低いと考えられます。

逆L型アンテナには指向性があります。エレメントの先端から、給電部方向に向けて最も高いゲインがあります。遠距離通信を狙う場合には、先端方向に対してはゲインが低いので、設置の際には指向性を間違えないように注意が必要です。1.9MHzのエレメントをフルに展開すると、50MHzまではアンテナチューナーを使うと比較的容易にマッチングが取れます。特に28MHzで利得があるように感じられ、良好な成果が得られています。ただし、無指向性ではなく、ある特定の方向で利得が低くなっている可能性があります。

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