2016年4月号

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テクニカルコーナー

全長1mのアンテナを使い、10W SSBで海外交信はできるか

編集部

「CQを出したら、地球の裏側の局から応答があった」、これはまさにアマチュア無線の醍醐味といえるでしょう。出力10WのSSBでも、しっかりしたアンテナ(例: 地上高10m以上にあげた八木アンテナ)を使えば、全国各地はもちろん、コンディション次第では世界各国とも交信できます。また、CWモードを使用すれば、比較的小型のアンテナでも出力10Wで外国との交信が可能です。

しかし、今回は、あえて困難な目標にチャレンジしてみました。「地上高わずか1m、全長約1mのホイップアンテナを使って、出力10WのSSBで海外との交信ができるか」、の実験です。

海外局と手っ取り早く交信するには、RSレポートとナンバー交換だけで済み、設備の大きいコンテストステーションが多く参加するメジャーコンテストがよいと考え、本年3月26-27日に開催された、CQ World Wide WPXコンテストの電話部門に参加する形で、実験を行いました。

このコンテストは日本時間で3月26日の午前9時(世界標準時午前0時)に始まります。土曜日の朝、機材を車に積み込み、最低でも外国局1局と交信できるまでは帰宅しないという意気込みで、車で30分程度の移動運用予定地に向かいました。

予定地の公園に着くとすぐにセットアップを開始しました。セットアップとはいっても、アンテナがシンプルなので、15分足らずで移動シャックが完成しました。リグはIC-7300Mを使用してRF POWERを20%に設定しました。これで出力は約10Wになります。IC-7300M背面のアンテナ端子に全長約1mのアンテナ(後述)をそのまま直結、ラジアルは、5m長を1本と10m長を1本地面に這わせ、それぞれをIC-7300Mのアース端子にミノムシクリップで接続しました。


リアパネルの接続の様子

電源には12V20Ahのシールドバッテリーを使用しました。そのまま直結でもIC-7300Mは問題なく動作しますが、バッテリーは使用するに従って電圧が下がっていきます。そのため直結運用だと無線機の出力を一定に保てないので、今回は13.8Vへの昇圧コンバーターを使用して、無線機への入力電圧を一定に保ちました。これによって、IC-7300Mの出力は常に10Wに保たれることになります。


シールドバッテリーと昇圧コンバーター

後は、ノートパソコンの電源を入れ、ロギングソフトのCTESTWINを立ち上げて、無線機の周波数がソフトに連動していることを確かめた後、いざテストのスタートです。時刻はコンテスト開始時刻から1時間遅れの、ちょうど10時でした。この時間であれば、21MHzでまだ北米とのパスがあります。さっそくバンド内をワッチすると米国西海岸のビッグステーションがちらほら聞こえました。1m長のアンテナでも受信は問題なさそうです。

さっそくCQコンテストを出している局にチューンしコールしてみました。しかしスタンバイすると、QRZ?が返ってくることなく、そのままCQを出し続けられました。良好に入感している別の局をコールしてみましたが、結果は同じでした。こちらの電波は米国まで全く届いていない様子です。しかし、これは想定範囲内。この設備の電波が外国まで届くことは難しいだろうと想定したテストだからです。

やはり米国には電波が届かない無理と考え、照準をアジア/オセアニアに向けることにしました。1012j、インドネシアのYB2DXをコール、するとなんと応答がありました。しかしこちらのコールを完全に取ってくれていません。数回のやりとりでコールサインをフルコピーしてもらい、さらにコンテストナンバーもコピーしてもらってQSOが成立しました。地上高約1m、全長約1mのアンテナに10WのSSBで海外との交信ができました。最低1QSOのノルマはあっさりクリアしました。


移動運用シャック全景

その後は、アジア/オセアニアの局で、聞こえる局を片っ端から呼んでいきましたが、無視されること多数、反応があってもQRZ?止まりで、なかなか次のQSOができません。せっかくコールサインをコピーしてもらっても、コンテストナンバーがコピーできずに、ギブアップしてしまう相手局もいました。1028jになって、S9+20dBで強力に入感していたフィリピンの4D1RとなんとかQSOにこぎ着けました。その後も粘りに粘って、中国、香港の局とのQSOにも成功し、はじめの1時間でなんとか4エンティティ5局できました。1時間で5局もできれば上々なスタートです。(QSO局の詳細は末尾のQSOリスト参照)

しかし、1局でも他局と呼び合いになると、100%の確率で負けてしまうようです。もちろんこれも想定範囲内ですので、むしゃくしゃはしません。1100jになり、それまでずっとパイルをさばいていたブラジルのPX5Eが、呼ばれ途切れた様子でCQを出したので呼んでみたところ、なんと応答があり、あっさりQSOできてしまいました。こちらの電波が地球の裏側のブラジルまで届いた瞬間でした。10,000kmを超える遠距離交信に成功したことに大感激。当初の目標を余裕でクリアし、肩の荷が下りてあとは気楽に楽しむことができました。ちなみに、相手からもらったナンバーは419だったので、PX5Eは初めの2時間で400局を超える局とQSOしていたようです。


21MHzハンドの様子(1042jst)

11時台は、21MHzでJAを含む6局(ブラジル、香港、フィリピン×2、日本、中国)とQSOできました。途中28MHzもワッチしてみましたが、JAのCQが聞こえただけで、DXは1局も入感ありませんでした。さらに14MHzもワッチしたところ、何局かDXが聞こえはしましたが、呼べども叫べども1局からも応答がありませんでした。原因として、14MHzでの1m長のアンテナは、短縮率が20%(14MHzの1/4波長である5mの20%)にもなるので、輻射効率が相当悪いことが考えられます。それでもCWに50Wあれば、ある程度飛ぶと思われますが、SSBの10Wではさすがに厳しいところです。

今回使用したアンテナは、第一電波工業のRHM5という、7/14/21/28/50MHzの5バンドに対応し耐入力がSSB 20Wのアンテナで、上部エレメントはロッド式のため、長さを手で簡単に調整して目的の周波数に同調させることができます。14MHzと21MHzは全長からロッド部を約20~30cm縮めることでSSBバンドに同調しSWRは1.0まで下がりました。28MHzだけは、SWRが1.5~1.6位までしか下がらなかったため、IC-7300Mの内蔵チューナーを使用して強制同調させ、見かけ上のSWRを1.0に落として運用しました。IC-7300Mにはオートアンテナチューナーが内蔵されているのも大きなメリットです。28MHzのSWRが1.0まで下がらなかったのは、おそらく、ラジアル長が原因だったと思われ、1/4波長ラジアルの追加などで解決できるとは思われますが、今回は内蔵チューナーのお世話になりました。なお、このRHM5は生産終了品です。

12時台は、半ば意地になって14MHzを運用。粘りに粘って4QSO(中国、極東ロシア×2、台湾)を成立させました。14MHzでQSOできたのは、いずれもS9+10dB以上で入感した局で、S9程度の信号強度での入感局からは応答がありませんでした。1259jに21MHzで1局(中国)だけでき、12時台は合計5QSOで終わりました。

13時になり、それまで幾度となくコールしても、無反応だったアラスカのKL7RAから、QRZ?が返ってきました。そのまま粘ってQSOを成立。アラスカ州ですがついに北米とQSOできました。これで、オセアニア、アジア、南米に次ぐ、4大陸目です。再度ガッツポーズとなりました。13時台は21MHzでオーストラリア、ハワイもQSOできました。さらに13時台の終盤は28MHzで3QSO(中国、香港、フィリピン)できましたが、28MHzであれば、S5-7程度での入感局でもQSOが可能でした。これはアンテナの短縮率が28MHzだと約40%に改善するため、輻射効率が上がるからだと思われます。相手局側でのバンドノイズのレベルが低いこともQSOが可能な要因でしょう。この3局以外は28MHzで見つけることができませんでした。

14時からは忍耐の時間となり、14MHzと21MHzで聞こえている局で、未交信の局を片っ端から呼んでいきましたが、14時台にQSOできたのは21MHzでわずか3局(オーストラリア×2、グアム)でした。15時になると、21MHzでヨーロッパの局が聞こえてくるようになりましたが、まだ信号レベルが弱く、いくら呼んでも全局無反応でした。15時台は21MHzでわずか2局(台湾、ニュージーランド)で終わりました。

16時台になると、ヨーロッパ局の信号強度がアップしてきました。ビッグステーションはS9まで振ってくるようになり、中には、QRZ?が返ってくる局もありました。5大陸目とのQSOを目指して、全力で頑張りましたが、さすがにヨーロッパは厳しかったです。1650j、ノートPCの内蔵バッテリー残量が10%を切ったことと、日も陰り始めて肌寒くなってきたので、1652jに電源を落として、テストを終了しました。

ちなみに、コールしてみたヨーロッパ局は、ウクライナ、ルーマニア、ロシア、エストニア、ブルガリア、スロベニア、ドイツ、スロバキアの8エンティティですが、残念ながら1局もQSOできませんでした。

さて、今回使用した20Ahシールドバッテリーは、運用開始時の端子電圧が12.3Vだったものが、約7時間の運用で11.7Vまで下がりました。今回は昇圧コンバーターを使っており端子電圧11.0Vくらいまでは使用できそうなため、まだあと2~3時間程度は運用できそうでした。出力10WのSSBであれば、このバッテリーで10時間程度遊べそうな感じです。ただし、10時間遊ぶには、ノートPC用の10時間分の電源確保(予備バッテリー等)が必要になるかもしれません。もちろん、紙ログであれば、心配無用です。


運用終了時のバッテリー電圧(昇圧コンバーターへの入力電圧)

結論としまして、日中のみの約7時間の運用で、13エンティティ35局とQSOすることができたため、全長1mのアンテナと10W SSBでのDX QSOは可能、ということができます。それでも、QSOの成立は必ずしもスムーズではなく、なんとかQSOできたというレベルなので、海外局とラグチューを楽しむのは難しいと思われます。最後になりましたが、今回のテスト結果が、何かの参考になれば幸いです。

●地上高約1m、全長約1mのアンテナを使って、出力10WのSSBで交信ができる海外局の信号強度の目安 (IC-7300MのSメーター読み、プリアンプ1をオン)
・ 14MHz帯 S9+10dB以上
・ 21MHz帯 概ねS9以上
・ 28MHz帯 概ねS5以上
※上記は、相手局の出力に左右されるため、あくまでも目安としてください。

●日中の約7時間運用でQSOできたエンティティ (交信順)
1 インドネシア
2 フィリピン
3 中国
4 香港
5 ブラジル
6 日本
7 極東ロシア
8 台湾
9 アラスカ
10 オーストラリア
11 ハワイ
12 グアム
13 ニュージーランド

全QSOリスト (QSO時間はJST)

(参考) WPXコンテストでの獲得スコア

頭の体操 詰将棋

Masacoの「むせんのせかい」~アイボールの旅~

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