2016年4月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第35回 GPS その3
前回はGPSマイクを検討しました。ハンディ型無線機でもGPS内蔵のものが複数機種発売されており、今回はこれらの無線機からGPSデータを取り出し、固定型無線機に表示する実験を行いました。前回の「GPSその2」と画像など重なる部分がありますので、前号もあわせてご参照ください。
3. GPS付ハンディ機
GPS内蔵ハンディ機として手元にあるID-31を使い、IC-9100にGPSデータを表示する方法を検討しました。この動作では、もちろんハンディ機がGPS電波の受信が可能であることが前提条件となります。ID-51は手元にありませんでしたが同様に使えると思います。
まず、ID-31はMENUのボタンを押して次のように設定します。
ID-31の取扱説明書より抜粋
「GPS選択」を内蔵GPSに、また「GPS出力」をONに設定すると「DATA」ジャックからGPSデータが取り出せます。この出力を前回のGPSマイクで使ったRS-232C変換ユニットに入力し、その出力をIC-9100に入力すればGPSマイク同様に位置情報が表示されるはずです。
ID-31の「DATA」ジャックは2.5mmタイプで、RS-232C変換ユニットのジャックが3.5mmのため変換ケーブルを作ります。ID-31のジャックは接続部分が細いため細めのプラグが必要で、太い場合は十分奥まで届かないことがあるので注意が必要です。
ハンディ機をGPSレシーバーとして使用する場合はGPSマイクの場合とは異なり、RS-232C変換ユニットとの接続ケーブルはデータ側の1本だけが必要で、電源側は不要です。前回と同様に5m + 3mのケーブルで試験しました。このように設定すれば、RS-232C変換ユニットの出力端子からデータが出てくるはずです。このデータの波形をオシロスコープで確認しましたが、画面に目をこらしても何も出てきませんでした。
色々調べて考察した結果、ID-31内部のRS-232C変換ICに原因があることが分かりました。ここに使われているICのMAX3221は、巻末のデータシートでも分かるように信号の入力がないとシャットダウンモードになるようです。つまり外部から信号を入れてやらなければGPS信号は出力されません。
ID-31のRS-232C I/O 回路
また、接続するIC-9100にも同様の機能があり、つまり双方が黙ったままで通信が始まらない状態が続くようです。IC-9100を改造するのは大変なのでID-31をダマす方法を考えてみました。
解決方法として、ID-31のデータ入力端子にRS-232Cの信号を入れてやれば良く、またこの信号の中身は特に何でも良いので、空の信号を作ることにしました。
RS-232Cの信号構成をおさらいすると次のようになっています。つまり空の信号はスタートビットだけ作れば良いと思います。(スタートビットはL、残りはすべてH)
この図の下の1~12の数字は同期信号位置を示します。
この信号を作るための回路は次のようになりました。ID-31のRS-232Cのビットレートは9600bpsなので、発振器はこの周波数にしていますが、4800bpsにも使えるよう後に1/2にするフリップフロップを付けています。
動作はIC1A~Cの発振回路で9.6kHzのクロックを作り、IC3のバイナリーカウンター74HC4040で分周します。周波数はR5で9.6kHzに調整します。IC3で12パルス分周した時の信号をIC4Aで取り出してIC3自身をリセットします。つまりカウンターは1/12分周として働きます。このリセット信号を反転してIC2Bにも加えてリセットしますが、IC2B 74HC74はDFF(Delay Flip Flop)のためD端子がHに保たれており、IC3のQ1出力のクロックで、またIC2Bの出力Qは次のリセットがかかるまでH出力が続きます。
接続するRS-232Cインターフェイスの回路が反転のインバーターになっているため、この出力はIC2BのQ出力をバッファーのIC1Eで反転して取り出します。
これらの波形は次のようになります。
この回路をプリント基板に組み立てたものは次のようになりました。
実際に測定した波形は次のようになりました。
この信号をID-31のデータ入力に入れてやればGPS信号が出てくるはずです。RS-232Cレベルに変換するため「GPSその2」で使ったインターフェイスの接続を一部変更して利用します。
RS-232Cの疑似信号発生回路は電源が5Vでインターフェイス回路は3Vのため、R6、R7で分圧して電圧レベルを合わせています。
接続は次のようになりました。
ID-31から出力されるRS-232Cレベルの信号はそのままIC-9100に入力できるので、オプションケーブルOPC-1529は必要ありませんが、「GPSその2」で使用したインターフェイスユニットを利用するためそのままにしています。
試験の結果、ID-31からGPS信号が出てくるようになり、その波形は「GPSその2」の時と同様なものが得られました。また、この出力をIC-9100に接続すると画面にはGPSマイクと同様な表示となり、GPS内蔵ハンディ機も位置表示のためのGPSレシーバーとして使えることが分かりました。その画面はGPSマイクの場合とほとんど変わりません。
IC-9100の表示画面
ID-31内蔵のGPS機能は、GPSマイクと比べて少し感度が高いように感じられました。