2016年7月号
ニュース
欧州CEPT加盟国と日本とのアマチュア無線相互運用協定が前進
櫻井 豊 JQ2GYU, also JF1LZQ, WS2Y, and M0LZP
2014年5月末に開催されたCEPTの会合で、日本(ただし1アマのみ)がCEPT T/R 61-02 (長期滞在者を対象とするアマチュア無線資格の相互認証)に認められることになり、すでに日本の1アマはCEPT T/R 61-02加盟国において、各国のアマチュア無線最上級資格と同等とみなされることになりました。このCEPT T/R 61-02には、欧州CEPT加盟40カ国に加え、オーストラリア、キュラソー、香港、イスラエル、ニュージーランド、南アフリカ、日本の47ヶ国が加盟しています。
http://www.erodocdb.dk/Docs/doc98/official/pdf/TR6102.PDF
そもそもCEPTとは、日本語では欧州郵便電気通信主管庁会議と呼ばれる会議体で、ヨーロッパの電気通信および郵便の標準化組織です。アマチュア無線に関する諸制度も、この会議体傘下のワーキンググループで議論されています。そこで、この後は外務省による欧州EU側との条約締結、総務省が電波法の告示を出す、という手順になることでしょう。そして、総務省が日本のアマチュアに対して発行する無線従事者免許の英文証明書のフォームを、英語、仏語、独語で併記された、CEPTで定めるHAREC様式のものに改訂することになるものと思われます。これらがすべて整えば、上記46ヶ国と日本との間で、アマチュア無線相互運用が可能となるのです。
実は、CEPT加盟国同士のアマチュア無線相互運用協定には、このアマチュア無線資格の相互認証CEPT T/R 61-02の他に、短期訪問者を対象とした相互運用を規定するCEPT T/R 61-01というものも存在します。こちらは、90日以内であれば、M/JQ2GYUのようなスタイルで、事前の開局申請など一切の免許手続き等をすることなく、自由にアマチュア無線を運用できるという規定です。このCEPT T/R 61-01には、欧州CEPT加盟42カ国に加え、オーストラリア、カナダ、キュラソー、イスラエル、オランダ領アンティル、ニュージーランド、ペルー、南アフリカ、米国の51ヶ国が加盟しています。米国は旧Advanced級とExtra級が対象で、日本とは逆にT/R 61-02には参加せず、こちらのT/R 61-01だけとなっています。
http://www.erodocdb.dk/Docs/doc98/official/pdf/TR6101.PDF
さらに現在、この規定にCEPT加盟各国の初級資格や米国のGeneral級も対象に含めるための検討が始まっています。
http://www.erodocdb.dk/Docs/doc98/official/pdf/REC0506.PDF
欧州CEPT側としては、このT/R 61-01に日本を受け入れるには、T/R 61-01に加盟する各国が日本でも同様に、たとえばJA1/M0LZPのスタイルで、事前の開局申請等の手続きなしに運用できる必要があるとしています。“相互”運用協定なので、お互いに同等でなければ認められない、ということです。
そこで、JARLでは国際問題検討委員会の下に、「CEPT相互運用に関する分科会」を設置し、短期訪問者を対象としたT/R 61-01への日本の加盟について、課題とその対応をまとめることになりました。本分科会は2015年5月を皮切りに、現時点までに5回の会合を重ねると同時に、JARLを通じて、総務省電波部の電波政策課や移動通信課などとの情報交換も行なっています。今回のように、電波法そのものの改正が必要となる事案については、各地の総合通信局ではなく、霞が関の本省側とのコネクションが必要となります。
従来型の相互運用協定と馴染む、アマチュア無線資格の相互認証T/R 61-02の締結に尽力した総務省からしてみれば、日本の現制度とは全く相いれない、免許手続き等を一切なしに運用できてしまうT/R 61-01についても要望されるとなりますと、かなり扱いに頭を悩ますことになるものと思われます。しかしながら、従来型の相互運用協定では、日本でアマチュア無線を楽しむために必要となる開局申請時に、入国ビザを必要とする点を見逃してはなりません。米国をはじめとする、ビザ免除のプログラムを持つ国であれば、日本への旅行に先だって開局申請を行なうことは難しくありません。しかし、ロシアなど、観光目的の訪日時にもビザを必要とする国からの短期訪問者は、ビザが発行されてから開局申請をしても、滞在期間中に免許状を手にすることは不可能な場合がほとんどです。
もうひとつの大きな障壁が、日本ではアマチュア局免許を得る際に、無線機器類の登録が必要である点です。これについては、本年5月21日から施行された「海外から持ち込まれるWi-Fi端末等の利用」を前例として、同様の処置をお願いできないかと考えています。この新制度は、訪日観光旅行者は、CEPT T/R 61-01の規定と奇しくも同じ90日以内であれば、日本の技適認定を受けていないWi-Fi端末等であっても、米国FCCや欧州CEなどといった、日本の技術基準に相当する技術基準(国際標準)の認定を受けたものであれば、日本国内に持ち込んで使用しても良い、という大変寛容な内容となっています。これを良き前例として、なんとかアマチュア無線機器についても同様な制度を設けていただきたいと考えています。
http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wifi/index.htm
訪日観光客の増加を図る、日本の国家プロジェクトの一助にもなる、アマチュア無線相互運用協定を、一気に欧州全域に広げるためにも、アマチュア無線資格の相互認証T/R 61-02に加えて、この短期訪問者を対象としたT/R 61-01にも日本が加盟できるように、尽力してまいる所存です。