2016年7月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第38回 電圧給電アンテナ
最近の車はアンテナを取り付けるのに苦労することが多いようです。車載用としてはλ/4の垂直型アンテナも多く使われていますが、このタイプは基本的に電流給電です。電流給電型のアンテナは、同軸ケーブルのアース側を確実に車体に接地するか、あるいはアンテナにラジアルを付けるなどして給電点のインピーダンスを下げる必要があります。ラジアルを付けるとなるとただでさえアンテナ基台が取り付け難い上に、そのラジアルが邪魔になって困ることもあるように思います。
そこで今回はラジアルが不要で、車に対するアンテナ基台のアース抵抗が高くなってもできるだけアンテナの性能として影響の少ない電圧給電型のアンテナを検討してみました。車載アンテナを対象とするため、あまり長いものは作り難いため、430MHz帯で考えてみました。
1. 基本的考察
λ/4接地アンテナは次の左図のようにGNDを対称にしたイメージがあると考えられ、λ/2のアンテナと等価に扱われます。この場合、エレメントに流れる電流はGNDに近い部分が最大になりエレメントの端が最低になるので電流給電型といわれます。
このアンテナの性能を上げるためにはGND部分の抵抗(インピーダンス)をできるだけ下げる必要があります。ラジアルを取付けて電波を乗せると見かけ上この部分のインピーダンスを下げることができます。
一方、右の図はλ/2アンテナの電流分布です。アンテナの両端はどちらも一番電流が少なく、そのためインピーダンスが高くなっています。特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルでは直接給電できないためマッチング回路が必要となります。この場合、接地抵抗が高くても影響はそれほどありません。
λ/2のアンテナは、HF帯ではツェッペリンアンテナ等で知られていますが、アンテナの端からのインピーダンスはどの程度になるのでしょうか。次の図はアンテナハンドブック等にでているアンテナのインピーダンスの図です。アンテナの線径と波長の関係でインピーダンスが変わり、中点から対称にしたエレメントのインピーダンスを表しています。このためλ/2は73Ω位になっていますが今回検討するエレメント長はこの図の1.0λに相当することになります。
給電するインピーダンスは同軸ケーブルのインピーダンスに近くて低い方がマッチングを取り易いので、アンテナの線径と波長の比λ/dを小さくしたいところです。実際に作る場合アンテナエレメントはあまり太くできないので仮に線径を3mmとし、435MHzの波長は690mmとすると、λ/dは230程度になります。
この図から正確には読み取れませんが、抵抗分は1.5k~2kΩ程度でリアクタンスは0に近くなりそうです。実際のアンテナのインピーダンスを実測できればいいのですが、値が高すぎて測定の方法を思い付かず、作ってから考えることにしました。
給電点のインピーダンスを1.5kΩと仮定して50Ωに変換する回路を考えてみます。インピーダンスを変換する簡単な回路は次のようなものです。LPF型でもHPF型でも可能と思いますが、実際に作ることを考えてHPF型を選ぶことにしました。
このHPF型でCとLの値はどれ位になるのでしょうか。スミスチャートを使ってカットアンドトライで試してみました。
まず、1.5kΩからスタートして並列にLを入れ50Ωのラインまでの値を探します。ほぼ100nH程度なので一応これで固定し、50Ωに戻す直列のCを探します。意外に小さく1.4pF程度になりました。
後は微調してできるだけ50Ωに近づけます。その結果、1.5kΩの場合直列Cは1.36pF、並列Lは102nHでマッチング取れると思います。また、アンテナのインピーダンスを2kΩとした場合は、同様な操作で直列Cは1.17pF、並列Lは117nHでマッチングすることが分かりました。
アンテナの長さをλ/2にしたいのですが、電気的長さは単純な計算値と異なるので実験で確認できないかやってみることにしました。
まず、計算上λ/2である (3 x 108 / 435 x 106) / 2 = 345mm からスタートしてみます。3mmφ銅棒をホームセンターで買ってきてこの寸法に切り測定方法を考えます。
次の図のように釣り糸で吊るした345mmの銅棒(λ/2アンテナ)の中心あたりに2ターンのコイルを結合し、同軸で方向性結合器(Direction Coupler)の負荷側に取り付けます。
元HP社製のこの広帯域方向性結合器とスペアナのトラッキングジェネレーターを使って測定してみました。方向性結合器は100MHz~2GHzで20dBダウンのほぼフラットな結合係数となっています。同調点あたりに変化が現れるのではないかと期待して、図のようにコイルの中に通したり直角に結合したりしましたが、残念ながら同調点の変化を見つけ出すことができませんでした。発想が甘かったことを反省し、完成後調整することにしました。
このアンテナを実際に作るには一番難しいと思われるのが直列のCになると思います。このCはインピーダンスが高いため耐圧の高いものが必要と思われ、また調整する必要もあるのでそのようなものを検討してみます。最近の車載用アンテナ基台の多くはM型メスなので、コネクターには10D2V用のM型オスを使用します。工作上内部の絶縁物を同軸ケーブル10D2Vの誘電体を使うことにしてこの外形が9.7mmとなっています。対向した円盤の電極でCを作り、電極の外形を絶縁物より少し小さい9.6mmとして計算します。
C = εS / d
ε= 誘電率 8.85 x 10-12
S = 電極の面積 (m)
d = 電極間の距離 (m)
で計算すると、Cを1.36pFとして、電極の半径rを4.8mmでは、電極間の距離dは0.47mm程度になると思います。
マッチングに使うLはCを収めたケースの外側に取り付けることにすると、その値は102nHですが、ディップメーターで測れるよう並列に47pF取り付けた共振周波数で測ることにしました。
f = 1/2π√LCで計算すると、Cが47pFでは、fは72.7MHzになり、この時のLが102nHのはずです。
2. アンテナの製作
基部の絶縁と保持に同軸ケーブル10D2Vの内部誘電体を利用し、一番外はアクリルパイプを使いました。コネクターは10D2V用のものなのでアクリルパイプは外形がこのコネクターに合い、内径が10D2Vの誘電体の外径と一致すると一番いいのですが、ホームセンターで一般的に販売しているアクリルパイプは丁度いいものがありませんでした。仕方なく外径15mm、内径8.5mmのアクリルパイプを買ってきました。
内径を10mmに広げるためドリルで穴を広げますが一度に広げると割れてしまいます。面倒ですがまず9mmのドリルで穴を広げ、更に9.5mm、10mmと広げていくと割れずに穴を大きくできました。新たにドリルの刃を買ってくるとそれだけで随分高価になります。その後インターネット通販で外形14mm、肉厚2mmのアクリルパイプが見つかり、これならほとんど加工は不要かも知れません。コネクターは既に10D2Vの同軸ケーブルがついていた古いものを利用したため外観が美しくありません。
アンテナ側は当初3mmの棒にダイスで必要なだけネジを切るつもりでしたが、3mmの棒に3mmのネジを切るのはほとんど不可能なことが分かり諦めました。このため外部にネジが切ってあって、真ん中に3mmの穴の開いているものはないかとホームセンターを探し回り、なんとか使えそうなコンクリートにネジ止めする金具を見つけました。
この金具を途中から切り取りネジとナットの部分を調整ネジとして使うことにしました。真ん中の棒が3mmより細いためドリルで穴を広げました。
電極と構造
エレメントの銅棒に同軸絶縁物を通して両側から電極と調整ネジをハンダ付けします。調整ネジのナットの3方に3mmタップを立てて、それぞれコイル取付用、ナットとエレメントの接続、アクリルパイプ取付用の意味で使用しました。
次の写真が完成したもので、後で外から熱収縮チューブをかけるつもりです。
完成後
3. アンテナの実測
次のような接続でアンテナを測定してみました。
測定結果は次の図の通りですが、中心周波数が合わず、まずアンテナの長さを少し切ってみましたがディップした谷の周波数的移動がありません。元々電気的にはアンテナ長が長いはずです。調整ネジで電極間の距離を変えて容量を調整したりコイルの間隔を動かしたりしましたが、やはり谷の周波数的移動は僅かで谷の深さだけ大きく変わります。つまりマッチングは変わるようです。また、非常に狭帯域で実際に完成しても使いづらいものになりそうです。このような結果から谷の周波数が決まる要素は何なのか分からなくなりました。
仮に周波数が合ったとしてマッチングはどの程度か調べてみました。谷の底が-55dBとして方向性結合器の結合係数が-20dBなのでその差は35dB程度と思われます。
リターンロスとSWRの関係は多くの文献や資料がありますのでここでは取り上げませんが、リターンロス30dBでもSWRは1.07位になりますので一番底のピークではマッチングは良好と言えます。
今回、図表からアンテナインピーダンスを1.5kΩとしましたが、HF帯のツェッペリンアンテナのインピーダンスを800Ω位で計算しているものが多く、このアンテナももっと低いインピーダンスでやり直した方が良いかも知れません。HF帯の場合はλ/dが今回よりはるかに大きくなるのでインピーダンスは高くなるはずですが不思議です。もしインピーダンスが低い場合は直列のCが大きくなり今回の構造では製作できないことになり、根本的に考え直す必要があります。
また、狭帯域になっていることはマッチングの同調回路のQが高いことが考えられ、Qが低くて高いインピーダンスに合うマッチング回路を考えなければなりません。
この測定の途中でアンテナ基部にアルミ板を付けたり、ラジアルに相当する線を付けてもこの特性にはほとんど変化がないため、一応電圧給電の動作をしているように感じられました。
今回の実験は結果的に失敗で、誰にもお勧めできませんので改めて考え直したい気分です。また機会があれば再挑戦してみます。
今回使ったスミスチャートのソフトは濱田倫一氏著作のMr.Smithを使用させて頂きました。いつも便利に使わせて頂いています。この場を借りて濱田氏に御礼申し上げます。
楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー
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