2013年7月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第2回 無線通信機の構成
アマチュア無線が始まった当初や1952年に再開された頃からしばらくは、受信機も送信機も自分で作る人がほとんどでした。今はデジタル化が進み、自分で作る人はあまりいませんが、無線通信機がどのような構成になっているのかは知っておく必要があると思います。自分で受信機や送信機を作るためには基礎的な知識が必要です。しばらく退屈かも知れませんがもの作りに必要な知識を深めてください。
無線通信機など電気回路では機能別に分けて表すブロックダイヤグラムがよく使われます。これで表すと全体的な動作が把握できるためブロックダイヤグラムを中心に説明していきます。ブロックダイヤグラムの枠の中は、実際にはIC、トランジスター、ダイオード、コイル、コンデンサー、抵抗などで構成されています。
2.1 受信機
図のようなスーパーヘテロダイン方式の受信機が長年使われてきました。これはアームストロングという人の発明で性能がよく今でもよく使われています。最近はデジタル信号処理(DSP)の技術が進み、中間周波増幅を飛ばしていきなりベースバンドと呼ばれる元の信号に戻す方式も多くなりました。
この方式を詳しく見てみますと、
・まずアンテナから入ってきた信号は高周波増幅器で増幅されます。
・局部発振器は名前の通り周波数を変換するための発振器です。
・この発信器の信号と高周波増幅された信号とが周波数変換器に加えられます。この周波数の差が中間周波数 (IF = Intermediate Frequency) となります。
・中間周波増幅器では必要なレベルまで増幅されます。
・その信号は復調器に入り元の信号に復調されます。復調のことを検波と言うこともあります。先に作ったゲルマラジオはこの復調器だけのラジオです。
・復調された信号はまだ弱くスピーカを鳴らす電力がないため低周波増幅器でスピーカを鳴らすレベルまで増幅されます。
周波数変換とは2つの周波数の和または差を取り出すもので、AMラジオの例では、中間周波数に455kHzを使うことが多いのですが、NHK東京第1放送の594kHzを受信するには、局部発振器の周波数は受信周波数より455kHz高い1,049kHzになります。(1,049kHz-594kHz = 455kHz) 455kHz低い139kHzでもいいのですが発振器が作りにくいため普通高い方にしています。中間周波数が455kHzと一定のため、発振器の周波数を変えると他の周波数の放送局が聞こえてくることが分かると思います。
この方式の特徴は、一度中間周波数に変換するため中間周波増幅で安定に信号を増幅できることです。周波数変換などせずに高い周波数そのままで増幅して復調しても原理的には可能ですが、1つの周波数で増幅度を上げると不安定になることが多いことと、必要な受信帯域を保つことが困難なためです。
では最近のラジオは実際どうなっているのでしょうか。下の写真は最近のラジオの内部を撮ったものです。このラジオは日本の地域によって異なる放送局の周波数の設定やタイマーその他色々な機能が入っているため、足の多い方のICは多分マイコンでそのような機能があり、小さい方のICにラジオの受信に関するほとんどの機能が入っているように思われます。右側の小さなICは多分電源のICではないかと思いますが、回路図がないのでよく分かりません。
ラジオも段々省エネ化され、このラジオも単4電池1本で100時間以上動作するようです。ラジオの機能が沢山増えても受信に関する機能は最初に示したブロックダイヤグラムの機能が基本です。その点ラジオもアマチュア無線の受信機もあまり変わりません。
最近はラジオだけではなく、ほとんどの電子機器はできるだけ1つのICにすべての機能を盛り込むような方向で考えられています。これは1つのICにすべての機能が入れば量産するほど安くできるからです。下の写真のICは先に示したブロックダイヤグラムの高周波増幅、局部発振、低周波増幅をのぞくすべての機能が入っている一例です。
今回のブロックダイヤグラムなどの説明の後、実際に受信機を作りたいと思いますがアマチュア無線のスタートはやはり短波帯(HF)から始めた方がよいと思いますので7MHzの受信機にしたいと思います。7MHzは変調方式がSSBと電信が主のためゲルマラジオと同じ復調方式が使えないので少し複雑になりますが、その通り作れば必ず働くものを提案したいと思います。先にものを作り、ものができてからその理論を調べて行きたいと思います。
2.2 送信機
既に説明したように音声などの情報を載せて電波を送り出すのが送信機です。色々な送信機をまとめてブロックダイヤグラムにすると図のようになります。実際には変調方式などによってそれぞれ異なりますが、まとめてブロックダイヤグラムにしました。これから実際に作っていく予定の送信機は短波帯7MHzのSSB送信機ですが、理論は少し複雑になるものの必ず働くものにしたいと思います。送信機も、ものができあがってから理論を考えたいと思います。
この送信機を詳しく見てみますと
・マイクから入ってきた音声信号を低周波増幅器で必要なレベルまで増幅します。
・発振1は変調の元となる発振器です。
・低周波増幅された音声信号で発振器1の信号を変調します。これはSSBやFMなど目的とする変調方式に合わせた変調です。
・変調された信号と発振2の信号との周波数変換で目的の周波数に変換します。
・周波数変換された信号はまだ弱いので高周波増幅で必要なレベルまで増幅します。
・最後に必要な電力まで増幅します。実際に大きな電力まで増幅しアンテナを接続しますと電波法違反になりますので、今回の製作では電力増幅はしませんし、アンテナも接続しません。
送信機では周波数変換は必ずしも必要ではなく、発振1が送信周波数でそのまま変調して出力することが可能ですが、全体の構成上一度周波数変換した方が便利なことがあり、ブロックダイヤグラムで入れてみました。
受信機と違って送信機の機能が多く入ったICはありません。これは一定の方式で大量生産できるような送信機はないのでICメーカーが作らないからです。このため、個々の機能を持ったICやトランジスター、FET、ダイオードなど寄せ集めて送信機を作ることになります。
2.3 変調方式
受信機や送信機を作るために必要な変調方式について説明します。アマチュア無線で、音声やデータの情報を相手に伝えるために変調という機能が必要になります。ゲルマラジオを作った時、ラジオの電波をゲルマダイオードに通して「検波」または「復調」の機能で元の音声を取り出しましたが、こちらから相手方に送り出すにはこの逆の機能が必要でそれを「変調」と呼んでいます。つまりこちらの音声を電波に載せて送らなければなりません。
人の声は300Hzから3kHz位の周波数に入っています。ピアノの鍵盤は88鍵の内、一番下が27.5Hz、一番上が4.186kHzになっていて音楽を聴く時などでは音声より広い周波数帯域が必要ですが、音声の通信ではこの範囲で十分です。
情報を載せる変調方式は図のように大きく分けて3つあります。最近のデジタル関係の通信ではこれらの変調方式を改良したり色々工夫してエラーをおさえたり情報量を増す方式を取り入れています。アマチュア無線ではここで紹介する音声のSSBや電信だけでなく、色々な通信方式や変調方式を使っている人がいますが、まず最初にSSBと電信を取り上げたいと思います。