2013年8月号

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EMEにチャレンジ (2)

編集部

筋が見えるのにデコードしない場合

同期信号の筋がはっきりと見え、TOLの許容範囲に入っているのに、デコードしない場合があります。それには様々な要因がありますが、一番多いケースは、当該局がCQやQRZではなく他局とQSO中の場合で、かつ受信した信号がリードソロモンデコーダーで解読できなかった場合です。このような場合は、そのQSOが進行し、ショートハンドメッセージを交換するステージになるとデコードできるようになります。

その次に多いのは、当該局のデータがcall3.txtファイルに入っておらず、かつ信号強度が十分に強くない場合です。もしLiveCQなどの情報で、その局のコールサインとグリッドロケーターが判明している場合は、手動でcall3.txtファイルに登録することで、デコードできるようになります。その他には、当該局のクロックが大きくずれている場合、当該局の変調が歪んでいるなど送信波自体に問題がある場合、QSBなどの要因によりその信号を解析するのに必要最小限のデータが受信できていない場合などがあります。

S/Nの向上

S/N 1dBの差が受信できるかできないかの分かれ目になることのあるEMEでは、リグの受信帯域を絞ってS/Nを向上させる方法も効果的です。SSBモードで帯域を絞れるリグを使っている場合、
同期信号が目視できる時は、リグの受信帯域を500Hzあるいは400Hzに絞ってみてください。通過帯域の下端(左端)側に同期信号が来る様にツインPBTで調整すると、約350Hz幅のJT65Bのスペクトラムがすべて通過帯域に入ります。また帯域を絞ることで、不要信号を帯域外に出す事もできるため、相乗効果が期待できます(写真8)。


(写真8) 受信帯域を1300Hz→500Hzに絞った例。

また、デコーダー(パソコン)側の性能アップ手段として、高性能なサウンドカードを使用している局も少なくありません。HF帯でのJT65モードの運用では明確な差は出なくても、EMEではサウンドカードの性能差が効いてくることがありますので、もしお手元に高性能なサウンドカードが装着されているパソコンがあれば、ぜひそのパソコンをEME受信に使ってみてください。

クロス八木の必要性

2mのEMEerの中にはクロス八木、もしくは水平偏波の八木と垂直偏波の八木の両方を使用している局が少なからずいます(写真9)。これを使う理由は、到来する電波の偏波回転を克服することです。ターゲット局から発射され、一度電離層を突き抜けて月で反射し、再度電離層を突き抜けた電波は、ファラデーローテーションの影響を受けて、どんな偏波(角度)で自局のアンテナ届くかは分かりません。出たとこ勝負になります。極端な例では、巨大アンテナから強大な実行輻射電力で発射された電波でも、自局のアンテナの偏波面と90度違って到達した場合は、多くの場合受信不能となります。

これを克服するには、水平偏波のアンテナと垂直偏波のアンテナの2系統を用意して、別々の受信機に接続し、さらに別々のWSJTで同時に受信すれば、少なくともどちらかのアンテナで目的の信号を受信できる可能性が高くなります。クロス八木の場合でも、同軸2本でシャックまで引いてきて、デュアル受信することで、同じ効果が得られます。


(写真9) 水平偏波4本と、垂直偏波2本の構築例。(JH2COZ局の6×14エレ八木)

通常、偏波面は時間と共に回るため、偏波面がマッチするのを何時間も待つことができたり、何日も同じ局とトライすることができたりするのであれば、単偏波でもEMEは楽しめますが、EME DXペディション局と短時間のうちにQSOしたい場合などは、両方の偏波を持っていた方が条件は有利になります。

それでも、到来した電波の偏波面がたとえば斜め45度の場合は、水平八木でも垂直八木でも約3dBのダウンとなり、(両方で同時に見えることもあれば)、この約3dBの悪化でどちらでも見えないことがあります。これを克服するために、ロータリー偏波として、アンテナの偏波面をモーターなどで回し到来電波に合わせる方法もあります(写真10)。受信目的だけであれば、(ロスの元となる複数のリレーを介した複雑な偏波切換機構を使用するより)、モーターで偏波面を自由に設定できるロータリー偏波がベターと言えます。


(写真10) ロータリー偏波の構築例。(JR3REX局の4×17エレ八木)

もし将来、本格的に2m DXCCを狙う際には、クロス八木、あるいは両偏波のどちらかを構築されることをお勧めします。ただし最近のEME DXペディション局は、わざわざ現地にクロス八木を持って行く局もあり、そういったケースでは、先方で偏波を合わせてくれるため、こちらは単偏波のアンテナでも短時間のうちにQSOできることもあります。なお、クロス八木に位相差をつけて給電する円偏波は相対的な利得が下がり、交信チャンスを逸することがありますので2m EMEにはお勧めしません。

情報収集

2m EMEのDXペディションなどは、ほぼすべてMMM (Make More Miles)のホームページ(写真11)に掲載されます。逆にこのページさえ定期的にチェックしていれば、QSOできるかできないは別として、2m EMEのDXペディションを見落とすことはまずありません。


(写真11) MMMのホームページ。 http://www.mmmonvhf.de/

受信目的のみでも、DXペディション局を呼ぶビッグガンを受信できるチャンスを知ることができるため、ぜひ定期的にチェックすることをお勧めします。なお、このページの登録メンバー(無料)になると、常々メンテナンスされている最新の「call3.txt」ファイルをダウンロードすることが可能になります。

最後に

できることはすべて実施したのにそれでも受信できないといった場合、まずは基本に戻って、アンテナの方向がずれていないかを確認してみてください。市販の安価なローテーターの場合、意外に誤差が大きいことがあります。また強風によって、コントローラーの指示と実際のアンテナの向きがずれてしまっていることもあります。その様な場合は、月が目視できる時に方向合わせを行ってみてください。

数回のチャレンジで受信ができなくても、さらにチャレンジを続けることで、いつかチャンスは巡ってくると思います。もし準備に十分に時間があるのなら、本年秋に開催されるARRL EMEコンテストに目標を設定してはいかがでしょうか。

次号では、いよいよ交信の手順について説明し、ハイパワーの免許申請や出力50Wでのチャレンジ方法についても触れてみたいと思います。

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