2015年9月号
テクニカルコーナー
ID-51&タブレットの移動運用に便利なケースの製作(サンプル型紙付)
JK3AZL 高岡奈瑞
ID-51&タブレットをアルミケースに入れて運用していると、たくさんの方から「どうやって作るの?」と声をかけられます。そこで今回は移動にも運用にも便利なケースの製作方法を紹介します。
ID-51による画像電送のデモ風景。
移動運用に最適なケースの条件とは
●必要な機材が全て収納できる。
●外部からの衝撃や振動を和らげる。
●移動時だけではなく運用時にも使える。
以前、カメラマンが使う専用カメラケースのようなものが欲しくて、緩衝材を加工している会社に見積を依頼したことがあります。ところがあまりの値段の高さ(緩衝材だけで何万円も!)に驚き、なんとかならないか調べ始めたのがケース製作のきっかけでした。
緩衝材
大事な機器を保護してくれる緩衝材には多くの種類があります。そこでケース加工の前に、比較的安くて入手しやすい緩衝材を紹介します。
■発泡ポリスチレン
ポリスチレン樹脂を膨らませた素材で、製法によってPSP(Polystyrene Paper)、EPS(Expanded Polystyrene)、XPS(Extruded Polystyrene)に分けられます。電化製品の緩衝材の他、食品トレイやカップ麺容器など使い捨て容器としても使われています。軽くて値段が安い反面、指などで押すとへこんで復元しない特徴があります。
無線機ケースに使いやすいものとして、『スチレンペーパー』や『カラーボード』などがあります。スチレンペーパーは目の細かい発泡ポリスチレンを薄いペーパー状にしたもので、曲げても折れにくい特徴があります。カラーボードは発泡ポリスチレンに着色したもので、何れもカッターなどで加工がしやすいため、工作や立体造形など幅広く使われています。
百円ショップのカラーボード。
電池式の発泡スチロールカッターがあれば曲線加工もできる。
■発泡ポリエチレン(EPE Expanded Poly-Ethylene)
エチレンを原料に発泡させ、弾力を持たせた素材。発泡ポリスチレンより柔軟で曲げやすく熱で接着できるため、加工性に優れています。また発泡ポリスチレンと違い指で押しても復元します。
よく見かけるこんな緩衝材は発泡ポリエチレン。
『発泡ポリエチレンシート』は発泡ポリエチレン素材をシート状にしたもので、加工しやすいためパネルや工作などにもよく使われています。
発泡ポリエチレンシート。通販などでも入手できるが、発泡ポリスチレン製品よりやや高い。
■軟質ウレタンフォーム
ポリオールとポリイソシアネートを主成分として樹脂化させながら発泡したもので、柔らかくて復元性があるため、緩衝材だけではなく、クッションやマットレス、化粧用パフなど幅広く使われています。
キッチン用のスポンジも軟質ウレタン製品。波形のものもある。
制作に必要な道具
まずは道具入れに必要なサイズを決めるため、無線機やタブレットの他、予備バッテリーやケーブルなどケースに収納したい機材を集めます。ハンディ機と7~8インチサイズのタブレットであれば、A4サイズ程度のケースでも収納できます。
サイズが決まったら、ケースや緩衝材、加工用ツールを用意します。
●ケース(市販のアルミケースやプロテクターツールケースなど)
●緩衝材(厚み5~10mmくらいのシート状のものは初心者でも加工しやすい)
●カレンダーなど型紙に使える紙4~5枚
●筆記用具
●定規
●はさみ
●カッター(文具用などの細身のもので、新しい刃の方が緩衝材を加工しやすい)
●仮止め用テープ(マスキングテープなど。あると便利)
●下敷き(カッターで傷をつけないための下に敷く厚手のもの。厚めの段ボールでも可)
ケースは近所のホームセンターで売っているアルミケースやプロテクターツールケースなど何でも良いのですが、角に丸みのないデザインの方が緩衝材を加工しやすいので便利です。私はアイコムの直販サイトでも扱っているA4サイズのアルミケースを愛用しています。
緩衝材の加工に不安がある場合は、100円ショップやホームセンターで購入できる安い素材で試作すると良いでしょう。今回は復元性のある発泡ポリエチレンシートと、波形の軟質ウレタンフォームを取り寄せました。
型紙を作る
道具が揃えば、次は型紙を作ります。型紙と言ってもラクガキ程度のもので十分に使えます。
まずアルミケースの内寸を測り、型紙用の紙を内寸に合わせて切ります。
ここで実際にケースに入るのか?切った紙をケースの中に入れて確認します。
入った。このサイズで大丈夫そうだ。
サイズが確認できたら、同じサイズの紙をあと4枚ほど作っておきます。
1枚目の紙に、右端から15mmの位置に縦に線を引きます。
右に引いた線を基準にしてレイアウトを決める。
基準になる線の左側にタブレットを置き、さらにタブレットの左端から15mmを空けてリグと予備バッテリーを配置し、これらの外周を鉛筆などでトレースします。
外周をトレース。
次にタブレット等を取り除き、トレースした線(この状態では曲線が多い)をカッターで切りやすいよう直線化します。左に余った空白部分は、道具入れになるよう、上下左右から15mmの余白を残して線を引きます。
カッターで切りやすいよう直線にした型紙。
書き込み終わったらカッターやはさみを使ってカットします。これで1枚目の型紙が完成です。
切り抜いた状態。 (1枚目の型紙)
念のため、型紙の上にタブレットやリグなどを置いて、寸法に間違いがないか確認します。
寸法に間違いがないか機材を置いて確認。大丈夫そうだ。
次に2枚目の紙の上に1枚目の型紙を置き、カット部分を鉛筆でトレースします。2枚目は、(タブレットを収納する下の部分をさらに小物入れとして有効利用するため)、タブレット位置の左右15mm内側に線を引き直し、1枚目と同様に、カッターやはさみを使って切り抜きます。
タブレットの部分は、左右15mm内側に直線を引き直してカット。(2枚目の型紙)
同じ要領で、3枚目の型紙は2枚目の型紙からバッテリーのみを除き、4枚目は左側の小物入れと、タブレット下の小物入れの四角部分の2箇所だけをトレースし、それぞれ切り抜きます。
3枚目の型紙。
4枚目の型紙。
緩衝材を加工する
型紙ができたので、いよいよ緩衝材を加工します。
用意した緩衝材の厚みとケース内寸(高さ)、無線機やタブレットの厚みを考慮し、使う型紙と加工する枚数を決めます。
10mmと5mmの緩衝材を使った時の組み合わせ例。(この場合、④の緩衝材は2枚必要)
クリックするとサンプル型紙(pdf形式)がダウンロードできます。
緩衝材加工が得意なOM氏によると「発泡系の素材をカッターで切る時は、力をかけず、小刻みになぞるように切ると綺麗に切れる」とのこと。
切り抜いた緩衝材を重ねてケースに入れる。
ふた部分に波形の軟質ウレタンを入れて完成。
最後に
今回は「運搬だけではなく運用時にも使う」ため少し固めの緩衝材を選びましたが、カメラやコンパクトHF機を「運搬する」だけであれば、緩衝材に軟質ウレタンフォーム(スポンジ)を使っても良いでしょう。ハムフェア2015では新しいコンパクトHF機が発表されました。次はIC-7300を持って飛行機で遠くに行くためのケースを作ってみたいと考えています。
ハムフェア2015で発表されたコンパクトHF機IC-7300。