2015年9月号
JA3AOP 杉山 曉さん
1937年生まれの杉山さん。中学生の頃から機械いじりに興味を持ち、壊れたラジオの修理などを行っていた。高校に入学すると、同級生にすでにアマチュア無線局を開局していたJA3DW三輪さんがおり、アマチュア無線を知った。
まもなく三輪さんと共に地元の姫路アマチュア無線クラブ(HARC)にミーティングに参加する様になり、杉山さんはアマチュア無線の知識を身に着けていった。自然な流れで開局を志し、小遣いがたまると姫路から大阪の日本橋まで部品を買いに出かけ、まずは受信機をコツコツ作り始めたが、高校3年になり受験勉強のため一時的に中断することになる。
ある日、本屋で「電気回路 交流現象理論(熊谷三郎著)」と出合ったところ、それまで疑問に思っていたことがその本に書いてあった。杉山さんはその本の影響を受けて通信工学の道に進む事を決め、大阪大学工学部通信工学科に入学し、その著者からじかに講義を受けることになった。当時は、通信工学科を設置していた大学が非常に少なかった時代であった。
入学後の1957年、杉山さんは(旧)第2級アマチュア無線技士の免許を取得し、受信機、送信機も完成させて、翌1958年に神戸市東灘区でJA3AOPを開局した。開局後は、主に7MHzのAMにオンエアしたが、「どちらかというと交信することよりも技術的な興味の方が強かったです」と話す。
開局当時の杉山さん。
学部卒業後は大学院へと進み、修了後も研究室に残ったが、研究が忙しくなるにつれて、徐々にアマチュア無線のアクティビティは下がっていった。そしてついに36年間のブランクに入り、JA3AOPの免許も切らしてしまう。
その後、民間企業に就職した杉山さんは、阪神淡路大震災をきっかけに悪路の走破性に優れ、以前から関心のあったランドローバーを購入した。以後、愛車ランドローバーでオフロードドライブを仲間と楽しんでいたが、そのグループにはアマチュア局をやっている仲間もおり、無線機があれば便利という理由で、車載機IC-706を購入して1997年に再開局を果たした。
オフロード走行会に参加
「私が自作機の次に使った無線機がIC-706でした。技術の進歩を大きく感じました」と話す。ただし、当時は過去に所持していたコールサインでの再開局ができなかったため、JM3MPFのコールサインでの再開局となった。幸運にも開局2、3ヵ月後には旧コールサインの復活申請が認められたため、杉山さんはすぐにJA3AOPで免許を取得し直した。
再開局後は、パソコン通信でFHAMというモービルハムのフォーラムに参加したところ、その中にモービルからのDXingにアクティブなメンバーが何人かおり、その影響で杉山さんはモービルDXingを始めた。それをきっかけに、本格的なDxingが楽しめる固定シャックを持ちたくなっていった。
1999年、杉山さんは兵庫県の丹波市にログハウスを購入。翌2000年には18mhのタワーにHF各バンドのアンテナを設置して別宅シャックを構築し、本格的な運用を始めた。そのころからコンテストにも積極的に参加を始め、何度かの入賞も果たした。ここから数年オンエアを続けた後、杉山さんはさらにロケーションのよい場所を探し始めた。この丹波市のシャックは山に囲まれていたため、本格的にDxingを行うには満足のいく飛びではなかったためである。
丹波市のシャック
無線運用に条件のよい土地を2年ほど探し続け、2006年、アマチュア無線用のタワーが建築可能な、淡路市の土地を購入した。崖っぷちの土地で、抜群の飛びが期待できる場所だった。購入の前に、杉山さんはカシミールでシミュレーションを行い、各方向への障害物(山など)の影響を十分に確認したという。
シャックとなる建屋には、米国からトレーラーハウスを輸入した。アンテナタワーは、丹波市のシャックから自立タワーを移設し、さらにクランクアップタワーを1基増設して2基体勢とした。アンテナは2基のSteppIR社の八木のほか、1.9~1200MHzのオールバンド運用に対応できるように構築した。そして変更検査を受けて1kW免許を受けた。
トレーラーハウスと2基のタワー
現在杉山さんはコンテストを中心に運用している。DXコンテストには主にシングルオペレーターで参加し、JARL主催のコンテストにはJA3YAAで、マルチオペレーターで参加している。JA3YAAは杉山さんも所属するJARL阪神クラブの社団局であり、設備共用で免許を受けてある。JA3YAAは2008年および2010年のオールアジアDXコンテスト電信部門において、マルチオペレーター部門でアジア1位を獲得している。また昨年2014年には年間を通したJARLクラブ対抗の順位で、地域クラブ部門の全国3位にランキングされた。このJA3YAAの成績アップも杉山さんの目標の一つとなっている
理想的な場所にシャックを構えることができたものの、苦労しているのは風対策だという。ロケーションが抜群なだけに、杉山さんのアンテナは常々強烈な風にさらされている。強風時はクランクアップタワーを下げ、固定タワーの方はアンテナ降下用のエレベーターを使ってアンテナを下ろしているが、それだけでは不十分で、さらにロープで縛っておかないと強風で破壊されてしまう。過去に甚大な被害を受けた経験もある。さらに風だけでなく、落雷で大きな被害を被ったこともあるという。
淡路市のシャックの眼下には大阪湾が広がる
杉山さんの今後の目標の一つはデジタルモードへの挑戦である。「これまで一度も経験がないので、ぜひトライしてみたいです」と話す。もう一つの目標は、「最近左耳が聞こえにくくなってきていますが、補聴器は完璧ではありません。左右の耳のバランスを補正し、さらに受信機の出力と自分の耳を最適にマッチングさせる装置を自作することです」と話す。
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