2015年12月号
テクニカルコーナー
<D-STARレピータ設置事例>
万一の災害時にもインフラとして活用可能なJP6YHZ(鹿児島430)を設置 - 鹿児島県鹿児島市/米盛病院(社会医療法人 緑泉会)
★移転開院を契機にD-STARレピータを設置
災害時に活躍が期待されるD-STARだが、実は鹿児島県ではレピータ局の設置がなかなか具体化していなかった。
内山氏は「“鹿児島はアマチュア無線のデジタル化が遅れている”と感じていました。県の防災訓練では、関係者から“アマチュア無線のデジタル機は少なくて訓練ができなかった”という声もありました。私としてもデジタルの普及率を上げ、鹿児島としての訓練を防災関係者と行いたいと願っていました」と振り返る。
そこで原口無線に相談をしたが、「当時の米盛病院は、鹿児島市内の、国道3号線に面した“V字の谷”のような場所にあり、電波の飛びもよくありませんでした。そのため、2014年秋の移転開院を待ってレピータを設置しようということになりました。そうすればサービスエリアも確保できますし、アンテナや配線なども建物の設計時に考慮できるからです」。そして移転開院の約1年半前から、原口無線のサポートのもとで、レピータ管理団体の結成や開設申請、建物内の配線や設置のプラン策定など準備を重ねていった。
10階のEPS内ラック(下段)に設置されたD-STARレピータ装置。ほかにID-5100や400MHz帯のデジタル簡易無線機(免許局)も設置。ここからも無線運用ができるようになっている
ちなみに、D-STARレピータの設置について、病院内で反対する声はなかったそうだ。「米盛病院は防災上の災害拠点病院を目指しています。そうすると電気や電話回線、ブロードバンド回線など“ライフラインの多重化”を国や県が求めてくるので、D-STARという通信手段を持つことは有益と判断されたからです」。
新築された米盛病院の建物だが、電気は2系統から受電しているという。さらに電話は災害優先電話、IP電話、スカパーJSATによる衛星IP電話(岩手県立医科大、奈良先端科学技術大学院大学と共同開発、インターネット接続とセキュリティ確保が可能)などを用意。つまり万一の災害時、病院内に設置されたD-STARレピータも、稼働を続ける可能性は極めて高くなっているといえるだろう。
米盛病院の屋上ヘリポート
ヘリポート横の塔屋にD-STARレピータをはじめとする、さまざまな無線アンテナが設置されている
EPS内にきれいに配線されたアンテナケーブル類。原口無線が無線システム全般のプラン策定に協力した
なお、無線系ではD-STARレピータ以外に、アイコム製の400MHz帯のデジタル簡易無線(免許局)を病院で導入したほか、鹿児島県との協定で「鹿児島県ドクターヘリ補完ヘリ」としても活躍するヘリコプターの運航に関連した無線システム、県内の防災無線や消防・救急無線(アナログ)の受信システムなどが設置されている。
1階のディスパッチ室の模様。デスクの右側にはID-5100、左奥には400MHz帯のデジタル簡易無線機(免許局)が置かれている
壁面のディスプレイ。消防・救急無線などをモニターするため、パソコン接続型受信機のIC-PCR1500の情報が右側に表示されている
ドクターカーなどで出動するスタッフのために、ハンディタイプのデジタル簡易無線機(免許局)も常備
こうして2015年2月14日から運用が始まったJP6YHZレピータは、鹿児島県内のアマチュア無線家にも好評で、県内のD-STAR対応機のユーザーは増加の一途をたどっている。内山氏は「通常このD-STARレピータは、地元の皆さんに自由に使ってもらって結構です。“地元との関わりはクローズでなくオープンに”というのが私たちのポリシーでもあります。実際、多くの方に利用していただいています」と述べている。
米盛病院の民間医療ヘリ「Red Wing(JA99KG)」。鹿児島県と「鹿児島県ドクターヘリ補完ヘリの救急患者搬送に関する協定」を締結。同県ではドクターヘリが運用されているが、重複要請事案や多数傷病者事案などが発生した場合は、県からの要請により「Red Wing」がドクターヘリとして補完活動を行っている
「Red Wing」の内部。担架やさまざまな救急医療資機材を搭載
「Red Wing」の操縦席。アグスタウェストランド社製のAW109SPという機体で、計器にグラスコックピットを採用した最新鋭のヘリコプターだ
10階にあるヘリの運航管理室。目の前に桜島が見える
ヘリの運航管理室に設置された無線機器類
【取材協力:米盛病院(社会医療法人 緑泉会)】