2015年12月号
連載記事
熊野古道みちくさ記
熱田親憙
第19回 和泉国で街道は太く
五月晴れに誘われてJR鳳駅を下車、和泉の国の一の宮となっている大鳥大社を訪ねた。
参道の両脇は赤紫と白のつつじで満開、背後に立つ楠の木々は新緑に萌えて「千種の森」に相応しい境内だ。奥に鎮座する大鳥型の古代建築の本殿は長い歴史を醸し出し、参詣者も切れ目がない。大鳥大社は大鳥連の祖神を祀ったのが始まりだが、日本武尊の白鳥飛来伝説から千種の森の社となり、参詣者も広域化した。鳥居傍に大きな献燈2基が寄進されており、木綿商之仲と刻まれていた。木綿産地の泉州らしいスポンサー振りが窺えた。
大鳥大社から熊野街道は駅前の鳳本通商店街に繋がっている。清潔な雰囲気に誘われて散策すると、現代的なショップ、レトロな店舗が並び、心地よいリズム感を感じた。間もなく、ちぐさのもり「コミュニテイサロン」の立看板に惹きつけられた。
「平日12:00~13:00みんなで一緒に昼食会 お昼ごはんを持参してもOK 近隣店で出前をとってもOK」のキャッチコピーに熟年や高齢者の独居人には嬉しいコミュニテイと感じた。部屋の中では昼食後の勉強会をして居られたケアスタッフが「ここでいろいろ学ぶのがいいみたいです。この場は向かいのクリニックさんが提供されています」と説明して下さった。「きめ細かな企画だね」と返し、介護の前に人と人とのふれあいの必要を学ばされた。街道がコミュニテイの空間にもなっていた。
次に、JR北信太駅から徒歩で、信太妻の民話として伝えられている信太森葛葉稲荷神社に向かった。
摂津国阿倍野に住んでいた安部ノ保名は、信太の森に家名再興の祈願を重ねていた。ある日、保名はこの森で狩人に追われた白狐を助けた。その時保名は手に傷を受けてしまった。その数日後、白狐は葛の葉という女性に化けて保名を見舞った。互いの心が通じ合い、妻になり、童子丸をもうける。童子丸が五歳の時、眠っているうちに神通力を失って狐の正体を現してしまった妻は 『恋しくは 訪ねきてみよ和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉』の歌を残して故郷の信太の森へ帰っていく。童子丸と保名は、信太の森を訪ねると、社前に葛の葉が群がり茂っており、その茂みが夫とわが子をみて、一斉に葉をそよがせ、葉裏をみせてざわめいたという。見事な物語である。
童子丸は、後に日本随一の陰陽師・安倍晴明となり、冷泉など三天皇に仕えた。晴明父子が住んだ地が阿倍野王子である。
この森は御命婦神白狐の棲む稲荷神社として奉られて1200年以上になるが、境内には婦人病の神さま、胃の神様、龍神の神様、肩こりの神様、集金の神様、目の神様など、身近な願いを込めた石碑や祠が多く寄進されていた。人の願いは古今変わらない。5時の時報が鳴ると、お稲荷さんに地元の人々が集まり、合掌する姿が見られた。摂津の国(大阪)の熊野街道はわずかに残って細い破線のようだが、泉州に入ると太い線で繋がっており、地域の動脈になっていることに救われる思いだった。
スケッチ 大鳥大社と鳳本通商店街(堺市西区)
熊野古道みちくさ記 バックナンバー
- 第31回 「黒潮の基地」だった湯浅
- 第30回 湯川王子社
- 第29回 紀の川を渡る
- 第28回 山口王子跡から山口神社
- 第27回 波太神社の秋祭り
- 第26回 大阪最後の宿場町へ
- 第25回 タオルの町・泉佐野市へ
- 第24回 和泉式部と行基の伝承地
- 第23回 木綿の産地だった泉大津市
- 第22回 備長炭の魅力
- 第21回 日高川最後の筏師
- 第20回 中将姫会式にこども菩薩
- 第19回 和泉国で街道は太く
- 第18回 住吉神社から方違神社へ
- 第17回 阪堺電車で安倍王子神社へ
- 第16回 上町台地に残る熊野街道(天満橋~天王寺)
- 第15回 淀川下って渡辺津(八軒家浜)へ
- 第14回 熊野詣の起点・城南宮
- 第13回 春一番、男の祭だ!お燈まつり
- 第12回 美味追及するみかん農家
- 第11回 大辺路の遺産登録の夢を追う
- 第10回 西日を受けて神幸船は走る
- 第9回 いい塩梅に干し上がった南高梅
- 第8回 熊野のミツバチに魅せられた男
- 第7回 伏拝に生かされて80年
- 第6回 熊野を思う森の護り人
- 第5回 那智の火祭との出会い
- 第4回 今年も那智の火祭りへ
- 第3回 湯登神事と宮渡神事に神の予感
- 第2回 まずは大斎原(おおゆのはら)へ
- 第1回 アンテナの見える丘