2015年12月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第31回 続CW復調改善 その2
前回の記事「続CW復調改善 その1」では復調時の周波数のズレの問題があり、今回なんとかその改善をしたいと取り組んでみました。
改善の要点は少々チューニングがずれても正確にBPFの中心周波数に戻そうとするもので、入力された信号を一度周波数変換して正確にBPFの中心の600HzになるようPLLで補正するものです。
1.構成
今回考えた構成は次の図のようになります。
入力信号をアンプで必要なレベルに増幅してミキサーに入力します。このアンプは前回と同様に振幅制限をかけて信号の振幅変化を抑えることにしました。一方ミキサーには局発としてVCOからの信号を入力します。以前の「CW復調改善」の経験で、入力の周波数範囲を少し広げて±100Hzの500Hz~700Hzとすると、目的の出力周波数は600Hzのため局発のVCOの周波数は入力信号より上側では、1100Hz~1300Hzになります。
入力信号とVCOの二つの信号の入力でミキサーの出力には+側(VCO+信号)と-側(VCO-信号)の両方の信号が生成されますので、後のLPFで-側の信号だけを取り出します。この出力を必要なレベルに増幅して位相検波器に入力します。また、位相検波器(周波数/位相検波器)にはレファレンスとして発振器より600Hzの信号が入力されます。この信号とアンプの出力を位相比較器に入力して両信号の位相を比較し、位相の差に応じた直流出力がミキサーの出力が常に600HzになるようVCOをコントロールします。
仮に500Hzの信号が入力されると、VCOは1100Hzに調整され、また700Hzの信号の時にはVCOが1300Hzに調整され、常に出力が600Hzになるように動作します。従ってチューニングした周波数が600Hzよりズレていても、常に600Hzに自動調整された信号が出力されることになります。
2.回路
全体の回路図は次のようになりました。
入力側のアンプはOPアンプ4558の普通の増幅回路ですが、D1とD2およびR5で振幅制限をかけています。
VCOのMC4024と前回も使った位相検波器MC4044は少し古いのですが、昔のモトローラのPLL構成のものが手元に残っていましたのでそれを使いました。巻末のコラムにMC4024の概略の規格を載せています。発振器のMC4024は発振回路が2組入ったICですが、このICでなくても多くのコンパチ製品のある555でも使えます。
位相検波器MC4044は周波数/位相検波器で前回チューニング表示に使ったものと同じものです。
ミキサーは以前掲載した記事「送信機」の変調器に使った回路と同じものにしました。以前からCMOSの4066のスイッチによる変復調器が少し気に入っていて今回も使用しました。以前掲載した「送信機」でも説明したようにスイッチはミキサーになりますが、局発との周波数関係が近いため出力波形を見ると妙な感じがするかも知れません。IC2AとIC2Bで入力信号を180度反転した信号を作り、VCOの信号で交互に切り替えるように動作します。
波形を見やすくするため、入力400Hzの時のミキサーの前後の波形は次のようになっています。
ミキサーの出力は、入力が500Hzの時のVCOの出力は1100Hzで、マイナス側では600Hz(=1100-500)ですが、プラス側の信号は1600Hz(=1100+500)になります。また、入力が700Hzの時にはVCOは1300Hzですが、プラス側の信号は2000Hz(=1300+700)になります。これらの関係からLPFを使用し、そのカットオフは800Hz位にしてそれ以上の不要な周波数成分を減衰させます。
このLPFの計算値は次のようになりましたが、コンデンサーの値に端数があるので市販の値に合わせて13.25nを15nに、37.81nを39nに、457.57pを470pに変えたため少し特性が変わりました。多分問題なく使えると思いますのでその値でシミュレーションした図を次に示します。
このLPFでは800Hz以下の周波数成分が通るため、その結果600Hzが残ります。この信号をロジックICのアンプIC4Fと更にIC9Aを通すと600Hzの矩形波で位相検波器の入力になります。最初は、IC9Aはなかったのですが、IC4のゲートがアンバッファのため波形が安定せず位相検波器の動作が不安定なため追加しました。
レファレンスは前回検討したものと同じものを使いますが、この600Hzの周波数誤差はほとんど問題にならないので水晶発振子の誤差や安定度など規格を気にせず使えます。分周器も前回検討したものをそのまま使います。
VCOはIC7のピン2のVcx1端子の電圧を変化させて、必要とする1000Hz~1300Hzまで少しマージンを含めた周波数変化を確認します。その時のVCOの周波数変化は次のようになりました。
最初はVCOの周波数範囲を広く取っていたのですが、入力信号のCWのスペース時に信号がなくなるためVCOの周波数が高い方に張り付き、このためミックスした信号の周波数が高くなってLPFの帯域外に出てしまい、位相検波器の信号がなくなって元に戻らないことが分かりました。
対策としてR32とR85を追加し、R85を調整して必要以上にVCOの周波数を上げないようにして解決しました。
ミキサーから出力された600Hzの信号の波形は前回「続CW復調改善 その1」で検討したものと基本的に同じです。前回の3段は少し急峻過ぎるように感じられるため2段にしています。その特性は次の通りです。
3.組立
今回の試作も蛇の目基板に組み立てました。今回使ったICも古いものが多くすべてDIPタイプの足間隔が2.54mmのものになりました。前回同様、それぞれの機能をブロック分けして、測定と確認がやりやすいように3カ所に端子をつけました。確認後は端子間をジャンパーしておきます。
4.試験結果
入力から220mVのAF信号を入れるとIC1Aで560mV位に増幅されます。これ以上の入力ではD1、D2によって振幅制限をされてだんだんピークが抑えられてきます。IC1Bで1.9Vまで増幅され、前述のIC2AとIC2Bおよびミキサーで周波数変換されます。
この信号で先に示した波形のように動作するか確認します。入力周波数は500Hzから700Hzまで変化させて動作を確認します。PLLループが回って正常に動作すれば、入力の周波数を変化させても出力はいつも600Hzが出てきます。
この600Hzの信号をBPFに通すと前回の「続CW復調改善 その1」の出力波形と変わらない正弦波に近いきれいなトーンが出力されます。
5.実用試験
元々今回のユニットの製作はJA3CLMさんのDSCWに表示する誤字の減少が目的のため、ユニットが一応完成したので接続してみました。DSCWを動作させるパソコンへの信号入力は、直接受信機からの出力と、このユニットからの出力をスイッチで切り替えて比較しました。
切替スイッチと接続ユニット
今まで実験に使っていたDSCWのバージョンを確認するとV1.8.6でしたが、最近のものはV3.00.00で、これをダウンロードして使ってみるとすごく改善されており、受信機からの信号を何も加工せずにそのまま入れても文字化けは非常に少なくなっていました。逆に今回製作したフィルター型の600Hzの信号を入れると文字化けが増える傾向にあることが解り、結局何のためにこのユニットを考えたのか意味が分からなくなってしまいました。DSCWはFFTの信号処理をしているようなので、シングルトーンに近い尾を引くような信号では逆に不具合な動作になるようです。
信号のS/Nさえ上げれば文字化けが改善するだろうという単純な発想が間違いの元になりました。それでも今回製作たフィルターからの出力を、そのままイヤホンで聴くとノイズの少ない信号として聞こえます。
DSCWに入力した画面は次のようになりました。
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