2013年9月号
テクニカルコーナー
EMEにチャレンジ (3)
編集部
相手局から応答があった場合
幸運にも相手局から「JA3YUA 9X0EME KI58 OOO」の様なレポートが返ってきた場合、自局の次の送信がスタートする前にTX3にチェックを入れショートハンドメッセージの「RO」を返します。このROは相手局から自局へのレポート「O」(オー)を確認した意味の「R」と、相手局宛のレポート「O」を組み合わせた「RO」です。
(写真4) TX3にチェックを入れて「RO」送出。
こちらから送った「RO」が再び相手局に届いた場合は、相手局から了解の意味の「RRR」が返ってきます。しかし、こちらからの「RO」が相手局に届かない場合は、相手局は再度レポート(JA3YUA 9X0EME KI58 OOO)を送ってきますので、自局からは再び「RO」を返します。相手局からの「RRR」を受信できない限り次に進んではいません。もし相手局からの「RRR」が受信できたらこの時点でQSOは成立となりますが、「RRR」が受信できたことを相手局に伝えるために最後に「73」を送信します。
相手局側で自局から送った「73」が受信できると相手局からも「73」が送られてきますが、もしこの「73」が受信できかったとしても、すでにQSOは成立していますので、JT65 EME Link by NØUKでQSOのお礼のメッセージを送って終了とします。注意しなければならないのはQSOの途中でJT65 EME Link by NØUKで進行状況を書き込むことは禁止されています。すなわち、「今××のメッセージを送っている」とか、「××のメッセージを確認したという」といった、QSOの進行状況をネットで伝えてはならない訳です。これをやるとネットQSOになってしまうからです。
ただし、なかなかQSOが成立せず途中でギブアップする際は、その意思表示の書き込みはOKで、「信号がダウンしたので今回はギブアップするが、次回またトライしたい」旨を伝えることで、相手局はこちらのコールサインを覚えておいてくれるでしょう。これはスケジュールQSOでも同様です。一旦QSOに入ったらQSOが成立するか、途中でギブアップするかのどちらかまでは、ネットに書き込むことなく忍耐強くすすめないといけません。相手によっては30分とか1時間もつきあってくれることもあります。このあたりは、JT65 EME Link by NØUKを数日間ワッチすることで、要領がつかめると思います。
QSO成立後
QSOが「RRR」の受信まで進み、QSOが成立したら、JT65 EME Link by NØUKでお礼を書き込むのが普通ですが、その際、相手局の信号強度(S/N)を合わせて伝える局が多いです。QSOに成功した相手局からも「あなたの信号は××dBでした」という書き込みがあると思います。この時のS/NはQSO中のベストの数値を伝えましょう。なお、ここではQSLカードの交換について言及しない局がほとんどですが、他のバンド同様、1stQSOの場合は基本的にQSLカードを交換します。EMEはQSOが難しいため、早くカードを入手できるダイレクトによる交換も数多く行われています。
なお、QSOが成立したWSJTの画面は、スクリーンショットを撮って画像ファイルとして保存しておくことをお勧めします。QSO時のスクリーンショットを見ることで、QSOに至ったプロセスや相手局の信号強度の変化、またQSOに成功した自局側のWSJTのセッティング状況などが確認できるので、後年、当時を思い出して感慨にふけることができるかも知れません。もちろん、WSJTの録音(Save)機能をあらかじめオンにしておくことで、受信信号を音声ファイルとして残しておくことも可能です。
今号ではCQ局をコールする方法について説明しましたが、慣れてきたら自局からCQを出す方法も有効です。CQを出す場合は、必ずJT65 EME Link by NØUKに、CQを出す周波数と、Tx 1stかTx 2ndかを書き込んでください。この書き込みを行うことで、こちらの信号の受信にトライしようとする局が、こちらのコールサインとグリッドロケーターを自分のcall3.txtファイルに登録してくれます。何も書き込まずにCQを出した場合は、タダでさえ弱い電波なので見つけてもらえる可能性は低く、さらに相手局のディープサーチデコーダーも機能しないため、QSOできる可能性は極めて低くなります。
最後に、スケジュールQSOについては、JT65 EME Link by NØUKの上で組まれることがほとんどで、今やEメールや手紙などで組まれることはあまりありません。依頼の仕方や依頼の受け方は、他局のやり方を見て参考にして下さい。ランダムQSOがなかなか成功しない場合は、ビッグガンにスケジュールQSOを依頼する方法が手っ取り早いかも知れません。なおスケジュールQSOの場合は、概ね20分間程度トライして、双方共に見えない場合はギブアップするのが普通ですが、1時間くらい根気よくつきあってくれる局もいます。
免許申請について
EMEを十分に楽しむためには、やはりハイパワーが必要となります。免許電力を超過したオーバーパワー運用は法令違反となりますので、きちんと免許を受けてパワーアップする必要があります。特にEMEでは計算で相手局のパワーがある程度判明し、ごまかしが利きませんので必ず正式な免許を受けてからハイパワー運用を行って下さい。
現在HF帯や50MHz帯では、200Wまでの免許は落成検査/変更検査なしで申請だけで取得することが可能ですが、144MHz帯では、50Wを越える場合、たとえ100W出力でも落成検査/変更検査を受ける必要があります。これが少々ネックとはなりますが、検査は1回で済ませた方がベターなので、1アマを所持している場合は500Wを申請することをお勧めします。2アマ免許の場合は200W申請になります。なお144MHz帯の1kW免許はおそらく前例がないため、これの取得はかなり難しいと思われます。
申請にあたってはHF帯での一般的なハイパワー免許申請に必要な書類一式(電波防護に関わる計算書を含む)と、高出力の要望書(理由書)、さらにEMEの申請では回線設計書が必要になります。その他にも必要な書類が発生する場合がありますので、EME用のハイパワー申請を計画した場合は、まずは管轄の総合通信局に、(どんな書類が必要かを)相談してみることをお勧めします。
(写真5) JK1IQK鈴木氏作の「局免印刷」を使用して算出した回線設計例。
申請書類が準備できたら管轄の総合通信局に提出し、(途中、内容の修正や追加書類が発生することもありますが)、変更許可(変更申請の場合)が下りてくるのを待ちます。変更許可が下りてきたら、送信設備(リニアアンプ等)を準備します。その後試験電波発射届を提出してから試験電波を発射し、万一何か問題があれば解決し、工事落成届けを提出して変更検査を待つことになります。費用は多めにかかりますが、総合通信局の変更検査ではなく登録点検業者による点検で行くことも可能です。
最後に
アマチュア無線の数あるジャンルの中でもQSOの達成が特に困難と言われるEME故、QSOに成功したときの喜びは言葉では表現できないものがあります。さらに、他のバンド同様、装備の拡充がQSO数の増加に繋がっていくため、EMEにおいてもアンテナのエレメント数を増やしたり、受信アンプ、送信アンプを付設したり、少しずつ設備を充実していくのもまた楽しいと思います。今回は交信方法の概略について説明しましたが、長くなってしまいましたので、送信におけるコツなどは、次号(最終回予定)に記載します。
最後になりましたが、QSOに成功した際には、ぜひFB NEWS編集部までご一報いただけますと幸いです。