2015年7月号

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テクニカルコーナー

KEY SPEED範囲がカスタマイズできるエレクトリック・メモリーキーヤー

JA1SGF 松本敏巳

[1] はじめに

ペディション局等と無線機(以下TRX)のメモリーキーヤー機能を使ってQSOした後にKEY SPEEDの位置を何時も使う位置に戻しますが、使っているメーカー製のつまみは径が小さくて戻したつもりでも、何時もと違うと感じて微調整をすることが多々あります。またボリューム範囲の一部しか使っていません。

同様に感じている方は多いようで、小さな径のつまみに大きなつまみを被せた例や一部のカタログには「CWオペレーターの声により、つまみを大型化して微妙なスピードコントロールを可能にした」と載せていますので、多くの方々が自分に合った微妙な調整を気にしているようです。

大きなつまみにするのもほんの少しだけ改善しますが、根本要因はそれぞれの使用者には自分の好みのスピード範囲があり全部の範囲・角度を使わないという事と、スピードを可変した後は何時も使うスピードに戻す事にあると思いこのキーヤーを作成してみました。機能とか画面遷移は今使っているメーカーの物に倣っていますが、他メーカーの物でもほぼ同様ですので違和感はないと思います。

まずは外観写真を示します。


写真1 外観

[2] 特徴と機能

(1)特徴
・KEY SPEED調整ボリュームの最大/最小位置のスピードを自由に設定可能
これにより使用者それぞれに合った最適なスピード範囲がセットでき、スピード変化がゆるやかになる
・何時も使うMy Speedも設定可能で、このMy Speedにボタン押し1つで直ぐに戻せる
・LCD表示による視覚的な各種設定 (高級デスクトップTRX同様)

(2)上記以外の主な機能
(a)多機能エレクトリック・キーヤー
・ボリュームによるスピード可変 約4.5wpm~60wpm (PARIS方式)
(この範囲内でボリュームの最大/最小位置のスピード設定可能、何時も使うMy Speedの約±10%まで)
・ボタン押し1つで、何時も使うMy Speedに戻せる
・小数点以下も表示するwpm単位でのスピード表示 (wpm単位なのに小数点も変ですが・・・連続ですから)
・長短点レシオ (ウェイトレシオ:2.5~4.5)
・極性反転
・キーヤー・タイプ選択 (エレクトリック、バグキー、ストレート)
・500Hz~1050Hz、50Hzステップ 12種類のサイドトーン (PWMによるサイン波)
・長短点メモリー機能 (メモリーなし、メモリー開始時間 10%~90%で設定可能)

(b)メモリー・キーヤー
・各50文字x4ch (タイトルセット式)
・欧文/和文と数字、各記号対応
・シリアルコンテストナンバー自動カウントアップ機能 (001~9999)
・コンテストナンバー省略符号化機能 (NORMAL/190→ANO/190→ANT/90→NO/90→NT)
・リピート機能とインターバル時間選択 (1/2/5/10/15/20/25/30/35/40/45/50/55/60sec)
・ワード間スペース選択 (7dot/5dot分)

(c)受信練習機能 (欧文/和文、1/2/3/4分切替 655文字まで、5文字毎/ランダム スペース切替)

(d)LCDバックライトのオートディマー機能、バックライトON/OFF機能

[3] 回路ブロックと回路


図1 ブロック図 (クリックで拡大します)


図2 回路図 (クリックで拡大します)

PIC16F1938でキーヤー動作、Auto Dimmerコントロール、サイン波のサイドトーン発生、LCDモジュールのコントロール、EEPROMへの保存等ほぼ全てを行っています。Auto Dimmerの出力はRC2のCCP1を使っており、PWM PERIOD=15.625kHzと高い周波数にしてオーディオへの回り込みを防止しています。

F-1~F-4、EXITの各スイッチには良い物を使用してください。プログラムのデバック評価基板では1個10円のスイッチを使用していましたが、全部が2~3回以上交換しています。

またサイン波のサイドトーンはRB3のCCP2で発生させて、CRによる2段のLPFでサイン波だけをAF AMPのLM386Nへ送っています。大音量で音が歪む場合はR1 200kΩを調整して改善してください。さらに回路図のKEY SPEEDボリュームへの+5V接続点には安定化のために10μF位のコンデンサーを入れてもよいかもしれません。

LCDモジュールにはSC1602BSLBを使っていますが、このバックライト用のLEDは高輝度タイプではないようで、Q2トランジスタがON状態で60mA弱も流しているにもかかわらず、写真2のように少ない電流を流している高輝度タイプのLCDモジュールよりも暗いため高輝度タイプの物をお奨めします。

<Q2トランジスタがON時の電流>
SC1602BSLB ==>約55~56mA
高輝度タイプ ==>約7~8mA


写真2 LCD明るさ比較

主な部品表を示します。

[4] ケース組み込み

写真3にケース内部の組み込みを示します。今回はケースにタカチYM-130を使い、高さが30mm(内部は28mm)しかありませんのでLCDモジュールとの間隔がなく、モジュールとの接続用コネクタ(14ピンとバックライト用3ピン)はICソケットを加工して作っています。

またLCDモジュール、SW基板以外の接続はコネクタを使わないで端子の半田付け方式で行いましたが、ケース組み込み後の動作確認で何回も半田付けのやり直しをする羽目になりましたのでこれらもコネクタ形式にした方がよいと思います。

スピーカは薄型の物をメイン基板の下に置きましたが、これもメイン基板下の配線との余裕が少ないので、前面側へずらした方がベターかもしれません。作成の物にはICSPコネクタは実装していませんが、評価基板で回路図の通りで動作確認はしています。


写真3 ケース内部

[5] プログラム

プログラムは初心者なのでアセンブラ言語で記述しています。
(1)サイン波の発生
サイン波発生のプログラムはインターネットで調べたソースコードを参考にしていますが、500Hz~1050Hzまで12種類もあって全部のサイン波テーブルが256バイト以内には収まらないので、波形テーブルが途中で”0xff”を越えても問題ないように変更しています。

(2)Cカーブ化
KEY SPEEDの可変はKEY SPEEDボリュームの電圧値を10bit ADCで取り込んで、これによって計算でTMR1H/Lと更に設けた上位バイト変数TMR1HHを変更して行っていますが、当初リニア計算でやっていたらボリュームのセンター角度でも殆どスピードが上がりませんでした。

今使っているメーカー製のTRXはセンター角度で程好いスピードになっています。取り込んだADC値をルート(x)計算やLog(x)計算する方法も考えましたが、これらでは約4.5wpm~60wpmとした場合に図3のようにセンター角度でのスピードは上がりますが、スピードの遅い所の角度0~15度で急にスピードが上昇することが計算で判り止めました。

色々と考えてCカーブ化(図3のC_wpm)に辿り着きました。これだと素直にスピードが上昇してセンター角度でも程好いスピードになりそうです。実際にはセンター角度でのスピードを今使用しているメーカー製TRXと耳で聞いてほぼ同じになるようにCカーブ化率(センター角度でどの位持ち上げるか)を変えて決めています。


図3 Cカーブ化比較

(3)LCDモジュールの表示不正
各EDIT画面と各タイトル画面でKEY SPEEDボリュームで編集文字を変更していると稀にLCDの表示不正(関係ない文字等が別の所に表示される)が発生することがあります。PIC16F1938側のプログラムはそんな画面データは送っていないし、LCDモジュールのタイミング等の仕様は守っているし、BUSYチェックもしているのですが稀に発生します。

どうもLCDモジュール側が読み取りエラーしているような感じです。この現象が出た時には左右スクロールで編集文字位置を変えてボリュームを少し変えてみるか、一度電源をOFFにしてから再度編集をやり直してみてください。

(4)その他
・欧文(VAKN)と和文(段落)はLCDモジュールに適当なキャラクタ文字がなかったのでカスタム文字にしています。 また和文の下向きかっこと上向きかっこは横表示なので”「”と”」”で代用しています。
・EDIT文字は欧文の文字、数字、記号と和文の文字、記号等を連番で番号付けをして、JR7RARさん考案のCWコードとLCD表示文字のテーブルを用意して、連番番号によりLCD表示とCW送出を行っています。
・語間スペースも1文字とカウントします。
・EDITタイトルは4文字以内ですので、Q符号やCW略符号を上手く使うとよいでしょう。
・EDITタイトルからEDIT画面に戻った時に稀にEDIT画面のカーソル位置の文字が変化することがあります。これは文字変化の境目で戻った時の電圧変化ゆらぎによる現象です。表示内容を確認してからEXITキー短押しで抜けてください。(ADC値の不感幅を大きくすると軽減しますが、こんどはボリュームを変化させた時の反応性が悪くなるので、両者のバランスを見て決めています)
・電文例は当局のコールサインになっていますので、ご自分のコールサインへ変更して使用してください。
・wpm表示値は表示の1つ下の位で四捨五入しています。例えば20.2wpm表示の場合は計算結果が20.15~20.24wpmの範囲になっています。

最新のプログラムは、ここをクリックするとダウンロードできます。
変更履歴は、ここをクリックすると開きます。

最新の操作マニュアルは、ここをクリックするとPDF版の操作マニュアルが開きます。

以下に主なLCD画面の写真を示します。

写真4 LCD画面

[6] RF回り込み対策

当局のTRXとANT設置環境はTRX=100W、ANTは釣竿ANT+ATUで数本のGND線を這わせいます。接地型ANTはGND面を探すタイプなので回り込みを起こし易いのですが以下のような回り込みが発生しました。(3.5MHz~50MHz帯で確認)
・AF音に異音が出る
・電鍵をOFFにしても送信状態が続く (特に3.5MHz帯ではキーヤーの電源OFFでも起こる)
・LCDモジュールのバックライトが明るくなるバンドがある
・LCDモジュールのバックライトが少し暗くなる

(1)AF音の異音発生は当初AF AMPの入力にはC4=4700pFが入っていなかったのですが、これを入れる事により解決しました。

(2)送信状態が続く回り込みは当初、KEY OUTのトランジスタQ1に抵抗内蔵タイプを使用していて、これのベースがRF的に浮いていて発生していることが判明しました。Q1を2SC1815に変更してベースをパスコンでGNDへ落として解決です。

(3)バックライトが明るくなる現象も同様で、当初はDimmerコントロール用のQ2が抵抗内蔵タイプだったために発生していました。これも2SC1815とベースのパスコンで解決しましたが、TRXのフロント側のパドル入力端子を使い、TRXのキーヤーモードをストレートにするとまだ少し明るくなります。背面側の電鍵入力では全くOKですので、TRXによって癖があるようで背面側の電鍵入力端子を使った方が良さそうです。

(4)バックライトが少し暗くなる現象は色々な所へパスコンを入れたり、GNDラインの配線を変更したりしましたが解決せず、ついにはPIC16F1938のDimmerコントロールを介さずに、直接+12V電源→抵抗→バックライト用ダイオード→GNDでも発生です。
「あれ?」と思い外部電源の電圧を測定したら、RX時=11.72V、TX時=11.25Vと0.47Vも低下しています。高輝度タイプではないLCDモジュールなのでこれでは少し暗くなってしまいます。出力電圧を可変可能な電源なので少し電圧を上げてRX時=12.46Vにしたら、TX時の電圧低下=5mVで明るさも全く変わりません。
10日位もあれこれと対策をやって原因が外部電源のRF回り込み現象だったとは・・・もう笑うしかありませんでした。Hi

200W、500W、1kWの回り込み確認は免許の関係で未確認ですが、上記の対策等を参考に色々とトライをしてみてください。

[7] 使用感

最大/最小位置のスピード設定のコツは、最大位置は自局へのコールバックで自分のコールサインが判る程度に、最小位置はあまり遅すぎるとリズムが狂い操作が乱れるので対応できる程度にするとOKと思います。また今までのように広い可変範囲を使う人でも、My Speedを設定しておけば直ぐに戻せるメリットがあります。

今使っているメーカー製のKEY SPEEDボリュームでは、全角度範囲のうち50度位の範囲しか可変していませんでしたので、このカスタマイズできるキーヤーではそれを300度の広い角度に6倍も拡大するので変化がゆるやかになりました。

更にスピードを変更した後でもF-1キー押しだけで何時も使うMy Speedに直ぐに戻せ、今までのような何時ものスピードに戻すための微調整がなくなり非常にFBです。

また簡単な受信練習機能は今までピコモールスで練習していたのですが、これが大分くたびれてきたので入れた機能ですが、サイン波で音が出るので非常に聞きやすく練習に重宝しています。

ただサイドト-ン周波数が600~700Hzで少しビリツキ音が出ます。 他の周波数はOKで本体を持ち上げると綺麗な音になる事から、音の反射もあるしケ-ス下の空間の狭さが悪さしているようです。 ゴム足をもっと高さのある物にするとか、オ-ソドックスに径の小さなスピ-カをケ-ス上面とか側面に置いた方が良かったかなぁ~と思っています。

※この「KEY SPEED範囲がカスタマイズできるエレクトリック・メモリーキーヤー」とそのプログラムは個人が楽しむ目的で公開していますので商業的な利用はご遠慮ください。

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