2015年7月号

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楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第26回 誘導無線アンテナ

地下鉄等トンネル内の通信では地上のように電波が伝搬しないため誘導無線が使われています。今回はこの誘導無線の受信アンテナを検討してみました。

誘導無線は巻末コラムの表のように長波である100kHz~250kHzの低い周波数が使われています。なお誘導無線は普通の無線局ではなく、電波法上は電波法第100条第二項により高周波利用設備(誘導式通信設備)となるため、取り扱いも無線従事者免許は必要ないようです。

この誘導無線は他の無線局と同様に受信するだけなら問題はありませんが、電波法第59条(秘密の保護)「何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。」が適用されるので注意してください。

誘導無線は地下鉄等トンネル内の通信の他、セミナー会場のような場所で同時通訳の機器にも使われているものがあります。地下鉄等での送信側のアンテナはトンネルの壁の側面に2本の平行線を張るか、あるいは駅構内では線路内に平行線が張ってある所があります。大阪市内の地下鉄のアンテナを見に行ったのですが、資料では御堂筋線にもあるはずながら天王寺駅と動物園前駅のプラットホームでは発見できませんでした。

このようなアンテナからは高周波が電波として発射されるのではなく、磁界として発射されるため、届く範囲が限られ遠方までは届きませんが、逆にこれが不必要な遠方までは届かず、同時に遠方からの妨害も受け難いというメリットとして利用されています。

1. 考察

誘導無線の周波数帯を受信するためには受信機が必要です。今回は下限100kHzから受信できるアイコム社製の広帯域ハンディレシーバーIC-R6を使用しました。この受信機の付属アンテナでも一応受信はできますが、誘導無線には磁界型のアンテナが有効です。

誘導無線の受信アンテナは、インターネット通販でも見つけることができます。しかし価格も高価たなめ、今回は周波数が低い所に目をつけて電波時計用のバーアンテナ(コイル)を使って製作してみました。

電波時計が受信する標準電波は40kHzと60kHzが利用されており、電波時計の組み立てキットはインターネット通販で販売されています。これらのアンテナとして手持ちのものは40kHz用で、写真のようにコアにコイルが巻かれ、同調コンデンサーとして27nF(273)がついていました。

インターネット通販で販売されている60kHzのものをよく見てみると同調コンデンサーが12nFになっていました。f=1/2π√(LC)で計算すると、40kHzのものも60kHzのものも L=586μHとなり、つまり同じコイルであることが分かりました。

このコイルをそのまま流用すると、誘導無線の下限周波数105kHzに対応させるには同調コンデンサーが計算上3.92nFとなるのでこれで試験してみたいと思います。同じコイルを使った場合、上限の250kHzで計算すると同調コンデンサーが691pFになり、L、Cのバランスが少し心配ですが試験してみることにします。

誘導無線の周波数帯全体をカバーしようとすると、691pFから3.9nFまでの可変が必要になりますが、このようなバリコンはないのでスイッチで切り替えるしかありません。

まず誘導無線の周波数帯を受信するためには、どの程度のステップで切り替える必要があるのか試験してみました。手持ちの4.7nF、2.2nF、1.0nF、620pFを同調コンデンサーとして次のような接続で特性を取ってみました。測定回路は次のような接続にしましたが、信号は10kΩを通して供給したため少しQが下がっているかも知れません。

これらのコンデンサーでの同調点は計算上次のようになりますが、コンデンサーの精度の問題か実際には少しずれていました。

それぞれの同調点を測定した結果、4.7nFでは計算上96kHzになるところが容量誤差のためか測定では次のように同調点が100kHz位になりました。

これらの測定で、使用帯域を3dBの幅として誘導無線の帯域全体を8つのバンドにすることにしました。コンデンサーを切り替えてもQが同じに取れるなら、同じ15%で等比率になるはずです。

一番下の周波数に使うコンデンサーを4.7nFとして計算すると同調点が95.8kHzになり、そこから約15%ずつ高い方へ周波数を割り振ったのがこの表です。±7.2%の周波数はそれぞれのバンドの中心周波数間の中間的な周波数を計算しました。この中間的な周波数のレベルが中心周波数より-3dB以内なら一応目標に達することになります。

コンデンサーの容量が+で繋がっている合成Cは1つのコンデンサーだけでは目的中心に合わすことができないので並列にしたものです。例えば同調点145.7kHzの所では1.8nFと220pFを並列に接続します。比較的容量の大きい今回のような例では誤差も大きいため最終的に測定して調整します。

組立を行う前に回路の接続をして同調点を合わせておきます。最終的な回路は次のようになります。直列同調の回路内に負荷として受信機のアンテナ端子を入れる方法です。

2. 組立

部品は、Lが標準電波用のコイルで、CはできるだけQの高いと思われるフィルムコンデンサーにしました。容量の小さい620pFと820pFおよび補正用のコンデンサーはセラミックコンデンサーです。

できあがりをどのような形状にするかを考えたのですが、円筒状にしてみました。スイッチは円筒状に組み立てたいため日本開閉器製の丸い1回路8接点のロータリースイッチにしました。

これらの部品がうまく収まり格好良く見えるケースをホームセンターで色々探した結果、薬剤や化粧品などに使う透明でプラスチック製のスプレー容器を見つけました。

この容器を上下逆さにして底に穴を開け、ロータリースイッチを取り付けます。底の大きさと同じ程度のアクリルの円盤を作り、中心にロータリースイッチの取付穴を開け、さらに周囲の2ヶ所に円盤を取り付けるビス穴を開けます。容器の底にこれに合うセルフタップの穴を開けて取り付けました。

アンテナ出力はこの容器のスプレーの部分を無理やり取り外して穴から同軸ケーブルを引き出します。受信機のアンテナ端子に直接コネクタを付けるやり方では外からの力で壊れる可能性があるので引き出した同軸ケーブルにSMAコネクタを取り付けて使用します。

一応の加工ができた時点で容器を塗装することにしました。何色がいいのか迷いましたが手元に残っていた黒色のスプレーを吹きつけました。できあがりは手投げ弾みたいで思っていたより格好よくありませんがやむを得ません。


パネル面と外形

3. 試験

取りあえず予定した帯域の特性になっているのか次のような接続で試験してみました。試験用のコイルは以前に他の試験で低周波フィルター用に手巻きしたものですが、ちょうど残っていたので利用しました。

この試験の結果は次のようになりました。買ってきたコンデンサーの容量を先にブリッジで測定し、それを使えばよかったのですが、そのまま使ったため各同調点が目標値より相当ずれてしまいました。コンデンサーの測定で目標に合わすことと、もう少し帯域の取り方の検討が必要で、特に一番上の8番は補正の必要があります。

最終的な試験は地下鉄に行かなければなりませんが、この時点での試験として疑似装置で試験をしてみます。30cm間隔の平行線を3m位張り、端からCR発振器で信号を送り、他端に600Ωのダミーをつけて送信します。このアンテナを平行線に近づけて受信できるか確かめてみます。

実際には地下鉄で試験する必要があります。しかし地下鉄の誘導無線は常時電波が出ていないようで、当日うまく受信できればよいのですが、もし受信できない場合、電波が出ていないために受信できないのか、アンテナの性能が悪いために受信できないのかが切り分けできないため、非常に難しい試験といえると思います。

今回は大阪市営地下鉄の御堂筋線を使って通勤する人に試験をお願いしてみました。試験初日の通勤時には受信できなかったようですが、翌日の通勤時にはうまく受信でき、アンテナのスイッチを切り替えてもあまり感度差を感じなかったそうで実用になりそうです。周波数レンジの切替段数を少なくできるのであれば、上下2段切替位にすることで、実用的には簡単になると思います。

誘導無線に興味ある方がいらっしゃいましたら、ぜひ試作して試験してみてください。

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