2014年7月号
テクニカルコーナー
南松浦郡新上五島町 移動運用記
編集部 稲葉浩之
2014年のGW(ゴールデンウィーク)後半、5/2~5/6に行った南松浦郡新上五島町からの移動運用記と題して、移動運用のポイントなども合わせて書いてみたいと思う。
移動運用の一番楽しみは、自宅環境以外で無線が楽しめることである。たとえば自宅では周辺環境(ロケーション)や、アンテナの制約、また運用時間の制約(深夜運用不可等)などの要因で、思う存分に無線が楽しめない様な場合に、移動運用に出かけることによってこれらが解決できることが多い。珍しい場所からオンエアすれば、パイルアップになることもあり、短期間/短時間で多くの局とQSOできる。もちろん、移動先での観光/温泉やグルメといった実運用以外の楽しみもあるが、今回は実運用を中心に書いてみる。
当局は、昨年2013年にGWに島根県隠岐郡の4町村から、さらに同年9月に長崎県壱岐市から運用した経験から、離島からオンエアすると全国はもとより世界中から呼ばれることが分り、その結果離島運用がいわば病み付きになってしまった。2014年なると、次はどこに移動運用に行くか検討をはじめ、2月頃にはGWに長崎県の五島列島に行くことに決めた。
AS-040 五島列島
五島列島には、現在5つの市郡がある、佐世保市、五島市、西海市、北松浦郡、それに南松浦郡である。列島内ならどこの市郡からオンエアしても、IOTA(Island on the air)番号は同じAS-040なので、もしIOTAサービスを主たる目的として移動運用する場合は、渡航に便利かつ宿泊や運用に困らない市郡に決めればよい。しかし、当局は国内QSOにも力を入れたいため、上記5つの市郡の中で一番珍しいと思われる南松浦郡に決めた。現在南松浦郡は新上五島町の1町しかない。ただし町として珍度は北松浦郡小値賀町の方が珍しいと思われるが、北松浦郡は九州本土に佐々町があるため、郡としては南松浦郡の方が珍しいので、多くの局から呼ばれるのではないか、と考えた。
行く所が決まったら、次は交通手段や宿の確保となる。離島への移動運用は、(車なしで)人間だけ飛行機もしくは船で渡るか、車と一緒にフェリーで渡るかのどちらかになる。当局の場合、従来から移動運用には自家用車で行っており、昨年の隠岐郡、および壱岐市への移動もフェリーに乗って車と一緒に渡ったので、今回も同じフェリーを使うことにした。
フェリーで車と一緒に島に渡るメリットは、まず多くの荷物を積んで行けることがある。さらに車中泊することで宿屋に拘束されず、好きな時間に運用であるということがある。特に海外とのQSOも目的としている場合、深夜運用は欠かせない。もちろん、車中泊なので宿泊費がかからないというメリットも大きい。
通常、フェリーの予約は1ヶ月前からなので、島に渡れる確約は取れていないが、島での具体的な運用地点の検討に入った。まず、新上五島町の中心である中通島に渡るフェリーは3つのルートがあり、博多港発、佐世保港発、長崎港発からの選択となる。しかもそれぞれ到着する港が異なることが分った。
(九州商船株式会社のホームページより)
この中から一番乗船時間の短い佐世保港発-有川港着のフェリーを選んだ。乗船時間が短いということは、それに比例して乗船料金が安価になる。ただ、佐世保港発-有川港着のフェリーは1日2便で0800j発と1345j発しかない。自宅の奈良を夜明け後に出発した場合、佐世保港まで陸路約800kmあるので、1345j発のフェリーに乗船するために1300j前に佐世保港に到着しようとするとかなり厳しい。従って1日目は佐世保周辺で1泊し、2日目の0800j発の便に乗船することに決めた。
次に有川港周辺での運用地点候補の検討を始めた。インターネットで観光案内サイトや地図サイトの航空写真などを確認し、さらに過去に新上五島町から運用経験のある長崎県在住局からいただいた情報も参考にして、5箇所の候補に絞った。基本的にはすべて(公園などの)駐車場である。そこにトイレがあるのがベストだが、観光案内や地図サイトでは、ほとんどの場合トイレがあるかどうかまでは記載されておらず、最終的には現地で確認することになる。
使用機材
持っていく無線機、アンテナ等の機材であるが、基本的には前年9月の壱岐市移動と同様としながら、アンテナのみ一部追加することにした。電源ついては、当局は発電機を所有しておらず、常々移動運用はカーバッテリーでの運用のため、今回も同様にすることにした。昼間はエンジンを回してバッテリーを充電しながら運用し、夜間はエンジンを止めて充電済みのバッテリーで運用するといったスタイルである。
●無線機
IC-756PRO2/50W改造 (1.9~50MHz)
IC-910D (144~1200MHz)
IC-706MK2GM (予備機)
●アンテナ
1.9/3.5MHz ロングワイヤー+ATU(オートマチックアンテナチューナー)
7/10MHz ギボシダイポール
14/21/28MHz 2エレトライバンド八木
18/24/50 MHz 2エレトライバンド八木
144/430/1200MHz トライバンドモービルホイップ
144 MHz 3エレ/430 MHz6エレ 衛星通信用八木
●電源
車載のカーバッテリー(115D26)×2
ディープサイクルバッテリー(105Ah/20HR容量)×1
前年9月の壱岐市移動では、7/10MHzのギボシダイポールがなく、ロングワイヤー+ATUで、1.9~10MHzの4バンドを運用したが、DXに対しての飛びがもうひとつだったため、手元にあった7MHz用のフルサイズDP(ダイポール)の両エレメントの途中にギボシを入れて2バンド対応としたものを今回は用意した。
フェリーの予約
4月3日、往路フェリーに乗船予定の1ヶ月前である。昼休みに船会社の九州商船に電話を入れて5/3 0800j出発便の予約を完了。とりあえず行きの船は確保できた。ただ残念ながら航空会社のようなお帰り確約ができないので、復路の便は再度予約を入れなければいけない。4月6日、この日は日曜日だったので朝一で九州商船に電話。5/6 1050j出発の復路便を無事確保でき、これで往復の車両積載スペースの予約が完了し、五島列島に移動運用に行けることが決まった。
この時点で無線機やアンテナは全部用意できていたが、2本持っていく全長8mの伸縮アルミポールのうち1本が、3月に移動先から東海QSOコンテストに参加していた際、強風で折れてしまったため、メーカーに修理を依頼する必要があった。このポールは日本製なので、修理も迅速で、メーカーに送ってから1週間もたたないうちに修理完了で戻ってきた。
先端部位が折れた8mの伸縮ポール
後は食料の調達くらいである。新上五島町は人口20,000人以上の大きな町なので、現地にスーパーやコンビニがあり、食料の現地調達はなんら問題ない。しかし、買い物の時間もできるだけ運用に当てたいので、自宅近所のスーパーで、十分な量のパックご飯、レトルト食品(カレー等)、缶詰、カップラーメン、アルコール飲料を調達した。それから、スーパーの安売りの際に、2リットル入りの水を6本(一箱)調達しておいた。水に関してはスーパーならコンビニの半額以下で買えることが多い。
出発
そうこうするうちに出発日の5/2(金)になった。この日は朝食を摂った後に機材の積み込みを開始。長尺のアンテナエレメントと伸縮ポールはキャリアに積載した。着替えなども含めすべてのものを積み込んだが、まだ時間の余裕があったので、自宅シャックで少し運用してから0930jに出発。GW中とはいえ、この日は平日なので高速道路の休日割引が効かない。休日割引を適用してもらうには日付が翌日の5/3(土)になってから、向こうの料金所を通過する必要がある。そのため5/2の夜は長崎道の川登SA(佐賀県武雄市)で車中泊することに決めた。急いで行ってもあまり意味が無いので、のんびり運転で向かう。
心配していた西行きでも全く渋滞はなく中国道/山陽道はスイスイと流れた。1400j頃には関門海峡大橋を通過し、九州道の吉志PAにあるシャワーステーションでさっぱりした。この日は車中泊ということと、吉志より先にはシャワーステーション備えたSA/PAがないからである。鳥栖JCTで九州道から長崎道に入り1700j過ぎに小城PA(佐賀県小城市)に到着。予定より早く着いたため、このPAで機材のテストを行った。マグネット基台とアースマットを利用してルーフにモービルホイップを設置して運用開始。パソコンにリグの周波数が読み込めないという小トラブルがあったが、無事に解決し合計90QSO行った。
まもなく多久西PA(佐賀県多久市)に到着。腹も減ったので、まずはレストランで夕食を摂り、夕飯後にはもう一度テスト運用を行った。ここでは何もトラブルは無く82QSOで終了した。そして宿泊予定場所である川登SA(佐賀県武雄市)に向かい、まもなく到着。もしこれより先に進んで西九州道に入ると料金所ゲートを通過してしまうので、休日割引料金を適用してもらうためには、これ以上進めない。ここで最後のテスト運用を行い合計83QSOやった後、2300j頃に眠りについた。
渡航
5/3(土)は0530jに起床し、前の晩にSAの売店で買っておいたパンを食べてから出発。西九州道に入ってすぐの料金所ゲートでは50%オフの料金が表示されて一安心。そのまま佐世保まで走行する。朝6時というのに結構な交通量がある。やはりGWである。佐世保みなとICで高速道路を下り、まずはコンビニに入って、お茶などの飲料を補給した。
これから乗船するフェリー「なみじ」
その後、佐世保港のフェリー乗り場に行って乗船待ちの駐車場に車を駐め、乗船切符を買いに窓口に行くと、16,260円請求される。船会社のHPには往復割引切符で30,000円(5m未満)と書かれていたので、「往復切符をください」というと、往復でその料金だという。予定外の価格にびっくりした。
往復の乗船券
出航15分くらい前に車とともに乗船し、フェリーは定刻の0800jに出航した。航行中は寝ているだけで、中通島の有川港には定刻の1030jに到着。佐世保港で止まっていたカーナビも、2、3分で測位を完了し島の地図になった。下船後にまずは最有力運用候補地である新上五島空港に向かった。この空港は、施設は維持されているものの、(緊急時のために維持している様子で)、普段の発着には全く使われていないようなので、ここの駐車場で運用できればと思ったからだ。
さすがに空港なので、360度目だった障害物がなく、風を受けることを除けばHF運用には理想的だ。事前情報どおり空港施設は全部施錠されており、駐車場に車は駐められるが施設には全く入れない。誰もいない様なので、あとで警察署にでも行って、運用可否を聞いてみようと思ったら、施設内から電話で話す人の声がした。管理人がいるようだ。電話が終わったようなのでドアをノックしたら、管理人が出てきてくれた。すぐに駐車場からのアマチュア無線の運用可否をたずねてみたが、残念ながら許可は得られなかった。
次に向かったのは空港と有川港の中間くらいにある名称不詳の公園。集落からちょっと離れているので、誰も着なさそうな感じで、それはよいのだが木が少し邪魔だ。でもまあ8mポールをフルアップすれば交わせそうだ。そこには東屋はあったがトイレがない。アンテナの設置にはタイヤベースを使用するため、今回は一旦アンテナを設置したら、交通手段は徒歩しかなくなる。長丁場なのでトイレは必須だ。念のための凝固剤付の携帯用トイレは持ってきているが、できることなら使用は避けたい。というわけで、次の候補地に向かう。