2014年1月号
テクニカルコーナー
D-STAR×GPS講座(3)
JK3AZL 高岡奈瑞
D-STAR×GPS講座(3)
前号でGPS位置情報を『受信して楽しむ』方法について紹介しましたところ、「IC-7100にGPS取り付けてみました」の画像付きメッセージをお寄せいただきました。拙文を読んでいただき、ありがとうございます。今号では、GPS位置情報を『送信して楽しむ』方法を中心に紹介します。
GPS位置情報を送信する2つの方法
DVモードでGPS位置情報を送信するには、内蔵GPSをONに(または外部GPSを接続)した後、MENU画面から「GPS送信」をONにしますが、送信するには下記2通りの方法があります。
・NMEA出力(GPS/DV-G)
・D-PRS出力(GPS-A/DV-A)
◎NMEA出力(GPS/DV-G)を使う方法
DVモードのスローデータ部で、GPSのNMEAセンテンスを送出します。
(各センテンスについてはこの後で説明)
<メリット>
・受信した位置情報をゼンリンやスーパーマップルなどの市販地図ソフト(*1)に表示できる。
・旧モデルのD-STAR対応機でも、受信相手の位置情報が表示できる。
<デメリット>
・D-PRS(*2)運用するには、D-PRS Calculator(*3)で作成したテキストを[GPSメッセージ]に登録必要。
・外出先では設定変更しにくい。
・センテンスを増やすと送出データ量が増える。
地図ソフトにGPS位置情報を取り込む代わりに、DVモードで受信した位置情報を取り込める
◎D-PRS出力(GPS-A/DV-A)を使う方法
D-PRSに必要な情報だけに絞ってデータを送出します。
D-PRS出力時のデータ構造例
<メリット>
・初心者でも簡単にD-PRS運用ができる。
・NMEAセンテンスの意味がわからなくても、必要な情報を送出できる。
・D-PRS運用に必要なデータのみ送出。(データ量が少なく効率的)
・徒歩や車、自転車などのシンボルやSSIDの設定/変更が簡単にできる。
<デメリット>
・受信した位置情報をゼンリンやスーパーマップルなどの市販地図ソフトに取り込めない。
・一部の旧モデルD-STAR機では、受信相手の位置が表示できない。
【用語の説明】
(*1)市販地図ソフト
地図ソフトによって必要なNMEAセンテンスが異なるため、取り込む際には地図ソフトのGPS条件確認必要。
(ゼンリン電子地図帳Zi15=RMC/GGA/GSV/GSA,スーパーマップルデジタル11=GGA/RMC/GLL)
注意:プロアトラスシリーズは2013年9月で販売終了。
(*2)D-PRS
Digital Packet Reporting Systemの略で、D-STARからAPRS(*4)サーバへ情報を引き渡すしくみ。この後で詳しく説明します。
(*3)D-PRS Calculator
NMEA出力(GPS/DV-G)時、GPSメッセージに特定の文字を登録することでD-PRS運用ができるが、この登録文字を生成するためのツール。
D-PRS Calculatorに自局コールサイン・シンボル・SSID・メッセージを入力すると、GPSメッセージに登録する文字が自動生成できる。
(*4)APRS®
Automatic Packet Reporting Systemの略。1980年代の初めにBob Bruninga(WB4APR)によって開発された、アマチュア無線でさまざまな情報をリアルタイムに共有するシステム。
NMEA出力で送出できるセンテンス
NMEA-0183のRMC/GGA/GLL/GSA/VTG/GSVのセンテンスの中から4つまでを選択して送出できます。各センテンスの内容は下記のとおり。
◎RMC(Recommended Minimum Specific GNSS Data)
最小限の位置測位情報。
時刻+年月日(UTC)・データ・ステータス・緯度経度・速度・進行方向
◎GGA(Global Positioning System Fix Data)
GPS受信機の測位情報を出力(移動速度や方向などのデータはない)
時刻(UTC)・緯度経度・GPS精度情報・衛星数・海抜高度・ジオイド高
◎GLL(Geographic Position, Latitude and Longitude)
地理的な位置情報、および時刻を出力
緯度経度・時刻(UTC)・データ・ステータス
◎GSA(GNSS DOP and Active Satellites)
測位計算に使用した衛星の情報およびDOP情報を出力。
◎VTG(Course Over Ground and Ground Speed)
進行方向・速度情報を出力
◎GSV(Satellites in View : IC-U1/V1,ID-800,ID-91,IC-2820,TM-706は未対応)
衛星の方位と仰角,信号強度情報を出力。
1メッセージには4衛星分のデータしか含まれない(複数行になる場合もあり)
上記を一覧表にしてみると、各センテンスの特長が掴みやすくなります。
ほとんどのD-STAR対応機では、NMEA出力の初期値がGGAになっていますが、一覧表を見てみると、GGAには緯度経度・高度・測位時刻が含まれているため、受信相手に自分の居場所を知ってもらうには十分な情報が含まれていることがわかります。
NMEA出力でセンテンス設定をGGAのみにした場合、送出されるデータは次のようになります。
$GPGGA,003744.000,3433.9960,N,13531.6591,E,1,10,0.9,31.9,M,34.5,M,,0000*66
GGA/GSA/RMC/VTGの4つのセンテンスを選択して送信すると、相手の無線機表示には『進路・速度』の2項目が追加されますが、送出されるデータは下記のようになります。
$GPGGA,003744.000,3433.9960,N,13531.6591,E,1,10,0.9,31.9,M,34.5,M,,0000*66
$GPGSA,A,3,03,19,16,06,07,13,11,23,21,31,,,1.5,0.9,1.2*33
$GPRMC,003744.000,A,3433.9960,N,13531.6591,E,0.00,145.64,221011,,,A*66
$GPVTG,145.64,T,,M,0.00,N,0.0,K,A*0F
「センテンスが増えたって特に問題ないではないか」と言われそうですが、効率良い通信を行うには、
・受信側で市販の地図に表示させたい=地図ソフトの条件に合わせたセンテンスを選択
・受信側の端末に緯度経度高度を表示=GGA
・受信側の端末に進路・速度も表示=GGA+RMC
のように設定すると良いでしょう。
(左)GGAのみ受信した状態。緯度経度・高度が表示。 (右)GGA+RMCセンテンスを受信。進路と速度も表示されている。