2016年5月号
テクニカルコーナー
<D-STARレピータ設置事例>
「公共性の高さ」と「市民の防災意識の高まり」を背景に、市役所庁舎内へJP3YIW(桜井430)を設置 - 奈良県桜井市/桜井市アマチュア無線ネットワーク
編集部
★市役所庁舎の屋上へレピータ局を設置
応援協定の調印式を目前にした3月18日、桜井市役所内にD-STARレピータ・JP3YIWの設置が完了し、434.32MHz(DVモード)での運用が始まった。同局で使われている機器類と配置をここで紹介しよう。
まず、D-STARレピータを制御するためのパソコンとネットワーク機器類は、市役所庁舎の危機管理課内に設置されている。
市役所庁舎の危機管理課内に設置されたパソコンとネットワーク機器類
パソコンはAOpen社の産業用小型デジタルエンジン「DE3250」を使用。この製品は省電力と埃に強い、放熱穴を廃したファンレス設計が特徴。LANポートを2系統装備していることから、D-STARゲートウェイ用しても使いやすいと定評がある。アイコムダイレクトでも販売され、D-STAR用途で購入する場合は別途特別価格が適用される。
パソコンはD-STAR運用で定評あるAOpen社の産業用小型デジタルエンジン「DE3250」を使用
インターネット回線とパソコンなどを結ぶブロードバンドルーターは、サブネットマスクでクラスA(255.0.0.0)設定ができるものが必要だが、JP3YIWでは株式会社バッファローの「BBR-4MG」を使用している。
写真中央が株式会社バッファローのブロードバンドルーター「BBR-4MG」
停電発生時もD-STARレピータが運用を継続できるようにするためには無停電電源装置(UPS)が必要だ。今回は一般的な交信頻度で1.5日~3日程度の電力供給が可能なタイプを市役所側が用意した。停電の復旧作業や発電機を準備するまでの時間的余裕は、これで十分にあるといえるだろう。
無停電電源装置(UPS)は市役所側が用意。一般的な交信頻度なら1.5日~3日程度の電力供給が可能
アンテナは市庁舎の2階屋上北端にある、空調用クーリングタワーのフェンスにポールを使って設置された。地上高は約20mある。使用しているのは第一電波工業株式会社の基地局用グランドプレーンアンテナ「X200」(全長2.5m)で、430MHz帯で8.0dBの利得がある高性能タイプだ。
アンテナは市庁舎の2階屋上北端にポールを使用して設置
D-STARレピータ用のアンテナ(写真左)。
第一電波工業の基地局用グランドプレーン「X200」(全長2.5m)を使用。 写真右は消防無線関係のアンテナ
レピータ装置の本体(アイコム株式会社製「ID-RP4000V」「ID-RP2C」)は、防水構造のケース内に収納し、空調用クーリングタワー下部の空きスペースに設置された。この装置と危機管理課内の制御用パソコン類の間は、防水用パイプで保護されたケーブルで結ばれている。
クーリングタワーの上部にアンテナ、下部の空きスペースにレピータ装置を収めたケースを設置した
レピータ装置の本体(アイコム株式会社の「ID-RP4000V」「ID-RP2C」)は、防水構造のケース内に収納。 特製のプレートも取り付けられた
レピータ装置と危機管理課内のパソコン類とは、防水用パイプで保護されたケーブルで結ばれている
こうして設置され、運用が始まったJP3YIWだが、サービスエリアは目的としていた奈良盆地南部のカバーはもちろん、西方面にも大きく広がり“大阪府内各所からのアクセスも容易”だという。すでに多くのD-STARユーザーが利用しており、日本国内はもちろんのこと、米国ニューヨーク在住の日本人ハムもしばしば声を出しているという。
★これからも続く「桜井市アマチュア無線ネットワーク」の活動
今回の桜井市と桜井市アマチュア無線ネットワークの「災害時の情報収集に関する応援協定」締結は、近隣の市町村からも注目を集めている。アイコム株式会社には自治体関係者からD-STARレピータ設置に関する問い合わせもあったという。
桜井市アマチュア無線ネットワークの活動は、JP3YIWの運用が始まったことにより、新たなステージに入った。調印式前日の4月17日には、D-STAR機器の使い方やレピータによる交信方法をわかりやすく説明する、初の「D-STAR勉強会」を市内で開催するなど、利用者増とスキルアップを図る努力を始めている。
D-STARで交信を行う、桜井市アマチュア無線ネットワークの原田秀穂会長
さらに今後は、非常時に備えた通信訓練を定期的に行うほか、現在は不足している市内山間部のメンバー獲得にも尽力していく方針だ。
【取材協力:桜井市役所、桜井市アマチュア無線ネットワーク】
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