2016年5月号

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楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第36回 インピーダンスブリッジ

アンテナの整合状況の測定や調整を行う際、SWR計やインピーダンスブリッジが必要になることがよくあります。HF帯のワイヤーアンテナ等ではインピーダンスが数10Ωから数100Ω以上になることが珍しくないからです。手元には、連載第19回「マルチバンドワイヤーアンテナ」の時にも使ったDELICAのアンテナアナライザーAZ1HFとクラニシのBR-200があるため、わざわざ作る必要もないのですが、実際に測定器も作ってみたくなり今回その製作にチャレンジしました。

インピーダンスブリッジとは、抵抗やコンデンサ、あるいはコイル等の素子が持つインダクタンス(L)、キャパシタンス(C)、レジスタンス(R)成分を測定する測定器です。無線機に接続するアンテナは、リアクタンス成分のない50Ωが理想的ですが、実際にはL、C、R成分が含まれています。今回それらリアクタンス成分を測定するインピーダンスブリッジを製作します。完成したブリッジの外観と内部は次のようなものです。


外観                         内部

1. ブリッジの構成

最近のプロの測定器は周波数が高い方へと移り、アマチュア無線の主力である100MHz以下で使用できる測定器は極端に少なくなっています。これは、通信の高速化により短波帯のような低い周波数での業務用通信の需要がなくなってきたからだと思われます。

ブリッジと称するものは多く知られていますが、主にHFアンテナの計測に使える高周波ブリッジで、作りやすいものを選んでみました。ブリッジの基本部分は次のようになります。原理的にはコアに逆方向に巻いたコイルのトランスで、両方向の電流と位相が完全に一致するとキャンセルされるため検出用の端子には何も出力されません。

信号入力から入った信号はトランスのコイルに給電されます。バランスの取られた2次側は、片方は測定したいものを接続するDUT(Device Under Test)端子です。アンテナの測定をする場合は、このDUT端子にアンテナを接続します。もう片方の端子にはバランスを取るVR (可変抵抗器) とリアクタンスをキャンセルするために両端子に最大150pFのバリコンがついています。この2次側の両端子の抵抗分とリアクタンスが同じなら、中点の検出出力端子には信号が出力されないことになります。もしDUT側にリアクタンスがなければ、両側のバリコンの容量を0にしてVRだけでバランスを取り、検出コイルの電流が最低になる点のVRの値が測定するインピーダンスの値になります。もちろんバリコンを0にしても数pFの残留容量は残ります。

DUT側にLのリアクタンスがあればC6のバリコンでキャンセルしてヌル点を求めます。このときのバリコンの容量のリアクタンスと同じ値がLのリアクタンスになります。また逆にCのリアクタンスがあればC4のバリコンでバランスを取りその時のバリコンの読みがDUTの容量になります。従ってDUTに被測定物(アンテナ等)を接続しVRとバリコンを回してメーターが最低になるVRとバリコンの値がDUTの値になります。

アンテナの等価回路はL C Rが直列になったものが一般的ですが、実際には構造上直列接続は作り難く、測定は並列にした回路でおこない、巻末コラムのインピーダンス直並列変換の計算で直列値を求めることにしました。

測定器としての全体回路は次のようになりました。信号源として手持ちのDDS (Direct Digital Synthesizer) 出力をRF Inputに入力しました。この信号は、飽和電力が+3dBm (2mW) 程度取れ、ゲインは18dB程度あるIC1のμPC1651でバッファーアンプされ、R4~R6で構成する6dBのアッテネーターを通してブリッジのコイルに供給します。

これらの回路はブリッジへのインピーダンスを一定に保ち周りからの影響を軽減しようとするものです。このICは廃番になって久しく通販でも手に入り難いと思いますが、10~20dB程度のゲインがあれば他のICでも問題ありません。

ブリッジの出力はトランスの中点から取り出し、検出感度を上げるためトランジスター2SC2026で増幅しました。古いトランジスターですが性能が優秀で手元に残っていたので使用しました。最初は入力側と同じICにしていたのですが、少しゲインが高すぎ不要な信号を拾うためトランジスターに替えました。この出力はD1とD2で検波整流してメーターを振らせます。メーターには500μAの古いジャンク品を使用しました。また、この出力は直接取り出して受信機やスペクトラムアナライザーでも検出できるようにSMAコネクターを取り付けました。

これらのICアンプの入力側の特性は次のようになりました。出力につけた約6dBのアッテネーターを含めた特性です。

2.部品の測定

実際に組み立てる前に使用する部品の高周波特性を測っておくと傾向が分かり、測定結果の信頼度が上がります。

・RFトランス
ブリッジに使うトランスは3本の線を寄り合わせてコアに巻き付けます。最初は6回巻きにしたのですが、周波数の下側の特性が不十分なため、10回に増した特性が次の図です。周波数の下側で少し落ちていますが、1.8MHz帯でもなんとか使えそうですし、高い方も50MHz位まで問題ないと思われます。


トランスの高周波特性

・VR (Variable Resistor)
このブリッジの抵抗分のバランスを取るVRですが、一般的にはVRの構造上高周波特性はよくない傾向にあると思われます。本当はネットワークアナライザーで特性を取れば良いのですが、手元にはないため、この試験はトラッキングジェネレーターで直列にVRを入れて特性を取り、周波数の傾向を見ることにしました。その結果は次のようになりました。

右側の図がシミュレーションで左側が実際の測定結果です。両グラフとも上からVRの値が0Ω、100Ω、200Ω、・・・となっているのですが、どういう訳か40MHz~70MHzの間は比較的相関があるものの、高い方の周波数ならともかく低い方の周波数での実測値が合わないのはなぜなのか理解できません。このようなカーブになる等価回路を考えてSPICE(電子回路のアナログ動作をシミュレーションするソフトウェア)で何度か試行錯誤の結果、VRが400Ωのとき、下図右側の回路が比較的近いようです。

このままでは測定値に大幅な補正をしないと合わないことになりますが、即解決案が見つからず取りあえずそのまま進めることにしました。後日、他のメーカーのVRで特性の比較をしたいと思います。

・バリコン
バリコンの高周波特性を特に測る必要はないと思いますが、残留容量といえる最小容量を巻末につけた方法で測定しました。手持ちの適当なコイルで同調周波数を測定しfhは33.6MHz、flは26.8MHzで、その結果は約8.7pFでした。同様な方法で最小位置、最大位置、90°、45°等の分かりやすい角度で同調周波数を測定し、その値から容量を計算しました。

VRの目盛りも最初は0から最大値まで均等に割り振りましたが、当然このような値になるわけがありません。このためやり直してそれぞれの角度で直流値を測定した目盛を割り振りましたが、高周波の特性と合っていないので検討が必要です。


VRの実測値(直流)とバリコンの実測値

測定
この測定器の精度を確認するためDUT端子に既知の素子を接続してその値を確認しました。周波数は7MHzで測定しました。

測定結果の違いはVRの直流値と高周波値が合っていないためと思われます。500Ω以上の測定は実質困難なためVRを500Ωに替えて特性のよいものを探し実際の値と表示が合うよう検討してみたいと思います。また、バリコンも容量表示も精度が高いとはいえず、30MHz以下の低い周波数でも確実な測定は結構難しいことが分かりました。

バリコンの最小容量

バリコンは最小容量の位置にしても0pFにはなりません。ネットワークアナライザーがあれば残留容量を測定できますが、手元にないので次のような方法で測定してみました。
今では、グリッドディップメーターを持っている人は少ないかと思われますが、興味のある人は試してみてください。バリコンを最小容量の位置にセットし、適当なコイルを並列に接続してディップメーターで同調周波数を測ります。次にできるだけ精度の高いと思われる5pF位で、値の分かるCを並列に接続して同調周波数を測ります。両方の同調周波数から次の関係が分かります。(小容量のため必然的に高い周波数となります。例30~50MHz)

コイルをL、バリコンの最小容量をCとして、その同調周波数をfhとすると

また同様に5pFを追加して、その同調周波数をflとすると

とおくとで計算できます。

・グリッドディップメーター
同調コイルが外部に出ている真空管式(半導体式のものもあります)の発振器です。この発振器の同調回路に同じ周波数の他の同調回路が結合すると発振の出力エネルギーが吸収されて発振器の真空管のグリッド電流がディップし(下がり)ます。 そのディップした発振器の周波数目盛りからその同調周波数が分かる仕組みです。
その他には信号源としての活用など、昔は自作派の必需品でしたが、自作派も少数となって今では珍しい測定器になりました。



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