2013年12月号

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連載記事

移動運用便利グッズの製作

JO2ASQ 清水祐樹

第9回 12V鉛蓄電池用充電器

自動車での移動運用で、無線機の電源として車のバッテリーから直接電源を取ると、バッテリー上がりの可能性があります。それを防ぐため送信時にエンジンを起動したままにすると、エンジンから発生するノイズが受信に影響することがあり、対策に悩まされます。弱い信号を受信するためエンジンを止めて運用に熱中した結果、バッテリーが上がって救援車を呼んだ苦い経験があります。そこで、移動運用には無線機用のバッテリー(シール鉛蓄電池)を携行しています。容量は28Ahと50Ahを主に使っています。運用中にエンジンを起動する必要が無いため、エンジンノイズの影響を受けない、アイドリングにより周囲の迷惑にならない、といった利点があります。

長時間の運用では、無線機用のバッテリーの残容量が無くなってしまいます。そこで、走行中またはアイドリング中に、車のバッテリーを電源とした充電器を用いて、無線機用のバッテリーを充電しながら使っています。充電回路は車のバッテリーを電源としたDC12VをAC100Vに変換するインバータ(市販品)、およびAC100Vから鉛蓄電池に充電する充電器で構成されています。市販の鉛蓄電池用の充電器は、充電電流を可変できない機種が多いことと、電圧計を内蔵していないため電池の残容量を確認できないことに不満がありました。それらを解決するために、充電電流を可変として、電圧計を内蔵した充電器を自作しました(図1)。


図1 外観図 180×110×65mm

概要

鉛蓄電池の充電は、安定化電源を鉛蓄電池に接続して行います。充電が進むにつれて鉛蓄電池の端子電圧が上昇し、それが規定値を超えた時点で満充電と判定し、充電を終了します。12Vの鉛蓄電池の充電終了電圧の規定値は、充放電を繰り返して使う場合(サイクルユース)で14.4~15.0Vとされています(LONG社の資料より、メーカー・品種により若干の差あり)。

ここで、例えば15.0Vの定電圧電源を接続したままにすれば、端子電圧は充電終了の規定値より高くならないため、充電終了の判定は不要と考える方もおられると思います。しかし実際は、充電終了に近づくにつれて充電電流が小さくなり、充電終了まで長時間を要します。そのため15.0Vより高い電圧の電源が必要です。この充電器では、電源として19V 4.7Aのノートパソコン用ACアダプタを使いました。

端子電圧が15.0Vを超えると充電回路を自動的に切り離す回路を考えてみましょう。端子電圧が15.0Vに達して充電回路を切り離した後は、端子電圧が下がるため、再び充電開始になり、端子電圧が上がって充電回路を切り離し…を瞬時に繰り返します。これでは回路の動作が安定せず、実用になりません。そこで、充電中に一度でも電圧が規定値を超えると充電を終了し、その後に端子電圧が下がっても充電を再開しない「ヒステリシス回路」を用いた充電回路としました。この機能はトランジスタ2石と抵抗で再現できます。全体の回路図を図2に示します。


図2 回路図

リレーは通電時に接点がオフになる「NC接点」を使います。NC接点だけを有するリレーは通常の品種には無いので、切り替え(トランスファ)接点の片側を使います。接点の配線を間違えないようにご注意ください。リレーと並列の大容量コンデンサは、出力開放時にリレーが「ブー」と鳴ることを防ぐものです。

鉛蓄電池の充電電流は、容量のアンペア時(Ah)の値の0.1倍(単位はアンペア)を基本とします。容量の小さな電池にこれを大きく上回る電流で充電すると、充電中の端子電圧の上昇が早くなり、満充電になる前に充電が終了します。そのため電池の容量に合わせて適切な充電電流に設定します。定電流ダイオード(または接合型FET)とパワートランジスタを組み合わせた定電流回路を設けて、充電電流をスイッチで切り替えるようにしました。約2A(15mAの定電流ダイオードと、電流増幅率が約130のトランジスタの組み合わせ)と4.5A(ACアダプターの上限)の2通りから選択できます。多接点のロータリースイッチを使えば、より細かな設定も可能です。電池の種類・容量によっては、大電流での急速充電にも対応できます。

回路上の工夫として、Tr3のベースと直列に、回路の機能と直接関係しない「隠しLED」を入れています。これによりリレーのオン/オフ動作が確実になります。定電流ダイオードは電流値を可変できませんので、希望する定格値の定電流ダイオードが無い場合には、接合型FET(2SK30Aなど)と抵抗を用いた定電流回路(図3)を用います。IDSS(ゲートとソースが等電位の場合のドレイン電流、例えば2SK30A-GRでは2.6~6.5mA)より低い、任意の電流値に設定できます。


図3 FETを用いた定電流回路

内蔵の電圧計はアナログ・デジタルのどちらも使用可能です。デジタル電圧計は入力と電源のアースを共通にできないため、充電回路とは別の小型ACアダプタからデジタル電圧計に電源を供給し、AC100Vに接続している時には電圧を常に表示するようにしました(図4)。回路は平ラグ板に実装しました(図5)。


図4 デジタル電圧計を用いた製作例


図5 平ラグ板を使った配線

製作上の注意

この回路は、リレーの動作不良が発生すると充電が終了できなくなり、過充電による鉛蓄電池の破裂等の重大事故の可能性があります。取り扱いには十分注意してください。回路の動作・調整を完全に理解するまでは、電圧を監視しながら充電することをお勧めします。発熱によりリレーの動作が不安定になることを防ぐため、電源電圧はリレーの定格電圧よりも高めにしています。リレー接点の焼き付きを防ぐため、接点の定格電流は十分に余裕のあるものを使用します。複数の接点を並列にして1接点当たりの電流を小さくすることも有効です。

充電電流4.5Aで連続使用すると、素手で触れない程度の発熱が生じます。逆流防止用ダイオード(可能であれば整流用ショットキーバリアダイオード)、パワートランジスタ、ACアダプタは発熱が激しいため、放熱用シリコングリスを塗って金属製のシャーシに密着させ、放熱を十分に確保します。ダイオードとトランジスタは、可能であれば放熱器・放熱板を密着させます。逆流防止用ダイオードは、整流用のブリッジ接続になった品種も使用できます。円筒形のリード線タイプのダイオードを使ったところ、発熱でハンダが溶けて断線したことがあります。また、鉛蓄電池に接続する端子、バナナプラグ、ワニグチクリップも、接触不良により発熱するので、しっかりと接続します。

ACアダプタは過熱により突然故障する(電圧が出なくなる)場合があり、放熱を十分に確保することが必要です。長期間の移動運用ではACアダプタの故障に備えて予備機を持参しています。原理上は、ヒステリシス回路の動作の下限値を設定し、「電池の電圧が規定値より下がった場合に自動的に充電を開始する」動作も可能です。しかし、下限値の調整が困難であるため、本器はその用途に対応していません。

調整・使用方法

満充電から少し使用した鉛蓄電池に充電し、端子電圧が15.0Vになると同時にリレーが動作するよう半固定抵抗を調整します。配線の抵抗による電圧低下や、電圧計の表示のタイムラグのため、充電終了電圧を0.01Vの桁まで正確に合わせることは困難で、14.7~15.0Vの範囲で合格とします。残容量の小さい鉛蓄電池は充電中の端子電圧が上がるまでに時間がかかり、満充電に近い電池はすぐに端子電圧が上がるため、調整には向きません。

ACアダプタは過電流防止回路を内蔵している機種があり、定格値ギリギリの電流では自動的に出力オフになる場合があります。定電流回路を調整して、過電流防止回路が動作しない最大の充電電流を設定します。

12Vの鉛蓄電池のおよその残容量は、無負荷時の端子電圧から推定できます(表1)。使用が終わったらすぐに充電し、満充電の状態で保管します。


表1 12V鉛蓄電池の無負荷時端子電圧と残容量の関係

運用中に充電する場合、充電器と鉛蓄電池を並列にして無線機に電源を供給する「フローティング充電」(図6)では、鉛蓄電池の残容量が次第に低下する場合があります。鉛蓄電池を2個用意し、1個は充電用、1個は放電用にして、充電用と放電用を交互に取り替えながら使用すると、残容量の低下が小さいため、端子電圧が高い状態で無線機に電源を供給できます。


図6 フローティング充電と交互充電。フローティング充電では電池の残容量が次第に減る場合がある。

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