2014年5月号

トップページ > 2014年5月号 > ディジタルを楽しもう/JH1NRR辻岡哲夫 第1回 はんだ付けの基礎 1

連載記事

ディジタルを楽しもう


JH1NRR 辻岡哲夫

第1回 はんだ付けの基礎 1

はじめに

初めてディジタル回路を製作してから30年以上が経ちました。当時は、NHKみんなの科学や、学研マイキットなどを通して、体で回路を覚えました。知識は後からついてきました。本連載では、回路製作や実験を通して、アマチュア無線機で使われている組み込み用プロセッサをはじめとするディジタル回路やディジタル信号処理などの技術に触れていきたいと思います。楽しみながらの体験を通して、皆様の理解の手助けになりましたら幸いです。

1. はんだ付けの心構え

回路製作の基本は、はんだ付けです。ブレッドボードなど便利なものもありますが、長く使うものの製作にははんだ付けが欠かせません。今回は、はじめてはんだ付けをする方でも、試行錯誤せずにエレガントなはんだ付けができるようなテクニックを紹介します。

とにかく、エレガントに仕上げるために、手間を惜しまないことです。失敗したと思ったら、面倒でもやり直すことが重要です。

2. 工具をそろえよう

何よりもまず、工具が必要です。おすすめの工具を紹介します。

■はんだごて、こて台
はんだごては、20~30Wのセラミックヒータのものが必須です。ディジタルICは静電気に弱いので、絶縁特性が優れていることが必要だからです。こて先(ビット)は細すぎない方が使いやすいでしょう。写真は、太洋電機産業のCXR-31です。はんだの載りが良いように、こて先をPX-60RT-Bに交換してあります。グリップ部分がスポンジになっていて、熱が伝わりにくく、長時間の作業時も苦になりません。

こて台は、小さすぎないものを選びましょう。適度な重量があった方が使いやすいです。ホルダーの穴も大きい方が入れやすいです。写真は、HOZAN H-6です。

■はんだ
従来のSn-Pb系の鉛含有はんだと、鉛を含まない鉛フリーはんだの2種類が売られていますが、初心者は、鉛含有はんだの方が扱いやすいでしょう。しかし、鉛は人体に有害であり、ヨーロッパでは既に使用が禁止されています。日本でも将来的には鉛フリーはんだに移行するでしょう。実感としては、鉛含有はんだは、成形がしやすい、仕上がりに光沢がある、イモはんだになりにくい、こて先が長持ちする、融点が低く使いやすい(溶けやすい)という特徴があります。一般の糸はんだにはフラックス(ヤニとも呼ばれる)が入っていて、仕上がりが美しくなるように工夫されています。


左から、鉛含有はんだ、鉛フリーはんだ

■はんだ吸取器、はんだ吸取線
はんだ吸取器は、バネ入りの注射器のような構造をした工具で、大量のはんだを取り除く時に使います。筆者は、その動作音から「ずっぽん」という愛称で呼んでいます。大型のものは吸引力が大きいですが、ランドまで吸い込んでしまうことがあるので、少し離して使うなどの注意が必要です。一方、はんだ吸取線は、平らなメッシュ状に編まれた銅線で、はんだを溶かしながら拭き取るように使います。両者はちょうど掃除機と雑巾のような関係になっています。両方揃えておくと良いでしょう。

■フラックス、フラックス除去液
表面実装部品をはんだ付けする時は、フラックスとフラックス除去液があると便利です。スルーホール部品だけの場合は、特に必要ではありません。基板の洗浄や保護をする時に使うことがある程度です。

■100Vタイマー
いつまで経ってもはんだごての抜き忘れ(電源の切り忘れ)は無くならないものです。そういう時には、100Vタイマーを使うと安心です。設定時間経つと電源が切れるものでしたら何でも構いません。学生には、必ず使うように指導しています。

■精密ニッパーと精密プライヤー
精密ニッパーと精密プライヤーは、少々高価ですが、細かい加工をする時に便利です。一度使うと手放せない存在になります。一生ものですので、ぜひ、手元に揃えることをおすすめします。写真は、HOZAN P-51とN-58です。

■ワイヤストリッパ
導線の被覆をむく工具がワイヤストリッパです。ディジタル回路製作では、AWG30(芯線径0.3mm)の線材を多く使います。最小対応サイズがAWG30のワイヤストリッパが使いやすいでしょう。写真は、Klein Tools 11047です。最近はデザインが大幅に変わりましたが、その使いやすさは逸品です。大手のパーツ通販サイトで購入できます。

■ドライバー
大中小と3本程度を用意しておくと良いでしょう。HOZANの差し替えドライバー3本セットは、安価で丈夫で使いやすく、おすすめです。写真はD-2、D-4、D-8ですが、これらは生産終了となり、軸長が少し短いD-52、D-54、D-58が代替え品となっています。

3. 基本材料をそろえよう

■ユニバーサル基板
2.54mm(1/10インチ)メッシュのユニバーサル基板は、電子工作の強い味方です。初心者は、片面と両面(スルーホール加工)がありますが、初心者は片面基板の方が使いやすいと思います。スルーホール加工されていると、はんだがホールに流れ込み、失敗したときに部品が取り外しにくいほか、はんだ付けに工夫が必要です。しかし、ランドがはがれにくく、部品の取り付け強度が高いメリットがあります。基板のメジャーな材質として、紙フェノールとガラスエポキシがありますが、小サイズの場合は、どちらでも良いでしょう。大サイズの場合(20cmを超える場合)は、ガラスエポキシの方が反りにく、基板の強度も高いです。

なお、鉛含有はんだと鉛フリーはんだを混ぜて使うと著しく性能が劣化します。はんだめっきされているランドのユニバーサル基板には、必ず、はんだの種類を揃えて使うことに注意して下さい。海外への持ち出しを想定した製作の場合には、鉛フリーが前提となり、はんだだけでなく工具も完全に分けて使用するなど、厳密に管理(鉛含有と鉛フリー)することが求められます。


左から、紙フェノール基板(片面、はんだめっきなし)、紙フェノール基板(片面、はんだめっきあり)、ガラスエポキシ基板(両面、スルーホール加工、鉛フリーはんだめっき)

■ラッピングワイヤ
写真は、OK Industries社のR30Y-1000(AWG30)です。1000ft(305m)で7,000円ぐらいしますが、はんだの載りは抜群です。20年以上愛用していますが、未だにこれを超える線材には出会えていません。被覆が熱で溶けやすいことが唯一の難点です。2番目におすすめなのは、共立電子産業などで売られている鍍銀線(AWG30)です。短い100ft(30.5m)巻きのリールのため、1,000円前後で入手できます。

■すずめっき線
基板上に、電源ラインやGNDラインを引くのに使います。以前は、1mm程度の太い配線が好みでしたが、熱による膨張が激しく、はんだ付けにはコツが必要です。最近は、0.5mmや0.65mmが使いやすいと感じています。

4. はんだ付けをしてみよう
4.1 はんだ付けの基本

きれいなはんだ付けをするには、こて先をきれいな状態に保つことが重要です。こて台に付いているクリーナー(スポンジ)を使って、習字の筆を整えるような感じで、こて先をきれいにします。クリーナーはあらかじめ水で湿らせておきます。こて先の被膜がはがれて光る状態になれば、準備完了です。

溶けたはんだは熱いところへ流れていきます。まず、基板のランドと部品の足をあたためることが重要です。慣れないうちは3秒程度、慣れてくると1~2秒あたためます。こて先を基板に対して斜めにして当てると、コンタクトが十分になってあたたまりやすいです。次に、はんだを当てて流し込みます(1~2秒)。はんだが流れ込んでランド全体に行き渡ったことを確認したら、はんだを離します。直後に、はんだごてを離します。慣れてくると、ほぼ同時に離すような感覚になります。はんだを流し込んだとき、煙があがりますが、これは、フラックスが蒸発しているからです。フラックスが無くならないうちに、こて先をはなさないと、きれいに仕上がりません。また、後から、再びはんだを溶かして線を付ける場合は、予備はんだとしてはんだを盛ることにもなるので、早めにこて先を離して、多くのフラックスを封じ込めておく必要があります。つまり、無駄がないように、適切な場所をあたためるなど、正確な作業が求められます。上達には、練習あるのみです。

作業中は、やけどをしないように十分に注意して下さい。もし、やけどをしてしまった場合は、すぐに水道の水や冷蔵庫の氷で患部を冷やして下さい。すぐに冷やすかどうかで、やけどの治り方は全然違います。

4.2 してはいけないこと

してはいけないことを挙げておきます。 初心者の学生がしているのを見て、いつも注意していることです。

  1. はんだをこて先に当てて溶かして盛ってから、部品の足に持って行こうとしてはいけません。フラックスが完全に蒸発してしまって、きれいに仕上がりません。
  2. 部品の足だけにこて先を当ててあたためると、失敗します。どちらかと言うと、ランド(基板の銅箔)をメインにあたためるようなイメージになります。
  3. 長時間当てすぎると、フラックスが完全に蒸発してしまい、ツノが出たりして成形がうまく行きません。
  4. こて先をクリーナー(スポンジ)に押しつけて水蒸気を上げたりしないで下さい。こて先の寿命が短くなります。
  5. クリーナー(スポンジ)を湿らせすぎた場合であっても、絞らないで下さい。クリーナーに入っているせっかくの薬品が流れてしまいます。
4.2 チェックしてみよう

きれいなはんだ付けは、富士山のような形をしています。丸まったり、でこぼこしていないかどうか、チェックしてみましょう。

■エレガントなはんだ付け
ランド全体にはんだが行き渡り、光沢があり、富士山のような形になっていれば、良しです。

■イモはんだ(ダメな例)
部品の足だけ、または、ランドだけにはんだが付いて、電気的につながっていない状態を、イモはんだと言います。あたため不足やフラックス不足が原因です。一度、はんだ吸取器で古いはんだを除去してからもう一度はんだを流し込んで直して下さい。

■ブリッジ、ショート(ダメな例)
はんだカスが詰まって隣のランドとショートしたり、はんだの量が多いためにブリッジしたりすることがあります。目視でチェックして、イモはんだと同様にはんだ付けをやり直して下さい。常に、机の上を清掃しておくことも防止対策になります。

■目玉はんだ
はんだの量が少なく、電気的につながっていない状態です。追加のはんだを流し込んで修正します。

■盛りすぎ、ツノ
はんだを盛りすぎて丸くなっている状態はきれいではありません。また、成形がうまく行かずに、ツノが出た状態になることがあります。はんだ吸取器で、古いはんだを取り除いてから、もう一度、はんだを流し込んで修正します。小さいツノの場合は、少量のはんだを流し込んで修正することができます。

4.3 部品ごとのはんだ付けの実際

■ICソケットのはんだ付け
ICソケットを基板にはんだ付けするときに気をつけることは、浮かないように、かつ、真っ直ぐに付けることです。ここでは、仮留めというワザを使います。位置決めをしっかりとしてから、本付けをするという手順になります。

  1. 対角の2カ所を少量のはんだで固定します(仮留め)。

  2. ICソケットが浮いていないか(浮きと呼ばれる)確認します。

  3. ICソケットを指で押さえながら、仮留めしたはんだを溶かします。パチンという音がして、ICソケットが基板に密着すれば、浮いていたことになります。対角の2カ所の仮留めを、指で圧力をかけながら溶かして浮きを無くして下さい。

  4. ICソケットを斜め上方から見て、基板に対して真っ直ぐになっているかどうか確認します。基板の部品穴は0.8mm程度の大きさがありますので、部品が斜めに付くことがあります。片方によりすぎていないか、斜めになっていないか、よく確認してください。斜めになっている場合は、仮留めのはんだを溶かして指で押しながら修正します。基板を横から見ると、状態を確認しやすいです。

  5. 本付けのはんだ付けを行います。仮留めした箇所以外のピンをはんだ付けを進めます。最後に、仮留めした箇所を、しっかりとはんだ付けします。なお、部品の足を曲げて、ICソケットにはんだ付けすることがわかっている箇所は、本付けしないで残しておきます。(次回、説明します)

■抵抗器のはんだ付け
抵抗器については、寝かせて取り付ける方法と、立てて取り付ける方法があります。寝かせると短い配線になりますが、基板上のスペースを広く占有します(1/8W形状の抵抗器を使うと解決できます)。立てて取り付けると、2穴分しかスペースを占めないので、高密度に配線ができます。LED出力などの高周波信号が通らない箇所は、立てて配線することで十分です。

抵抗のはんだ付けで、まず気をつけることは取り付ける「向き」です。カラーコードが上から読めるように、または左から読めるように取り付けましょう。立てて取り付けるとき、抵抗の足の長い方は、回路のインピーダンスの低い方にします。手などで触った時に誤動作を起こしにくいようにするためです。電源側、ICの出力ピン側を足の長い方にします。

抵抗のはんだ付けにも、仮留めのワザを使います。足を基板に沿って曲げたり、抵抗の頭を軽く手で押さえたり(軍手をしたり、バンソコを指に巻いて遮熱すると良い)して、仮留めをします。部品に「浮き」が見られたら、抵抗の頭を押さえながら仮留めしたはんだを溶かして、部品を基板に密着させます。部品を押さえるのではなく、はんだ面に出ている足を引っ張りながら溶かしてもよいでしょう。1本の仮留めが終わったら、反対側の足をはんだ付け(本付け)します。そして、仮留め側も本付けします。最後に、抵抗器が真っ直ぐ垂直に配置され、浮きがないことを確認して下さい。下の写真を見て下さい。どれが美しい仕上がりか、すぐにわかりますね。

■発光ダイオード(LED)のはんだ付け
発光ダイオードの取り付けは、抵抗器に似ています。見る角度によって明るさが変わる部品なので、真っ直ぐに取り付けることがより重要になります。また、極性がありますので、反対向きに付けないように注意して下さい。足の長い方がアノード、短い方がカソードですので、足の長い方がプラス側になるようにします。抵抗器やコンデンサも同様ですが、足を使って配線する場合は、曲げてからはんだ付けをして下さい。はんだ付けしてから足を曲げると、仕上がりが汚くなります。詳しくは、次回、説明します。


仮留めしてから、はんだを溶かして、浮きをなくして、かつ、真っ直ぐにします。


初心者によくありがちなのが、全部の部品を基板に刺したまま、いっぺんにはんだ付けをしようとするパターンです。部品は1個1個丁寧にはんだ付けして下さい。LEDがEXILEする原因となります。

■ケーブルのはんだ付け
ここでは、「はんだめっき(予備はんだ)」と「だぼ切り」のワザを使います。

  1. まず、ケーブルの被覆を剥ぎます。より線の場合は、芯線を手でよじっておきます。

  2. 次に、芯線をはんだごてであたためて、はんだを流し込んでなじませます。これを、はんだめっき(予備はんだ)と言います。はんだを、電気スタンドのような形状に成形して、テーブルの上に立てておくと作業がしやすいでしょう。はんだめっきをしたケーブルの先端部分ですが、必要最小限の長さまで切り詰めます。先端に「だぼ」(はんだの塊)が付いていたり、過剰に長いとショートの原因になるからです。

  3. 次に、ケーブルをはんだ付けする箇所(基板のランドなど)もはんだめっきします。まるで、ゴム糊を塗るときのようですね。はんだめっきの準備が完了したら、ケーブルを取り付け箇所に当てて、はんだを溶かします。このとき、新しいはんだは不要です。はんだめっきのときに残っているフラックスで十分きれいに付けられます。長時間こて先を当てすぎてフラックスが無くなってしまった場合は、古いはんだを除去して、はんだめっきからやり直します。
4.4 ちょっとしたテクニック
  1. はんだの仕上がりに光沢がない場合や、小さいツノがあるなど成形がいびつな場合は、はんだを溶かして少量のはんだを追加(増し盛り)すると、フラックスが補充され、きれいに仕上がります。広義の意味で、化粧はんだと呼ぶことがあります。
  2. はんだを流し込むとき、フラックスが蒸発して煙が出ますが、長時間吸い続けると気分が悪くなります。換気をすることも重要ですが、煙が顔の方向に来ないようにする工夫も必要です。つまり、はんだ付けをしている箇所に向かって、少量の息を吹きかけながら作業をすると、煙が前方に流れて、煙たくなくなります。息を強く吹きかけると温度が下がってしまいますので注意して下さい。
  3. スルーホール加工がされた両面基板では、部品穴の内側にも銅箔があるので、一度にはんだを流し込もうとすると、どんどん穴の中にはんだが吸い込まれていきます。吸い込まれたはんだは、部品面にあふれて、汚くなってしまいます。これを避けるには、まず、少量のはんだを流して穴をふさいでしまいます。そして、一旦、冷やして固めてから、適量の盛り上がりになるまではんだを流し込みます。このように2回に分けてはんだを流し込むと、きれいに仕上がります。
4.5 剥がれてしまったランドの復活

片面基板の場合、ランドが剥がれてしまうことがあります。一旦剥がれてしまったランドは、二度と元には戻りません。修正するには2通りの方法があります。

  1. 隣接するランドに足を曲げて修正します。これが一般的な方法です。

  2. ICソケットなどの場合は、シール基板を使って直すこともできます。まず、ランドが剥がれた穴に隣接する2穴のはんだを除去します。そして、シール基板を3穴分だけ切って、写真のように剥がれた箇所が中央になるようにシール基板を置きます。接着する必要はありません。

    次に、シール基板が浮かないように気をつけながらはんだ付けをします。ぜひ一度、試してみて下さい。

いかがでしたか? 基本的なことを書きすぎたかもしれません。次回は、部品配置の決め方と、実際にユニバーサル基板を使って、はんだ付けをエレガントに仕上げるノウハウについて説明します。

頭の体操 詰将棋

3人娘アマチュア無線チャレンジ物語

  • 連載記事一覧
  • テクニカルコーナー一覧

お知らせ

発行元

発行元: 月刊FBニュース編集部
連絡先: info@fbnews.jp