2014年5月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第3回 海外における「非常通信」

前回は我が国における「非常通信」の現状についてまとめましたが、今回は海外についてまとめて行きます。

無線通信の国際組織として、皆様まず思い浮かべるのは“ITU”(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)だと思います。ITUは国連の情報通信技術について特化された組織であり139の国と地域が加盟しています。

またITUは”Emergency telecommunication Homepage”を設け
"Telecommunications saves Lives"(電気通信は命を守る:筆者訳)との表題の元、「ITUは防災、減災、救援に取り組む」として、

ITU

ITU-R (Radiocommunication 無線通信)
ITU-S (Standerdization 無線通信標準化)
ITU-D (Development 電気通信開発)

の各部門での取り組みを示し、トップページ左肩にこれら専門分野別部門の非常通信に関するリンクがあります。
(ITU Emergency telecommunication Homepage:残念ながら日本語版はありません)
http://www.itu.int/emergencytelecoms/index.html
ではこれらの専門分野を見ていきましょう。

(ITU-R)
http://www.itu.int/ITU-R/index.asp?category=information&rlink=emergency&lang=en
ここでは災害を、「予測・発見」「警報」「救援」3つの段階に分け、それぞれの段階において関係する通信業務(サービス)毎に課題を明示しています。

ここでアマチュア無線は
・「警報」の段階では「その受信と配信」
・「救援」の段階では「救援活動の補助」
として、それぞれSG5の検討課題とされているようです。

(ITU-Rでは各SG(Study Group:分科会)に分科して活動がなされ、さらにWG(Working Group:作業班)に細分化されています。WG5Aにアマチュアが含まれています。)

このような構成の中で、特に報告文書として、「減災と救援を支援するアマチュアおよびアマチュア衛星業務の役割」という物があります。
(Rep. ITU-R M.2085-1 http://www.itu.int/pub/R-REP-M.2085 )

その構成は、

1. 序文
2. 関係文書
3. GAREC
4. 非常通信周波数
5. 近年の運用経験
6. 準備策

とあります。(赤字:筆者注記)

ここで注目すべきは、“GAREC”“Global Amateur Radio Emergency Communications”(世界アマチュア無線非常通信会議)という項目です。詳細は後記します。

残る2部門は、
(ITU-T)
http://www.itu.int/en/ITU-T/emergencytelecoms/Pages/default.aspx
ここで注目すべきはFocus Group(特設作業部会)として東日本大震災検証部会が設置されています。

(ITU-D)
http://www.itu.int/ITU-D/emergencytelecoms/
この分野の非常通信のサイトでは5点の文書が紹介されており、概論やハンドブックには第5章にアマチュア業務が掲載されています。

目次には、

5.1 概論
5.2 通信網とその範囲
5.3 運用周波数
5.4 通信モード
5.5 レピータ局
5.6 アマチュア無線による非常通信業務の組織
5.7 第三者通信
5.8 公共業務としてのアマチュア業務の使用の最適化

となっています。

ハンドブックには技術編も構成されており、ここには簡易アンテナの案内や、Q符合、略号、通信用語が記載されています。この通信用語に関しては“UNHCR”(国連難民高等弁務官事務所)の通信手順について触れられています。

このUNHCRのみならず、国連の各種機関で紛争国等の現場に派遣される職員向けの各種マニュアルには、通信手順も含まれています。無線運用について経験のない者であっても、必要な例文に従って行えば事足りるよう記載されています。

幾つかの組織では、通信内容に関し定型文についてコード化し、通信を簡略化するようしているものもあります。確かに簡略化は可能ですが、これはすべての通信当事者がコードを把握していることが大前提です。コードを使用するメリットと裏返しに、デメリットとして、当事者以外の者は通信を傍受あるいは参加しようとしても内容が理解できないことがあります。通信の秘匿性の必要がある場合はコードの利用が有益です。別の視点では、国連組織から現地に派遣された職員のように、予め紛争、その他トラブル発生が予想される場所で各種業務に従事する、ある意味で緊急事態発生が予想される状況下にある者が、予め準備したツールを用いて行う場合と、我々が想定する突発の事故・災害などの非常事態での通信を行う場合とは全く状況が異なるため、全てがそのまま受け入れられるものではありません。しかし参考となる要素は少なくありません。

組織などの説明はここまでにしますが、詳細をお知りになりたい方は、
「これでわかるITU-2013年版-」(一般財団法人日本ITU協会の発行)
https://www.ituaj.jp/?page_id=4490
をお読みいただければ、と思います。

ではルールはどうでしょう。アマチュア無線家になじみがあるのは、「国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則」“Radio Regulations”俗にいう“RR”)であり、これは、JARLのアマチュア局用電波法令抄録にも関係部分が収録されています。第25条にアマチュア業務が定められており、そこは上級資格試験の出題範囲でもあるので、目にした方も少なくないでしょう。

この“RR”はITUのWEBサイトからダウンロード出来るので、興味ある方はご覧下さい。
(こちらも[英文])
http://www.itu.int/pub/R-REG-RR/en

ここではCHAPTER Ⅵ provisions for services and stations のARTICLE 25にAmateur services とあり、この25条各項で種々規定している。その中で非常通信に関係する内容は、

25.9A §5A Administrations are encouraged to take the necessary steps to allow amateur stations to prepare for and meet communication needs in support of disaster relief.

「主管庁は災害救助時にアマチュア局が準備できるよう、また通信の必要性を満たせるよう、必要な措置を取ることが奨励される」

なるものがあります。

視点を変えてみましょう。
日本では防災計画や災害救助法など、政府レベルで各種の施策がなされています。これを国連ではどのように取り扱っているのでしょうか。

「国連国際防災戦略」(UNISDR United Nations International Strategy for Disaster Reduction)という国連総会決議に基づく国際防災機関があります。
http://www.unisdr.org/

日本では神戸にリエゾンオフィス(駐日事務所)が設置されています。
http://www.unisdr.org/kobe

活動内容は種々ありますが、その中の一つとして、国際防災協力の促進及び国際防災戦略である「兵庫行動枠組」の推進、とあります。(外務省国際協力局緊急・人道支援課資料より)

兵庫行動枠組:Hyogo Framework for Action(HFA)

2005年から10年間の防災指針であり、「災害に強い国・コミュニティの構築」をテーマに以下5つの「優先行動」を示している。
1. 防災を優先事項に。
2. 災害リスクを知り、行動する。
3. 防災知識を高める。
4. リスクを減らす。
5. 事前準備をし、緊急時に行動できるように備える。

詳細には、以下のPDFをご覧下さい。
http://www.unisdr.org/files/1217_hfaflyerjapanese.pdf


(クリックで拡大します)

またこれに関連することですが、第3回国連防災世界会議が2015年3月14日から3月18日に仙台市およびその周辺で開催が予定されています。詳細については以下の仙台市のサイトにある資料をご覧下さい。
http://www.city.sendai.jp/fuzoku/__icsFiles/afieldfile/2014/02/17/6siryo4.pdf

東日本大震災でのアマチュア無線の貢献をPRすべく特別なコールサインを使ったアマチュア無線局が、このイベントで運用されるであろうと筆者は予想します。

さて、ITU、国連、と見ましたが、アマチュア無線の世界はどうでしょう。皆様ご存知のように「国際アマチュア無線連合」International Amateur Radio Union “IARU”があります。
http://www.iaru.org/

上記ホームページの中に”Emergency Communication”という分野を設けていますが、ここが実に内容が濃いものです。特に注目したいものが、GARECです。これについてはJA1CIN三木哲也先生が「非常通信に備えるアマチュア無線」として執筆の記事中に3.災害・非常時通信に備える体制 (3)海外におけるアマチュア無線の非常通信の中で触れられていますが、特徴的な活動なので、再掲します。

前述のITUの資料に記載がありましたが、国際アマチュア無線非常通信会議というもので、2005年フィンランドのセッポ=シサット氏(OH1VR)の主導で、非常通信の国際および地域協力へ視点を向けフィンランド、タンペレで開催されたもので、2014年には第10回を迎えるものです。この会議中、各国、各地域の非常通信体制、また実際に発生した災害での状況報告が行われ、これまでに、スマトラ沖地震による大津波、ハリケーンカトリーナ、四川大地震、東日本大震災などの大災害についての報告もなされています。ちなみに2009年に第5回をハムフェア開催中の東京で開催し、阪神淡路大震災でのJARLの特別局の展開や和歌山県に於けるD-STAR網に関する発表が行われています。詳細について書こうとすると小冊子一冊以上になるボリュームなので、各回の内容は以下に示すWEBサイトでご覧ください。
http://www.iaru.org/garec.html

GAREC

第1回 2005 タンペレ フィンランド
第2回 2006 同上
第3回 2007 ハンツビル アラバマ州 米国
第4回 2008 フリードリヒスハーフェン ドイツ
第5回 2009 東京 日本
第6回 2010  ウィレムスタッド キュラソー
第7回 2011 サンシティ 南アフリカ
第8回 2012 ポートディクソン マレーシア
第9回 2013 チューリッヒ スイス
(第10回 2014 ハンツビル アラバマ州 米国)

上記GARECの他に、もう一つ注目したい動きがあります。“GlobalSET”です。これも三木哲也先生が前出の記事中で触れられています。”Global Simulated Emergency Test” GlobalSET 世界非常通信訓練と訳される行事です。

前回は2013年、世界アマチュア無線の日である4月18日を挟む4月13日と20日の土曜日に実施され、日本からはJARLの本部局であるJA1RLがIARU第3地域の本部局となった9M8DBと交信しています。主催はIARU第1地域となっています。以前は毎年開催したようですが、今年は同地域ホームページにあるカレンダーには予定されていません。また、2013の状況はIARU第1地域のホームページで見ることが出来ます。
http://www.iaru-r1.org/index.php?option=com_content&view=category&layout=blog&id=57&Itemid=165

せっかくIARU第1地域のホームページを見ているので、他に注目したい情報をご紹介しましょう。少し古い情報のままのようですが、第1地域でドイツ、フランス、イギリスをはじめ幾つかの国が毎月訓練を実施しているのが分かります。第2地域、第3地域もそれぞれホームページがありますが、第1地域のような訓練予定を見出すことは出きていません。

ここまでGlobalな視点で話を進めていますが、肝心の「非常通信周波数」はどうなっているのか興味をお持ちの読者もいらっしゃると思います。全世界で統一されているのか、そうではないのか。その部分を見てみましょう。

国際的に通信周波数はITU-RのSG1で管理されています。前出のITU-R M.2085-1にて非常通信周波数に関する記載があります。これを読むとHFはITUのReg.毎に定められ、VHF,UHFは各国毎に定められる、とあります。これよりHFについてまとめると以下のようになりました。


全てkHz

如何でしょうか。ハイバンドは世界的に統一されますが、ローバンドについては注意が必要です。

以上のよう今回は「非常通信」について海外、特に国際的現状について見て行きました。次回は米国のアマチュア無線における非常通信についてまとめる予定です。

お耳拝借 <あなたを「地区防災計画」検討メンバーに?>

この記事をお読みの方は防災意識が高く、既にご存知のお話かもしれません。

内閣府は昨年災害対策基本法を改正し、第42条(市町村地域防災計画)以下に地区防災計画に関する規定を盛り込み、新設の第42条の2にて「地域居住者等は、共同して、市町村防災会議に対し、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めることを提案することが出来る。」等定め、この4月1日より施行されました。

内閣府の発行する「地区防災計画ガイドライン」によると、地区の例示に町内会、マンション管理組合も含まれています。さらにガイドラインを読み進むと、無線通信に造詣の深い方の琴線に触れる記載が何カ所かあります。

これより、町内会やマンション内で、「あの方はアマチュア無線家で日頃から非常通信も視野に入れ運用されているそうだ。だったら町内会(マンション)の計画検討メンバーに入ってもらおう…」という展開があるかもしれません。

お声がけをいただくのは大変ありがたい事ですが、むしろ自ら「こんな話しがあるようですが、やるなら情報の部分について関わらせてほしい」と進んで関与され、これまで身につけた知識や経験を基に活動され、「さすが○○さん、伊達にアマチュア無線おやりじゃないね」との理解を得る機会とされるのが良いかも知れません。特にご近所さん・近隣住民の多い住環境にあるアマチュア無線家にとっては、その周囲とのコミュニケーションを増幅する良いチャンスかもしれません。

夏祭りの準備会合でいきなり言われてビックリ、とはならないように…。

(地区防災計画ガイドライン 総務省消防庁(内閣府作成))
www.fdma.go.jp/html/life/chikubousai_guideline/guideline.pdf

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