2014年12月号

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連載記事

ディジタルを楽しもう


JH1NRR 辻岡哲夫
(JL3YMC 構成員)

第8回 簡易電界強度計を作る 3

1. 対数アンプを使った高感度化

今回は、対数アンプを使って高感度化を図って、簡易電界強度計のダイナミックレンジを広げたいと思います。また、液晶モジュールを接続して、測定結果を見やすく表示できるようにします。更に、32ビットのPIC32MXを使って計算機パワーを確保して、高度な測定にも対応できるようにします。

2. 対数アンプIC

広帯域な対数アンプとして、アナログ・デバイセズ社(通称アナデバ)のAD8307AD8313を使います。選定理由は、使いやすいICであることと、入手性が良いことです。1MHz以下の周波数領域でしたらオペアンプを使ってディスクリートで回路製作をすることもできますが、高周波領域での対数アンプについては、専用のICを利用するしか方法がありません。それぞれの特徴を下記に整理します。

  1. AD8307: 帯域:DCから500MHz、ダイナミックレンジ:-75dBmから17dBm@50Ωまで、25mV/dB、@約1,500円、電源:2.7~5.5V、パッケージ:SOIC(1.27mm)またはDIP
  2. AD8313: 帯域:100MHzから2.5GHz、ダイナミックレンジ:-65dBmから0dBm@50Ωまで、24mV/dB、@約2,300円、電源:2.7~5.5V、パッケージ:SOIC(0.5mm)
どちらも8ピンのICで、単一電源の3.3Vや5Vを与えると、入力信号の電力の対数に相当する電圧が出力されます。スロープは、それぞれ25mV/dBと24mV/dBとなっていますが、外部抵抗を接続すれば調整することもできます。このICの周辺、特に、入力ピンは高周波信号が通りますので、できるだけ短く配線する必要があります。AD8307にはDIPパッケージがラインアップされていますが、低周波アプリケーション用ですので、DIPではなくSOICを使った方が良いでしょう。


どちらもSOICですがピンのピッチが異なります。AD8307(DC~500MHz)は1.27mmピッチ、AD8313(100MHz~2.5GHz)は0.5mmピッチです。

今回もユニバーサル基板の上に実装します。ICの固定にはピッチ変換基板を使います。このような場合、サンハヤトのシール基板が大変重宝します。一般的なDIP変換基板と比べて、短い配線に仕上がります。また、はさみで切って必要な大きさ・形状に加工して利用できます。基板上の空きスペースが少ないところにも実装できたりします。なお、0.5mmの8ピンについてはシール基板がありませんので、AD8313については一般的なDIP変換基板を使っています。時間的に余裕がある場合ば、クイックポジ感光基板を使って高周波部だけでも専用のプリント基板を製作することをオススメします。今回は、簡易版・体験版ということで、このまますすめます。ICB-96DSEやICB-98DSEなどのシールド機能を備えたユニバーサル基板もありますので、これらを活用しても良いでしょう。


変換基板にはんだ付けした状態の対数アンプです。シール基板の方が配線が短く優れています。


残念ながら0.5mmピッチのシール基板は6ピンまでしかありません。

3. 回路図

簡易電界強度計の最後ですので、液晶モジュールを使って測定値を表示するようにします。また、いろいろな計算を難なくこなせるように、また、大容量メモリが使えるように、PIC32MXシリーズの32ビットPIC(型番:PIC32MX250F128B、プログラムメモリ:128KB、RAM:32KB、単価:約360円、パッケージ:DIP28)を使います。電源電圧の範囲が2.3V~3.6Vと狭いのですが、40MHzで動作します。MIPS32のコアが使われていますので、1クロックで1命令を実行できます。同じ40MHzのクロックでも、PIC16/PIC18/PIC24よりも高速に処理できます。

回路図を下図に示します。前章で紹介した対数アンプ(AD8307とAD8313)の出力電圧を、PIC32MXのAN0とAN1にそれぞれ入力しています。3.3Vの安定化回路を備えていますので、A/D変換の基準電圧はVDDから取ることとします。AD8313については、ドライブ能力が弱いので、出力ピンの直後にAD8009やLM358などのバッファアンプを置いた方が良いかもしれません。これらのオペアンプを後日追加することを考えて部品配置をして下さい。操作スイッチのSW1~SW4は、プルアップもプルダウンもしないでPICのDigital入力に接続しています。PIC32MXには、内部プルアップ/内部プルダウンの機能が備わっていて、ピンごとに設定(プルアップ/プルダウン/使用しない)することができます(設定は、CNPUxレジスタ、CNPDxレジスタで行います)。回路図の右側の部分を見ますと、I2Cインタフェースを介して、液晶モジュールACM1602を制御するようになっていることがわかります。液晶モジュールは、現在はパラレル接続(4本のデータ線と3本の制御線による)の製品が主流ですが、今後は、配線数が少ないI2Cの製品が増えてくるものと思われます。I2Cでは、SCLとSDAの2本の信号線だけで双方向通信を行います。これらの信号線については、プルアップすることを忘れないで下さい。プルアップ抵抗の抵抗値が大きいほど低消費電力化になりますが、信号の立ち上がりが甘くなります。400kbpsの速度であっても、10kΩの値で問題ないという実験報告が存在します。通常は2kΩ~5kΩでプルアップします。


クリックするとPDF版の回路図が開きます。

PIC32MXでは、リマッパブルピンという機能が採用されています。増えすぎた内部ペリフェラルを効率的に利用するための機能で、レジスタ設定によってピン配置が決められます。完全に自由というわけではありませんが、ある程度の自由度はあります。上の回路図ですが、将来的にUSART(U1TXピン、U1RXピン)や、SPI通信(SDI1ピン、SDO1ピン)、リアルタイムクロック(SOSCIピン、SOSCOピン)の機能を使うときのことを考慮して、関係するピンはを空けてあります。このような工夫も、設計のノウハウになります。

4. 製作しよう

今回の回路では、入力インピーダンスは50Ωになりますので、高周波コネクタを使うことにします。入力のコネクタについては、SMAコネクタを使うことにしました。強度のあるガラスエポキシ基板ICB-502Hを使って、基板にコネクタの基部をビス留めしました。ビス留めではなく、基板実装タイプのSMAコネクタを使って基板に直接はんだ付けすると、よりエレガントに仕上がると思います。小型化を重視する場合は、SMBコネクタを使っても構いません。


ビス留めタイプのSMAストレートコネクタの写真です。


SMBコネクタと、SMB-BNC変換コネクタの写真です。

高周波入力部のR1,C1,C2、および、R2,C4,C5の50Ω終端回路については、チップ部品で製作すると特性が良くなります。1608サイズ(1.6mm×0.8mm)と2010サイズ(2.0mm×1.0mm)のチップ部品は、直接、ユニバーサル基板にはんだ付けすることができます。その手順を下記に示します。


ハンダを少なめに盛っておきます。


チップ部品を置きます。


盛っておいたハンダを溶かして、チップ部品を仮固定します。このあと、チップ部品をピンセットや手で押さえながら、ハンダを増し盛りして本固定します。

下図に、今回製作した、対数アンプを使った簡易電界強度計の基板を示します。対数アンプ部分については、後日、シールドで覆う予定です。出力バッファ用のオペアンプ(AD8009やLM358)を追加で乗せる場所を少し空けてあります。強度を高めるために、ガラスエポキシ基板を使っています。


基板の表面の写真です。


基板の裏面の写真です。

ケースに組み込んだ状態の写真です。タカチ製のアルミケースYM-180を使っています。以前にも書かせていただきましたが、何が干渉するのかわかりませんので、すべてのコネクタにケーブル類を接続した状態で、ケース内の基板配置、電池配置を決めていきます。SW1からSW4の位置については、押しやすいように、基板の端に置いていません。つまり、高さのある部品(DIPパッケージのPICや、アルミケースの前板)に近づけないことが、操作のしやすさの秘訣(ひけつ)です。SMAコネクタにケーブルを接続した状態ではケースにフタをすることができなかったり、フタを閉めると液晶が見えなくなる・SW操作ができなくなるなど、本実装については再考すべきことが多々あります。ご容赦下さい。


ケース内部の基板配置です。

5. おわりに

今回はここまでです。次回は、測定のための制御プログラムについて紹介・説明して、最後に、簡易電界強度計について総括する予定です。

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