2014年5月号
連載記事
移動運用のオペレーションテクニック
JO2ASQ 清水祐樹
第2回 HFマルチバンド運用のアンテナ
HFの移動運用で多くの局と交信するには、電離層の状態に合わせて最適な運用周波数を選択することが有効です。前回の連載では、電離層の状態の調べ方を説明しました。
そこで、アンテナが多くの周波数帯に対応できると便利です。1本のアンテナでHFマルチバンド運用が可能な実用性の高いアンテナとして、次のような設備が考えられます。
1. ロングワイヤーアンテナとアンテナチューナー
2. 可変長・可変コイルのアンテナ
3. 分岐ありダイポールアンテナ
4. トラップ式ダイポールアンテナ
5. 終端抵抗を利用するアンテナ(T2FD型など)
それぞれの方法には長所と短所があり、運用目的に応じて使い分けることが有効です。今回その概要について解説します。
1. ロングワイヤーアンテナとアンテナチューナー
長所:周波数帯の切り替えが速くて簡単
短所:受信能力は、最良とはいえない
周波数とワイヤーの長さの関係によっては、使用困難となる周波数帯がある
オートアンテナチューナーの場合、チューナーの電源が必要
逆L型などのロングワイヤーアンテナとアースを設置し、アンテナチューナーを使って強制的に見かけのSWRを下げて(アンテナと給電線の整合を取って)送信可能とする方法です。アンテナチューナーには手動式と自動式(オートマチックアンテナチューナー、ATUと略記)があります。周波数を切り替える際にアンテナ本体に触れる必要が無いため、簡単に周波数帯を切り替えられる利点があります。一方、ワイヤーアンテナ(エレメント)自体の特性が使用周波数に最適化されるとは限らないので、受信能力は最良の条件にならない場合があります。
手動式のアンテナチューナーは、1個のスイッチ切り替え式コイルと、2個のバリコンで調整する回路が一般的です。使用する場合は、目的の周波数帯で送信状態にしてSWRが下がるようにスイッチとバリコンを操作します。この時、送信出力はSWRが測定可能な程度に低減します。送信回路が故障する場合があることと、不要な送信により他局の迷惑になることを防ぐためです。アンテナチューナー単体で整合可能な範囲を超える場合、容量可変のコイルや、インピーダンス変換トランスを外付けして補正することで、対応することも可能です。
オートマチックアンテナチューナーは、TUNEボタンなどを押せば自動的に目的の周波数に整合を取ることができます。ただし、全ての周波数帯に対応できるとは限りません。ワイヤーアンテナが短すぎると低い周波数に対応できませんし、1/2波長に近い場合に正常動作しない場合があります。
ロングワイヤーアンテナでは、アースも重要です。両端に大型のワニグチクリップ(バッテリー上がり対応用のブースターケーブルで代用可)を付けた2~3mのコードを用意しておき、手すりや金網のフェンスなど、近くにあるアースになりそうなものに接続してみましょう。アースが無い場合は、地面に置いた1/4波長の電線(カウンターポイズ)で代用できます。これはベランダ等にアンテナを設置する場合にも応用できます。
2. 可変長・可変コイルのアンテナ
長所:アンテナ自体が使用周波数で共振するので、性能が良い
短所:周波数を変える場合に手間がかかる
使用前にあらかじめ製作・調整が必要
ダイポールアンテナなどの長さを物理的に可変にするか、アンテナに挿入するコイルのインダクタンスを可変にする方法です。
ギボシ端子を使う方法(関連記事:2013年10月号)、
ホイップアンテナ(関連記事:2013年4月号、2013年6月号)、
リニアローディング方式(関連記事:2014年2月号)、
電線を縛ったり折り曲げたりする方法、ロッドアンテナなどの伸縮を使う方法などが考えられます。
可変長のエレメント、および可変容量コイルを使って、使用周波数とアンテナの共振周波数を近づけておき、アンテナチューナーで微調整してSWR=1に近づけると、多くの周波数帯で高い性能を発揮します。
3. 分岐式ダイポールアンテナ
長所:バンド切り替えの手間が不要
短所:あまり多くの周波数帯には対応できない
2~3バンドの近接するバンドであれば、ダイポールアンテナを分岐させる方法があります(図1)。これにはテレビ用の300Ωフィーダー線を使うと、例えば18MHzと24MHzの2バンドダイポールアンテナが作れます。芯線に張力が加わって切れないような処理が必要です。
なお、分岐式ダイポールアンテナの場合、奇数倍のバンド(例えば7MHzと21MHz)を並列にすると不具合を生じる場合があります。(出典:HFトランシーバー&HFバンド活用 第3章HFの電波伝搬とアンテナ、高木誠利著、CQ出版社)
図1:分岐式ダイポールアンテナ
4. トラップ式のアンテナ
長所:QSYが簡単
受信能力が良い
短所:設計、製作が難しく、シミュレーションソフトや計測器が必要
湿気などにより周波数が変動しやすい
ダイポールアンテナの途中にトラップ(コイルとコンデンサの並列共振回路)を設け、共振周波数ではインピーダンスが無限大になる性質を利用して、電気的に切り離すことで、1本のアンテナで複数の周波数帯に対応する方式です。性能、使いやすさの点では最良の方法といえます。しかし、自作する場合、設計・製作に手間がかかることが最大の難点です。実測値だけをもとに設計することは難しく、シミュレーションソフトを使ってある程度の大きさを決めておき、実際に製作した後に最も高い周波数帯から順に調整することが必要です。
参考として、筆者が製作した7~50MHzで使える8バンドのトラップ式アンテナの例を示します。片側エレメントの全長は4.5mで、50MHzだけは分岐式を使っています。大きく重いため強風時には使えないこと、湿気により7MHzと10MHzは不安定になりやすいことが難点です。
図2 7~50MHz 8バンドダイポールアンテナの製作例
5. 終端抵抗を利用するアンテナ(T2FD型など)
長所:全ての周波数で送受信できる
短所:効率が悪い
受信感度が悪い
T2FD型など、終端抵抗を利用して全ての周波数で送信可能としたアンテナがあります。抵抗による電力損失があることと、受信感度が低いことが難点です。受信の場合、弱い信号がノイズに埋もれて浮いてこないことがあり、数字に現れない「使いにくさ」を感じます。微弱な信号を聞き分ける必要がある移動運用には、あまり向かないかもしれません。
アンテナの使い分け
私がHFで移動運用する場合、目的に合わせて複数のアンテナを使い分けています。その基準は次のようなものです。
・ 1か所で長期滞在して運用、設置スペースが十分にある、性能重視:ギボシ切り替え式ダイポール
・ 設置に時間をかけたくない、設置スペースが無い:釣竿ホイップ
・ ローバンドを重視、ハイバンドも対応可能、設置スペースが十分にある:ロングワイヤー
複数のアンテナを用意することで、アンテナが破損した場合や、場所の都合で特定の形状のアンテナしか設置できない場合のバックアップ体制にもなります。