2014年6月号

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連載記事

ディジタルを楽しもう


JH1NRR 辻岡哲夫
(JL3YMC 構成員)

第2回 はんだ付けの基礎 2

1. 部品の位置決め

作りたい回路が決まれば、部品を集めて、はんだ付けを始めましょう。まず、基板の大きさを決めて、それから、部品の位置決めを行います。基板の大きさは、ケースに入り、全ての部品が十分に乗る大きさにします。

部品の位置決めについては、できるだけ配線の流れが交差しないように並べます。慣れてくると、データシートの「TOP VIEW」のピン配置図を見ながら部品の位置決めができるようになりますが、慣れないうちは、パズルの要領で決めると良いでしょう。具体的には、厚紙タイプの5ミリ方眼紙を買ってきて、それに「BOTTOM VIEW」でピン配置図を転記します。このとき2.54ミリ四方が5ミリ四方になるように拡大して転記します。転記したら、切り抜いてカード状にします。これをICの種類だけ用意し、パズル感覚で最適な配置を考えると、位置決めがしやすくなります。

基板の四隅のねじ留め穴の周りを、少し開けておくことも重要です。スペーサの太さも考慮しましょう。初めのうちは、大きめの基板に余裕をもって部品を配置し、感覚をつかみます。製作枚数が増えるに従って、空き穴がほとんど無くなるぐらいの実装密度で配置しても平気なまでに上達することと思います。


まず、部品を仮配置して位置決めを行います。終わったら、デジカメで写真を撮っておきます。

2. 電源ラインと主要部品のはんだ付け

はんだ付けの順番について説明します。私のやり方では、まず、主要部品(IC、コネクタ)を仮留めし、次に、電源ラインを配線することから始めます。パスコンもこの段階ではんだ付けします。

電源ラインについては、基板の上方にGNDを、下方にVCCを左右に走らせ、ICの中心に、VCC、GNDを下ろしてきます。電解コンデンサのパスコン(10~100μF)は、電源の供給ポイントに取り付けます。セラミックコンデンサのパスコン(0.1μF程度)は、ノイズ源の直近に取り付けます。ICのパスコンの取り付け位置は、ICの真下が理想的ですが、高周波ではないICについては、基板の表側に配置しても大丈夫です。


電源ラインを上方(GND)と下方(VCC)に走らせ、パスコンをノイズ源の直近に取り付けます。また、電源の供給ポイントに近い位置に、電解コンデンサを入れて、インピーダンスを下げます。電源ライン用のすずメッキ線は、テンションをかけながら両端を反対側に折っておくと作業しやすいでしょう。

部品類は、できるだけ基板に密着するように取り付けます。例えば、積層セラミックコンデンサの場合、購入時点の状態では、足に曲げ加工がされていますが、精密プライヤー(先月号参照)を使って、カチカチと挟み、足を真っ直ぐに伸ばします。このようにすることで、部品が基板に密着し、配線長が短くなります。


どちらが密着しているかは、一目瞭然ですね。

電源ラインは、すずメッキ線で配線します。注意点は、使う前に、手で真っ直ぐに伸ばしておくことです。波打ったまま使うと、配線がきれいに仕上がりません。抵抗、コンデンサなどの部品の足についても同様です。小型部品の足については、精密プライヤーでカチカチと角度を変えながら何回か挟むと、真っ直ぐになります。

次に、ICの裏側にパスコンを取り付ける方法を説明します。片側の足を2mm程度に切って、ハンダめっきしておきます。ハンダめっきをしておくことで、はんだが馴染みやすくなります。

右利きの場合は、右側の足からはんだ付けします。このとき、コンデンサの容量を表す数字が見える向きにすることを忘れないでください。パスコンに限らず、数字が書いてある側が影側に来ないように注意して下さい。また、はんだ付けをするとき、おもりとして、基板に工具を乗せてください。基板が動きにくくなり、オススメです。

右側の足のはんだ付けが終わったら、左側の足も2mm程度に切って、ハンダめっきしてから、はんだ付けします。はんだメッキは、仕上がりを大きく左右します。手間を惜しまないことが重要です。

3. ラッピングワイヤによる配線

電源ラインと主要部品のはんだ付けが終わったら、次は、いよいよラッピングワイヤを使って配線をしていきます。ここで紹介する方法は、スライド法(仮称)です。この方法は、JA1YDA(電通大 工学研究部)のOM(先輩方)から教えていただきました。もう20年以上もお世話になっている配線方法です。

ポイントは、はんだの乗りの良い(濡れ性の良い)ラッピングワイヤ(先月号参照)を使うことと、定規を使って0.5ミリ単位で長さを測ることです。ここから、イラストで説明します。

いかがですか? 理解していただけましたでしょうか? 念のため、写真を使った説明もしておきます。まず、長めに被覆を剥いたラッピングワイヤの先端をはんだ付けします。次に、目的のランドまでの距離(内側距離)を定規で測ります。写真の例では、24.5ミリでした。次に、ラッピングワイヤの被覆の長さが24.5ミリとなる位置にボールペンで印をつけます。

ワイヤストリッパで印をつけた位置をつかんで、被覆をスライドさせます。ラッピングワイヤの芯線がまっすぐになっていないと、断線しますので注意して下さい。先月号で紹介したワイヤストリッパが、一番、断線しにくいと感じています。先端の穴がAWG30で、ワイヤの太さとマッチしていることも使いやすい点です。

スライドさせたあと、次の箇所をはんだ付けします。ここで配線が終了の場合は、裁縫の糸切りの要領で、ワイヤをくるくる回して切ります。ニッパを使うまでもありません。

引き続き、このワイヤを使って並列配線を続ける場合は、同じ作業を繰り返します。なお、配線をUターンさせたい(折り返したい)場合は、あらかじめ、精密プライヤーを使ってヘアピンを作っておきます(写真)。はんだ付けの糊代を作っておくことがポイントです。こうすることで、同じ側に配線を出すことができます。


少したるんでいますがきれいに配線できました。

紹介した方法は、最短距離の直線で配線する方法になります。縦と横にカクカクと配線する方法もありますが、個人的にはあまりオススメではありません。線と線が平行する部分が長くなると、電気信号が乗り移ってしまうからです(干渉またはクロストークと呼ばれる現象です)。最短距離の直線で配線すると、線と線の交差は点になりますので、干渉は低く抑えられます。

次に、バス配線におけるテクニックを説明します。バス配線では、どうしても配線が密になりますので、配線しやすいような工夫が必要になります。下図をご覧ください。配線ができるだけ真っ直ぐになるように、芯線が通る位置(赤線で示した箇所)を揃えます。つまり、上周りの芯線はランドの上側に、下周りの芯線はランドの下側を通るようにします。

はんだ付けをする順番も、上側から順番に行います。このとき、こて先でラッピングワイヤの被覆を溶かさないようにするには、少し工夫が必要です。それは、マイナスドライバを使って、こて先が当たらないように、線を上に寄せ、ランドから離しておくことです。繰り返しになりますが、きれいな仕上がりと回路の一発動作のためには、やり直しも含めて、手間を惜しまないことが重要です。


バス配線の例です。最近はワンチップマイコンが普及し、バス配線をすることが少なくなりました。

最後に、注意点を書きます。部品が基板に密着するようにすることは既に説明しましたが、配線も基板に密着するようにします。下図のイラストに示すように、ラッピングワイヤが少し浮いた状態になっている場合は、ラッピングワイヤを指で押さえながら(圧力をかけながら)、はんだを軽く溶かして、修正して下さい。被覆が短い場合は修正ができませんので、一旦、配線を取り去って、やり直します。

4. 部品の足による配線

ディジタル回路の場合、VCC/GNDの電源ラインを除いて、基本的には、ラッピングワイヤで配線するようにします。しかし、短い配線については、部品の足を使って配線しても構いません。部品の足を使った配線は、途中のランドを塞いでしまうことになりますが、強度は増します。一長一短を考えて使い分けて下さい。

学生のはんだ付けを見ていますと、抵抗やLEDの足を、はんだ付けしてから倒す人が多いことに驚かされます。部品の足で配線する場合は、足を倒してからはんだ付けしましょう。なお、ラッピングワイヤは、足を立てた箇所と倒した箇所のどちらのランドにも、はんだ付けできます。

足を倒した先に既に部品が付いている場合は、その根元のはんだを除去しておきます。まだ、部品がついていない場合は、ちょうど良い長さ(ランドに足がかかり、穴が見える長さ)に足を切っておきます。精密ニッパーを使うと、このような加工は簡単に行えます。

VCC/GNDに足を接続する場合、電源ラインのすずメッキ線に足を乗り上げないようにして下さい。下の写真の左側は良い例、右側は悪い例です。右側のような状態では、はんだごてでランドを暖めにくいことに加えて、足の浮きが発生し、美しい仕上がりになりません。

部品の足を使った配線に関して、その他の注意点を挙げておきます。

  1. 斜めに配線しないこと。(例外:1区画だけの斜め配線は可。それ以上の長さでは、ラッピングワイヤを使う。)
  2. ランドのセンターを通るようにすること。端に寄ったり、波打たないようにすること。
  3. 必要以上にランドにはんだ付けをしないこと。(例外:強度確保、熱膨張の対策など。)
ユニバーサル基板の未使用ランドは貴重な資源です。後々、追加部品を乗せることがあるかもしれません。将来のことを考えて、修正しやすいように配線することも重要です。


上は悪い例、下は良い例です。必要最小限にとどめた方が、修正が発生したときに作業が楽になります。。

高周波信号が通る信号線は、できるだけ短く配線して下さい。特に、水晶発振子やセラロックは、ICの直近に置きます。下の写真の例では、1区画の斜め配線を使って、配線長を短くしています。


※ セラロックのGNDは、まだ配線されていません。

5. はんだごて、はんだ、部品、配線材の固定・操作について

ここで、部品を基板にはんだ付けして配線する作業について見直してみましょう。固定または操作しなければならないものは、はんだごて、はんだ、部品、配線材の4種類となります。人間の手は2本しかありませんので、これらの固定・操作をステップごとに分けて行う作業が「はんだ付け」といえます。はんだ付けには多くのケースがありますが、ディジタル回路製作でよく使うケースは、次の2種類になります。

ひとつは、配線材をICのピンなどにはんだ付けするケースです。STEP-1では、「浮き」がないように部品を基板に固定し、ランドにはんだを盛っておきます。このとき、素早くはんだを盛って、ペーストを封じ込めておくことがポイントです。STEP-2では、盛っておいたはんだを溶かしながら配線材を固定します。

二つめは、部品の足やすずメッキ線を使って配線するケースです。STEP-1では、部品の足を加工して、部品や足が動かないようにします。STEP-2で、はんだを流し込んで、はんだ付けします。なお、うまく加工したつもりでも、少し配線材(部品の足やすずメッキ線)が浮いてしまうことが多いので、STEP-3として、配線材をマイナスドライバ(または爪先)で押さえつけながらはんだを溶かし、浮きを完全に無くします。そのあと、倒した足の根元をはんだ付けし、更に固定します。何度かはんだを溶かすうちに、ペーストが蒸発して無くなってしまうかもしれません。そのときは、最後にはんだを増し盛りして、形を整えてください。


爪先を使う場合は、やけどをしないように十分に注意して下さい。
爪先に窪みができますので、オススメではありません。

下の写真は、輪ゴムとペンチを使った固定方法です。わに口クリップのはんだ付けでは、どうしても手が1本足りないので、この方法がとても便利です。ペンチ(精密プライヤーでも可)を輪ゴムで縛り、クリップを固定しておくことで、はんだ付けが楽になります。一度、お試し下さい。

6. 工具の手入れ、清掃

いつも気持ちよくはんだ付け作業をするためには、工具の手入れが欠かせません。プライヤーやニッパーについては、定期的に注油して下さい。宝商株式会社のEVERS-1(エバース)メタルケアーというスプレーオイル(防錆剤入り)がオススメです。工具の手入れに限らず、自転車の注油にも最適です。浸透性の高いさらさらのオイルです。

はんだごてについては、こて台のスポンジでクリーニングしても、こて先が光らない場合は、こて先の寿命です。無理にやすりなどで磨こうとしないで、こて先を新品のものに交換しましょう。

こて台のスポンジに溜まったはんだくずを捨てるとき、簡単な清掃方法があります。ゴミ箱の上にこて台を持って行き、スポンジの表面を紙で掃いて下さい。使い終わったポストイット紙などで十分です。水分を残しつつ、はんだくずだけを簡単に取り除くことが出来ます。

机の上のはんだくずは、こまめに捨てて下さい。このとき、手で集めると、はんだくずが手に付いてしまい、それが基板に付着して、ショートなどのトラブルを起こすかもしれません。オススメの清掃方法は、定規でゴミを集めることです。定規は、ラッピングワイヤの配線用として、机の上に置いてあるはずです。一度、お試し下さい。

7. 配線例

参考になるかどうかわかりませんが、いくつかの製作物のはんだ付け面を紹介します。あとから修正がしやすいように、ラッピングワイヤを少したわませている箇所があります。学生時代の古い製作物も含まれています。ご了承ください。


ルーレットと電子サイコロです。右の基板は1/2サイズで配線し直したものです。サンハヤト ICB-504を使っています。1/2や1/4の大きさに切って使えるので重宝しています。価格も手ごろです。


熱電対による3chの温度計です。両面スルーホール基板(サンハヤト ICB-502H)を使っています。ランドがはんだメッキされているので錆びません。スルーホールのため、ランドが剥がれることもありませんが、一旦はんだ付けしてしまった部品を取り除くことは困難です。


熱電対による温度計です。片面のはんだメッキ処理された基板(サンハヤト ICB-502G)を使っています。片面のため、部品の取り除き作業は容易です。この基板は安価で秀逸だったのですが、現在は、製造中止となっています。VCCは赤色、GNDは青色のラッピングワイヤで配線されています。


68000のCPUボードです。デジタルリサーチ社のCP/M 68Kを動かしていました(バインダ型のマニュアルは今でも保管しています)。バックアップ用のNiCd電池が液漏れを起こしていますが、気にしないでください。データバスは、黄色のラッピングワイヤで配線されています。

いかがでしたか? エレガントなはんだ付けの方法を習得する早道は、たくさんの製作物を作ることです。この記事で紹介させていただいた内容が、皆様のお役に立ちましたら幸いです。

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