2014年4月号

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連載記事

移動運用のオペレーションテクニック

JO2ASQ 清水祐樹

第1回 イオノグラムから電波伝搬を読み解く

今回からは「移動運用のオペレーションテクニック」と題して連載します。第1回は「電波伝搬」のお話です。

HF(短波)帯の電波は、上空にある電離層で反射して見通し距離を超える遠方に到達します。しかし、HF帯を運用するためには、一般的には大きなアンテナを必要とします。そこで、移動運用でアンテナを設置してHF帯を楽しむ方法が考えられます。電離層の性質を理解し、電波伝搬の状況に適した運用方法を工夫することで、交信の楽しみ方が広がります。

電離層の観測データは、独立行政法人 情報通信研究機構 電波伝搬障害研究プロジェクトにより公開されています。よく用いられるデータが「イオノグラム」です。ここでは電離層による電波伝搬の基礎知識と、イオノグラムの見方について解説します。

電離層とは何か

上空には電離層と呼ばれる層があり、主にHF帯の電波を反射・吸収します。電離層は高度によって分類され、下から順にD層、E層、F層があります。
・(D層はアマチュア無線の周波数帯との関連が少なく、イオノグラムで観測されないため説明は省略します。)
・E層は主に昼間に出現します。夜間や冬季の昼間は消滅します。高緯度では出現しにくくなります。
・F層は昼間は臨界周波数(後述)が高く、夜間は臨界周波数が低くなります。

電離層の生成には、太陽活動により地球に到達する紫外線、X線、宇宙線が関係します。太陽活動は約11年周期で変動し、太陽表面に現れる黒点の数に関係します。簡単に言えば、太陽黒点の数が増えると、電離層で電波が反射しやすくなります。最近では1989年と2000年に太陽黒点数の極大がありました。ところが2011年は太陽活動が低調で、少し遅れて活発化し、2014年初めも活発な状態が続いています。HF帯で遠距離通信を楽しむには絶好のチャンスです。

イオノグラムで見る電離層

イオノグラムとは、横軸に周波数、縦軸に高度、色分けにより電波の反射強度を表したグラフです。http://wdc.nict.go.jp/ISDJ/ で観測データが公開されています。

図1に、イオノグラムにE層とF層が映っている様子を示します。地上から真上(電離層に垂直)に電波を発射した場合に、反射して戻ってくる最高の周波数を臨界周波数といいます。これはイオノグラムに電離層が映っている右端の周波数に相当します。臨界周波数より高い周波数の電波は、電離層を通過します。

日本国内には4か所の観測点があります(稚内:北海道、国分寺:東京都、山川:鹿児島県、大宜味:沖縄県)。関西地方など近くに観測点が無い地域では、イオノグラムで観測されない伝搬に気づくこともあります。


図1 イオノグラムにE層とF層が観測された場合の例。ノイズによって現れる縦方向の線や、F層がいくつかに分かれる現象は省略した。

電離層による電波の反射

電離層に対して電波が斜めに入射した場合は、臨界周波数よりも高い周波数の電波も反射します。図2のように、電離層に対する入射角が大きいほど、高い周波数の電波が電離層で反射し、遠方に到達します。昼間、国内同士の交信には7MHz、海外との遠距離交信には14MHzなどが適しているのは、この性質によります。ただし、実際には地球は球形であるため、入射角の上限があります。F層はE層よりも高度が高く、遠距離通信に対してより大きな影響があります。


図2 電離層による電波の反射。電離層は均等に分布すると仮定。

スポラジックE層(Eスポ)

イオノグラムでE層の臨界周波数が7MHz以上になったら、すぐに18MHz帯以上の各周波数を受信してみましょう。5月中旬から7月上旬の昼間に、E層と同じ高度に臨界周波数が高い(7MHz以上)電離層が突然現れることがあり、スポラジックE層(Eスポ)と呼ばれています。

強力なEスポでは50MHz帯が広い範囲に入感し、さらには144MHz帯まで影響することもあります。Eスポが発生すると、普段では静かなこれらの周波数帯が一転して賑やかになり、その楽しみを知ってしまうと、毎年Eスポとの遭遇を待ち構えることになります。Eスポが多く出現する時期のHFや50MHzの移動運用では、常にEスポ発生のチェックをすると、楽しみが増えます。

E層とF層の違い

14~28MHz帯のどこかの周波数で強力な入感があった、例えば、18MHz帯で1000km離れたA地点と十分な信号強度で交信できたと仮定します。この伝搬がE層とF層のどちらの反射によるか、電波の受信だけで見分けることは困難です。イオノグラムを利用してE層(またはEs層)、F層のどちらで電波が反射しているかを知れば、より高い周波数での伝搬の可能性を推測できます。

E層(またはEs層)の臨界周波数が十分に高ければ(7~8MHz)、21~28MHzでもA地点と交信できる可能性があります。E層は地域差および時間的変化が大きく、数分から数10分後に伝搬が変化して突然聞こえるかもしれません。その場合、注意深い受信と、手短かな交信が要求されます。

F層だけが見えている場合は、21MHz帯以上の周波数帯でA地点と交信できる可能性は低いでしょう。F層伝搬では、電離層反射の上限周波数を超えると急激に伝搬が弱くなります。ただし、より高い周波数では1000km以上の伝搬の可能性があること、イオノグラムで観測されない伝搬経路も存在することに注意しましょう。

E層が無い場合に、14~50MHz帯で300~400kmの距離が弱いながらも安定して入感することがあります。これは大気圏で電波が散乱されるスキャッターと呼ばれる現象で、電離層とは異なります。高利得のアンテナを散乱源に向けると交信の可能性が高くなります。筆者の経験では、スキャッターは好天時や大型低気圧通過後の、春・秋期の昼間に多く出現します。スキャッター以外にも、各種の異常伝搬が存在します。

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