2014年10月号
連載記事
移動運用のオペレーションテクニック
JO2ASQ 清水祐樹
第7回 アンテナの性能を最大限に引き出す調整方法
移動運用でアンテナを設置する場合、使用に適した状態であるかを確認し、調整することが重要です。適切な調整をすれば、アンテナの性能が最大限に引き出され、送信・受信の性能が向上します。
移動運用では、毎回異なる状況でアンテナを設置することが多いため、特にHF帯ではアンテナを設置するたびに、その状態を確認し、調整することが必須となります。今回は、アンテナの調整方法の基本テクニックを紹介します。
SWRとは何か
送信機(無線機)からフィーダ(同軸ケーブル等)を介してアンテナを接続する場合、フィーダとアンテナの特性インピーダンスが一致する場合(整合)、無線機からアンテナへ100%の電力が伝送されます。特性インピーダンスが一致しない場合(不整合)、送信機からアンテナに向かって伝送される電力のほか、アンテナから送信機に戻る電力が発生します。
整合、不整合の値はSWRと呼ばれる値で表され、完全な整合の場合はSWR=1、完全な不整合(アンテナから電波が放射されない)の場合はSWR=∞(無限大)となります。実際の使用では、SWRの値が低いほど望ましいといえます。
アンテナのSWRは、ある周波数で最小となり、その付近の周波数範囲での使用に適します(図1)。使用可能なSWRの値としては状況によって変わりますが、3以下を実用上の目安とする場合が多いようです。空中線電力が大きい場合は、SWRが高いとアンテナから送信機に戻る電力が大きくなるため、SWRを十分に下げる必要があります。
図1: 周波数とSWRの関係。SWRは、ある周波数で最小になり、その付近の周波数での使用に適する。
アンテナの調整に用いる測定器
送信機のアンテナの整合状態を測定する機器には、いくつかの種類があります。アマチュア無線で多く用いられるものが、「SWRメータ」と「アンテナアナライザ」です(図2)。それぞれの特徴を簡単に述べます。
SWRメータ
・無線機(送信機)とアンテナの間に接続して、送信時における無線機とアンテナの整合状態を計測する機器です。送信中のSWRが表示されます。
SWRメータを使用するには送信が必要であるため、アマチュア無線で送信することを許された周波数帯(アマチュアバンド)での測定しかできません。また、そのための免許も必要です。
・アンテナアナライザ
微弱な電波を使用して、広範囲でのSWRの測定を使用可能とした測定器です。アンテナアナライザを給電線に接続するだけで測定が可能です。送信機や免許は不要です。
なお、近くでアマチュア局が送信している場合や、放送局などの送信所がある場合には、外部からの電波により誤作動することがあります。
図2: SWRメータ(左)とアンテナアナライザ(右)の例
実際は、SWRメータが役立つ場合の多くは、「メーカー製のアンテナで、取扱説明書の通りに組み立てれば、SWR最小の周波数が予測できる場合」です。自作アンテナでは、共振周波数がアマチュアバンドから大きく外れていることがあり、その場合はSWRメータだけでSWRが最小となる周波数を探ることが困難です。
調整の基本的な手順
調整の基本として、SWRが最小となる周波数が、目的の周波数より高いか低いかを知ることが第一歩です。SWR最小の周波数が目的の周波数より高ければアンテナを長くする(またはコイルの巻き数を増やすなど)、SWR最小の周波数が目的の周波数より低ければアンテナを短くすることで、目的の周波数でSWRを下げることができます。
目的の周波数でのSWRを知るだけでは、アンテナを長くすべきか短くすべきかの指針を示すことはできません。複数の周波数でSWRを測定し、SWRが最小となる周波数がどこにあるかを知る必要があります。
ワイヤーアンテナの長さを短くする場合、切り詰めてしまうと再び延長することが難しくなります。そこで、折り返したり巻いたりするだけでも効果があります。ビニル線で製作したアンテナで、強い張力が掛からない場合であれば、途中を縛っても構いません(図3)。
なお、本項では詳細は省略しますが、目的の周波数でSWRが十分に下がらない場合、あるいは整合していないアンテナ(長さを任意に設定したワイヤーアンテナなど)を使用する場合には、アンテナチューナー(アンテナカップラー)と呼ばれる機器を無線機とアンテナの間に接続します。電気的な整合状態を作り出すことで、送信が可能になります。
図3: ビニル線で製作したアンテナを電気的に短くする方法。長くしたい場合は、結び目をほどく。
移動運用におけるアンテナ設置方法の特徴
移動運用で用いるアンテナで、固定局と大きく異なる点は、「アンテナの地面からの高さを考慮する必要がある」ことです。アンテナが地面に接近するほど、SWR最小となる周波数が低くなります。また、地面の状態によっても周波数特性が変化します。移動運用で、同じアンテナを同じように設置したのに、SWR最小となる周波数が違う場合があります。その場合、地面からの高さ(特に、逆V型ダイポールアンテナなどの両端の高さ)を変えることでも調整が可能です。
HF帯の移動運用でワイヤーアンテナを使用する場合、素材の伸びや緩み、あるいは雨や湿気の影響で周波数特性が変わります。一般に、SWR最小となる周波数は、次第に低い方に変動します。そこで、移動運用で長時間(一昼夜以上)ワイヤーアンテナを設置する場合は、SWR最小となる周波数を、使用する周波数の上限付近に調整すると有利です。
例えば、筆者が7MHz CWのダイポールアンテナでコンテストに参加する際には、SWR最小となる周波数を、上限である7.030MHz付近になるように設置します。途中で強い雨が降ったりしても、SWR最小となる周波数はせいぜい7.010MHz付近に変化する程度なので、コンテスト周波数全体でSWRが低い状態を保つことができます。