2014年8月号
連載記事
移動運用のオペレーションテクニック
JO2ASQ 清水祐樹
第5回 パイルアップをコントロールする方法
移動運用で、珍しいQTHやコールサインで運用していたり、電波伝搬のコンディションが良かったり、クラスタに載ったりすると、一時的に大きなパイルアップになる(一度に多くの局から呼ばれる)ことがあります。 また、離島など珍しい場所で移動運用する場合、パイルアップを効率的にさばいて1局でも多くQSOしたいと考えることがあります。 今回は、そのような場合にパイルアップをコントロールするため、役立つテクニックを紹介します。 この内容は主にCWの運用を想定しています。しかし、一部はSSBやRTTYにも適用できます。
パイルアップをコントロールするための、交信の実例
パイルアップで困ることは、大きく分けて「多くの信号(コールサイン)が重なってコピーできない」と「呼んでくる局のタイミングがバラバラで、 交信に必要以上の時間がかかる(スプリットを使う場合を除く)」の2点に集約されると思います。前者については、第3回「受信能力を高めるテクニック」 (http://fbnews.jp/201406/rensai/jo2asq_idouunyou_ot_03_01.html)で説明しました。ここでは後者について説明します。
パイルアップの中から1局をピックアップして交信すると、交信終了に近づいたところで先を急いで呼んでくる局がいます。 誰か1局が送信すると他の局も呼び始め、各自がそれぞれのタイミングで送信するために交信のタイミングが制御できなくなります。その対策として、次の方法があります。
・交信のスタイルを一定にして、自局の送信、相手局の送信のタイミングを明らかにする。
・交信終了後に間を空けずに、最初の1局が送信する隙を作らない。
CWの交信における具体例を挙げます。自局のCQに対して、JA1QRZ局が応答して交信したとします。
CQ CQ CQ DE JO2ASQ/7 JO2ASQ/7■JCC 0316 K
………………(パイルアップ)
JA1QRZ GM 5NN BK
UR 5NN TU
QSL TU■DE JO2ASQ/7 K
………………(パイルアップ、以下繰り返し)
ここで、私が工夫している点は、次の通りです。
・送信の終了時に K またはBKを入れて、自局の送信終了を明示する。
・挨拶(GM/GA/GE)、QSLなどの文字を送出して、相手局への応答であることを明らかにする。
・独特のリズム感を持たせて、自局の信号であることを明らかにする。私はコールサインのA S Qの文字間を通常より広くしています。
・可能な限りフルブレークインを用いて、自局の送信中に他の局が呼んでこないかを確認する。
文例中の記号■は、文字間を空けないという意味です。ここで間を空けてしまうと、受信態勢になったと思った局が一斉に呼んできます。 いったんパイルアップが始まると、スプリットを使わない限りこちらの送信が混信で消されるため、パイルアップのコントロールが難しくなります。不要な間を空けないことが、パイルアップのコントロールの基本です。
大パイルになってコントロールが利かなくなったら
パイルアップが大きくなってコントロールが利かなくなった場合、次のような方法が有効です。
1) 送信出力を下げる
パイルアップの発生を未然に防ぐには、この方法は最も効果があります。ただし、パイルアップが始まった後では、逆効果になることもあります。
2) 混雑している周波数、時間を避ける
例えば7MHz CWであれば、7.010MHz付近は移動局が多く、聞いている局が多いため、珍局が出てくるとパイルアップになりやすくなります。
そこで、この付近を避けてパイルアップを避けることが考えられます。また、ローバンドであれば、運用局が少ない深夜や早朝を狙うのも一つの手です。
3) 1QSOごとにID送出の徹底
QSOが終わったら、必ず自局のコールサイン(ID)を送出することを徹底します。一見、コールサインを送出する時間がロスするようにも思えますが、実際はQSOの時間短縮に絶大な効果があります。
2014年5月4日の夕方、Eスポが長時間オープンし、筆者は北海道で移動運用を行っている途中でした。その際、1QSOごとにID送出を徹底した結果、CWで1時間当たり最大147QSOすることが出来ました。
近距離スキップしているバンドにおける、独特なパイルアップのコントロール
A局とB局が同時に自局を呼んできて、A局に応答して交信した場合、B局はA局と自局の信号を聞いて、交信の終了を待って再びコールすることが基本です。
ところが、電波伝搬の状況によってはA局―自局、B局―自局は聞こえるけれど、A局―B局の間ではお互いの信号は聞こえない場合があります。 ハイバンドのEスポ出現時で近距離の伝搬がスキップしている(不感地帯にある)場合にしばしば見られます。この場合、A局とB局が同時に自局を呼んできて混乱する可能性があります。
そこで、まずA局の交信であることを明示して交信を終わらせ、すぐにB局との交信に移るようにします。 具体的には、応答の際にA局のコールサインを前置します(先に示した文中の「QSL」をA局のコールサインにする)。 A局との交信中にB局が呼んできたとしても、A局にはそれは聞こえません。B局の信号への応答を保留してA局との交信を素早く終わらせることで、時間のロスを防げます。
この方法が適用できるかは、イオノグラムを見るなどして伝搬状況を調べておき、相手局のエリアがある程度分かっている場合に、経験的に判断します。
図1 近距離がスキップしている場合のパイルアップの概念。A局―自局、B局―自局は聞こえるけれど、A局―B局の間では聞こえていない。