2014年8月号

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防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第6回 米国のアマチュア無線における「非常通信」 (3)

ここからは、米国の現状を読者の皆様と確かめていきましょう。

日本ではアマチュア無線について電波法で諸々の定めがあるのと同様に、米国ではFCC(連邦通信委員会)が定める法のPart97という部分にアマチュア業務についての記載があります。

通則
Subpart A
97.1 原則と目的部分
「自主的な非営利的通信業務、特に非常通信を提供することに関して公共に対するアマチュア業務についての認識との有用性の向上。」と訳せる内容があります。

97.3 定義
(2)に「アマチュア業務は、アマチュア業務、アマチュア衛星業務、アマチュア非常通信業務を言う」(筆者訳)とあり、定義部分で「アマチュア非常通信業務」というものが明示されています。
また(38)に“RACES”=“Radio Amateur Civil Emergency Service”というものがあり、「国家的、地方的、地域的非常事態発生時にその事態の防御のためにアマチュア局を用いて行う通信業務」と訳せます。

運用原則
Subpart B
97.101 一般基準部分で(c)として、訓練や試験時を除き非常通信の優先を定め、
97.111 許可される送信部分で、(a)双方向通信について「非常通信の際にはFCCに許可された(アマチュア業務以外の)業務の局とのメッセージの交換の為の送信」と訳せる内容があります。また、(b)単行通信(一方的に送る通信)として(4)非常通信、を定めています。

97.113 禁止される送信
(a) 非アマチュア局の送信
(3) 以下のもの除く、雇用主に代わり通信するため金銭的目的で免許人や運用者による通信
(i) 防災訓練に限り参加することができるが、政府主催でないものは週1時間に制限され、また訓練参加は年2回、72時間を超えない。
とあります。

これを読み直せば
非アマチュア局の送信である、雇用主に代わり通信するため金銭的目的で免許人や運用者による通信
であっても防災訓練に参加するものであれば政府主催でないものでは週1時間、また年2回72時間を超えない範囲で送信可能となる、と読むことが出来ます。

97.115 第三者通信
相手局が国内の局や、外国政府により第三者通信を行うことが認められた局にかぎり、非常通信、災害救援通信のために行うことができる、とあります。

非常通信に関するSubpart Eでは
97.401 災害発生時の運用
アラスカ内および92.6km(50海里)にある局は非常通信のために5.1675MHz(指定周波数5.1689MHz)のSSBあるいは低減搬送波単側波帯モードで送信することが出来る。
この周波数はアラスカ民間固定周波数として免許されている局との「共用」で、送信出力は150WPEPを越えてはならない。またアラスカ内及び92.6Km(50海里)にある局は、非常通信システムの構築、運用、保守を確実にするために必要な試験や研修訓練のための通信を送信することができる。

97.407 アマチュア局非常通信業務(Radio Amateur Civil Emergency Service=RACES) として以下の内容が定められています。

(A) FCCから免許された、個人、社団、軍隊のレクレーション局でありその組織に登録されているものと民間防衛機関に認証されているものでない限り、RACESとして送信できない。
FCCから免許されたオペレーターライセンスを保有し、民間防衛組織に所属すると認定された者でない限り、RACESのコントロールオペレーターにはなれない。

(B) コントロールオペレーターに認められた周波数帯とセグメントと送信は、アマチュア業務と共用でRACESの送信局そして利用できます。
非常の場合は47USC606に改訂された1934年通信法第706条に基づく大統領の非常事態権限を求める必要があり、RACESに参画するアマチュア局はこの章の214条に許可される周波数セグメントで送信することができる。

(C) 民間防衛組織に登録されているアマチュア局は、アマチュア局が登録されている組織である信頼できる民間防衛組織の許可を受けた次の局とのみ通信することができる。
(1) 同じまたは別の民間防衛組織に登録されているアマチュア局。
(2) FCCによってその通信が認められるときに、この業務を認可された局。

(D) RACESのすべての通信は、実施されるエリアの民間防衛組織によって承認される必要があります。以下の民間防衛通信のみが送信できます。
(1) 地方、地域、または国全体の緊急事態の期間中、公共の安全、あるいは、国防や安全保障について切迫あるいは実際に危険にさらされることに関するメッセージ。
(2)直接、個人生活について差し迫った事態に対する安全、財産の迅速な保護、法と秩序の維持、人間の苦しみや難局の軽減、および武力攻撃や破壊行為の撲滅に関するメッセージ。
(3) 民間防衛組織や他の政府認可機関や救援機関の活動に不可欠な、一般市民への公開情報や指示の蓄積と普及に直接関する情報と
(4) 信頼できる民間防衛機関の運用による要求としてRACESの秩序と効率的な運用の維持を確保するために必要な練習と訓練のための通信。
非常通信訓練計画が適用される州、連邦、地方や地域の責任者の承認を得て実施されるその練習や訓練は、週あたり1時間の合計時間を超えてはならない。また年2回72時間を超えない範囲で行うことができる。

以上のように、FCCのルールを我々が見るに特徴的な部分としては

① アマチュア「非常通信業務」が認められていること。
② 非アマチュア局であっても訓練参加可能であること。
③ アラスカ州について特段の定めがあること。
④ ①のアマチュア非常通信業務を行うにあたって特定の組織登録があり、その上で運用についてのルールが設けられていること。

といえます。ただ、以上のような法整備はあるもののARRLのアマチュアハンドブック等の資料その他によれば、RACESの実運用は連邦緊急事態管理局(Federal Emergency Management Agency)および行政の危機管理当局により行われるもので、「防災」というより、州軍や在郷軍人会とならび「防衛」の視点が強いもののようです。

RACESと双璧、という表現ができる仕組みに“ARES”(Amateur Radio Emergency Service)というものがあります。このARESは無線局免許を受けたおよそ2万名のアマチュア無線家のボランティア(登録数では4万)をARRLが組織化し非常時の通信を担うものです。

特徴的な部分として

① EC(Emergency Coordinator)という役職を地理的範囲で設け、計画の立案やメンテナンス、関係機関との連携を担うようになっています。
② 各種訓練を実施すると共に、E-learningシステムを3レベル用意し、日頃から非常通信への理解、通信網やメッセージの取扱に関する知識の習得に務めています。

例えば導入コースといえる“Introduction to Emergency Communication”(EC-001)というコースでは非常通信に関する基礎的な知識とツールを提供する内容で、6section 29 lesson topicsから構成され45時間かけて学び、35問の修了試験を80点以上で合格、というものです。

E-learningというと独学?と考えてしまいますが、そこはVE(volunteer Examiner)制度を運用しているARRLですから、各地にFI(フィールドインストラクター)やFE(フィールドエグザミナー)を設けています。


(VEのIDカードの例)

また、現場で必要とされる各種用品も販売されており、ARESと書かれた反射ベストやキャップ、耐水ノートやペンまでもがARRLで用意されています。(以下のURLのサイトをご覧下さい)
http://www.arrl.org/shop/Emergency-Communications/?page=2
このような物を使っていれば、外部から「この人達、誰?」と不審に思われる最初のハードルをクリアできると思います。

このほかにSalvation Army(救世軍)ほか宗教団体による、非常通信「をも」運用できる組織(「をも」というのは、単に通信するのみならず、給水炊き出しはおろか、清掃、家屋の補修なども行う「救援組織」であるためです。単に通信が出来る、というだけの組織なら、ひっきりなしに四六時中必要な通信がある状況でなければ、傍観者(=現場では邪魔者)となってしまい災害対策本部や避難所から退去命令が出されるはめになりかねません)が各種構成され、訓練を重ねいつでも出動できるようなっているようです。

さらに、少し特異な存在ですがMARS(Military Auxiliary Radio System:軍用補助局)という組織があります。1925年創設以来、数々のシーンで活躍し、近年では2010年のハイチ大地震での救援活動が著名なようです。「軍」といいますが3つに大別され、陸軍/海軍・海兵隊/空軍となり、いずれもアマチュア局の免許を保有し、一部特例がありますが18歳以上で構成されるようです。

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