2014年8月号

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楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第15回 太陽光発電で無線をしよう! その1

世の中省エネブームですが、これに便乗して太陽光発電でアマチュア無線ができないかと考えてみました。 一番簡単な方法として、太陽光発電の売電装置を設置し、その電力の一部を使ってアマチュア無線をしても良いのですが、アマチュア的に手を出す場所がどこにもなく、 あまりに能がなさ過ぎるのでアマチュア無線らしい方法を考えてみます。

ただし、電気料金を節約する目的で太陽光発電を行うと、現在では多分プラスにはならないと思います。少なくとも建設や設置のための費用まで計算すると経済的に合わないので、あくまで趣味として始めて下さい。

まずアマチュア無線局の50W移動局を太陽光発電で運用できることをベースに、その後色々応用できるものを考えてみます。

1.1 消費電力の概算

今回は移動する無線局として免許された50W出力の送受信機と、その他の付属装置も働かせることとします。

・送信時
消費電力は13.8V x 15A = 207W
インターネットでアイコムのカタログから消費電力を調べてみると、最大消費電流はIC-7000(100W機)が22A、IC-7600(100W機)が23A、IC-2820D(50W機)が13A程度なので、 IC-7000M(50W機)を15Aで計算し約200Wとしてみます。


IC-7000M (移動局用50W出力)

・受信時
消費電力は13.8V x 2.0A = 27.6W
同様にカタログで受信時の消費電流みると、IC-7600が3.2A、IC-2820Dが1.8A、IC-7000が1.6Aですので、2Aで計算して約28Wとしてみます。

・その他
アンテナチューナーAH-4の消費電流は1Aなので13.8W
照明は100WクラスのLED電球で13W程度、サブ照明としては60WクラスのLED電球で7W程度


AH-4 アンテナチューナー

最大電力を消費する、夜間における送信時(かつアンテナチューナー稼動時)で、200W + 28W + 13W + 7W = 248W程度となり、Max. 250Wでアマチュア無線の運用ができることになります。

普通の交信中は、送信と受信が時間的に概ね1:1になります。また一日の稼働率を1/3とすると、
・送信は、(24時間 x 1/3 x 1/2)= 4時間 x 200W = 800Wh
・受信は、4時間 x 28W = 112Wh
・アンテナチューナーは、4時間 x 14W = 56Wh
・照明は12時間として、12 x 20W = 24Wh
上記電力の合計は992Wh となるので、1日の必要電力は1kWhとします。

これらは最低の計算で、後で余裕がでてくれば色々な機器を増やしていきましょう。

1.2 太陽電池の概算

無線機器の多くが13.8Vで動作しますので、使用するバッテリーを12V系のものを使用すると太陽電池の電圧は20V~24Vのものが適当と思います。 15V程度の太陽電池があれば後のコントロールが楽ですが残念ながら見つかりません。仮に太陽電池の電圧が20Vとすると、1kWh / 20V = 50Ahとなり、太陽電池が10時間動作すれば平均5A必要であることが分ります。

天気の良い日を基準に考え、方向を固定して取り付けた太陽電池は、データを取ると発電量は予想に反して正弦波ではなく、 ほぼ三角波に近くなりますのでピーク値の1/2がその日の発電量の平均値になります。従って平均5A必要な場合、10Aピークの太陽電池パネルが必要となります。

太陽光発電というと一般的には売電のことを意味し、商用電源と切り離した独立系を自分で直接利用する人はほとんどいません。 そのため、太陽電池とパワーコンディショナーを含む売電装置を取り扱う会社や工事業者は多くありますが、実は大型の太陽電池パネルだけを手に入れることが結構難しいのです。 私は数年前愛知県の会社から通販で買うことができましたので、今回はそのパネルを使用しました。ここに紹介したパネル以外でも色々な太陽電池を手に入れることができると思いますので、 その規格に合わせて再計算してみてください。

下記が今回の記事に使用した太陽電池パネルです。ただし、現在はこれと同じ太陽電池の入手は困難かもしれません。


シャープ製太陽電池ND-153AUの仕様

最大出力電流は7.5A位取れますのでピーク値として10A必要なら、2枚あれば良いことになります。 しかし毎日良い天気ばかりではないので3日間雨が続いても運用できることを望むのなら、5枚程度必要になります。また、バッテリーを充電しながら使うとその分をプラスしなければなりません。

1.3 バッテリーの選択

日照の変化による太陽電池の出力の変動や、また夜も運用することを考えると、どうしてもバッテリーが必要になります。 電力として1日1kWhが必要とすると、バッテリー容量は、1kWh / 12V = 83Ahとなり、大型車クラスのバッテリーが必要になってしまいます。 ただし太陽電池が発電していればその間は太陽電池から電力が供給されバッテリーからの電力は不要です。この時は太陽電池から無線機に電力を供給しながらバッテリーも充電することになります。

鉛バッテリー以外で、例えばリチウム系のバッテリー等は適正な充放電を管理しないと、最新の飛行機問題でも分かるように大変危険です。 素人は使用を避けた方が無難と思います。現在はこのような用途にも使えるリチウム系のバッテリーの開発が進められているようなので、近い内に素人でも安全に使えるものができるのではないかと思います。

3日間雨でも晴れの日同様に運用しようとすると3倍のバッテリーが必要になりますが、これはバッテリーが大き過ぎて現実的ではありません。 大型のバッテリーが必要なら工場のフォークリフト等に使われているEB160という160Ahのものが良いかも知れません。それより容量が小さくてもよければ、大型車用のバッテリーの方が割安です。

MSEタイプのバッテリーは防災システムや無停電装置等の業務用で、容量も200Ah~3,000Ahのように種類も多く、基本的には2Vのものを組み合わせて使うようになっています。 制御弁式でバッテリー液の管理もいりませんが価格は比較的高価です。最初はバッテリーが一生ものと勘違いしますが、 実はどのバッテリーを使っても毎日使うのであれば意外に寿命は短くて、2~3年程度で買い換えが必要です。

私はこれが嫌で寿命の長い大容量コンデンサーでどうにかならないかと真剣に考えたことがありました。2,200Fとビックリする程の容量のものもありますが、 放電電流が1Aでは端子間電圧が1V下がるのに2,200秒(約37分)となり、3V下がるまで我慢してもその3倍の2時間弱しかもちません。送信時の電流が22Aでは、 たったの100秒で1V低下してしまいます。このリチウムイオンコンデンサーのメーカーでは、15.2V~8.8Vで550Fのブロック型のものがあるようですが、 どちらにしてもコンデンサーでの長時間使用は無理なようであきらめました。


リチウムイオンコンデンサーの例

1.4 全体の構成

太陽光発電で運用する無線機の電源回りの構成は次図のようになります。太陽電池パネルの出力は、バッテリーの充電とその他12V系で動作する機器のための定電圧電源に供給されます。 太陽電池パネルの電圧は20V以上あるのでこれを13.8Vの定電圧にします。

12V-13.8V昇圧電源は、無線機の出力段がFETの時、電圧が13.8Vより下がると送信出力は下がり、12Vでは50W出力の無線機でも10数Wまで下がることがあるので、 定格の13.8Vまで上げるものです。太陽電池が発電していないときには、普通の鉛バッテリーの電圧は12V以下まで下がることがあります。

AC電源は、雨続きで太陽電池の発電が不十分な時等に商用電源から供給するものですが、普通の無線機用電源で良いと思います。

次回からこの構成の各部の設計と解説をしていきたいと思います。

■ MSEタイプバッテリー (古河電池(株)カタログより)

■ サイクルサービス用 バッテリー (古河電池(株)カタログより)

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