2014年8月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第6回 米国のアマチュア無線における「非常通信」 (3)

各種の仕組み、組織以外にも特徴的な部分があり、テクニカルな部分では、"Winlink 2000"や"ALE"というものがあります。"Winlink 2000"は"WL2K"とも表記し、インターネットを利用し、メッセージサーバーを複数異なる地域に設置し、各種プロトコルを用いてノードを設定し、eメールによるメッセージのやりとりをしよう、というシステムです。

"ALE"は"Automatic Link Establishment"と呼ばれ、元々は軍用システムであるMIL-STD188-141-Bを踏まえたFED-STD-1045Aに準拠し一種のMFSKで運用されるものです。また、もっぱらHF LAND MOBILEという、北海道で見かける大平原を何百倍にしたようなそれこそ広大な土地での連絡手段として用いられるため通信は電離層反射を利用して行われ、相手局とはどの周波数帯を使用するのが最良であるか自動的に無線機相互が確認する機能を持っています。アマチュア一般に広く普及しているシステムではなく、防衛防災意識を持つ一定層で支持されるもの、のようです。機器そのものにかなりの機能を持たせた機器もありますが、無線機器にPCを接続し、"PCALE"、"MULTIPSK"などのアプリケーションソフトでもろもろ処理することが多いようです。機器メーカーではALEの機能に特化した無線通信機を販売しており、例えば解説書にはしばしばアイコムIC-F7000が紹介され、現在はIC-F8101という輸出専用モデルなど単体で運用可能なものがあります。またJVCケンウッドではオプション(KPE-2)が必須ですがTK-90というモデルで対応可能なようです。
(http://www.kenwood.com/india/com/lmr/tk-90/)


(アイコム株式会社 IC-F8101カタログより抜粋)
注意1:“Actual Size”とありますがPDFのサイズを等倍で使用していないため、実物大ではありません。
注意2:この製品は海外専用機です。

また、“SKYWARN”というもっぱら天災に対する防災・減災目的の組織があります。
そのホームページは次のURLで見ることが出来ます。
http://skywarn.org/

これは米国海洋大気庁(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)の下部組織である米国気象局(NWS:National Weather Service)を核に設立され、市民からの情報提供の仕組み(スポッター制度)を持ち、寄せられた情報を観測情報に含め有効活用し広く一般に急を要する気象情報を伝達し、命と財産を守るためのものです。

その仕組みの中で、アマチュア無線は通信連絡媒体の一つという位置付けである(そうでしかない?)がためか、意外にも米国のアマチュア無線家ならみんな熟知している、というものではなく、ARRLのハンドブックでもわずか数行しか触れていません。情報提供者となるには自身の安全確保と信頼度の高い報告ができるよう、研修受講が求められています。

SKYWARNの仕組み等で得られた気象情報は、NWSによる警報等の発表、自治体が設置するサイレンによる周知や、NOAA(米国海洋大気庁、日本の気象庁に相当)が運営するWeather channel(気象ラジオ:162.4~162.55MHzの周波数で25KHzステップの7チャンネルで運営され、そのなかでWeather Alertも運用され、アマチュアバンド144MHz帯の運用できる大方の無線通信機には(また海洋通信で用いられる156.8MHzを中心とする国際VHFトランシーバーにも)その機能が含まれています)による放送、報道機関や民間気象業者を通じた情報の提供に利用されています。

(“SKYWARN”については、「米国のスポッター制度について」と題して、気象庁観測課観測システム運用室(現東京管区気象台気象防災部長)鈴木 修氏が平成25年10月10日に開催された内閣府主催「突風等対策局長級会議」の第二回会議の資料3としてまとめられているものを参考にさせていただきました。この資料は次のURLで参照できます。
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/tatsumakikyokucho/pdf/h25-2/s3.pdf

ここまで米国の状況について読者の皆様と一緒に見てきました。「アマチュア無線」そのものは世界共通のものですが、それをどのように使うか、社会に役立てるか(社会貢献するか)という部分に於いては、それぞれ国の国民性も大いに影響するもの、と考えます。まずもって法律が異なる、という事は今回皆様にご覧いただいたとおりです。

米国は建国過程そのものが日本と大きく異なることもあり、アングロサクソン系を中心とする国民の「国家」(郷土)という考え方、また「国防」や(災害等も含めた)地域防衛についての意識は、我々日本人と比較すると相当に高いもの、と考えられます。また、社会の仕組みそのものも日本と異なり、50歳で仕事から退き余暇を気ままに過ごす(現在の社会環境では米国民の全てがそうだとはとてもいえない状況ですが、「平均的家庭」では以前からのそのようなスタイルが維持されているようです)、その余暇の時間に自分の得意な部分をもって社会貢献する、というスタイルがあるのでしょう。

また「これはみんなのために俺がやったんだ!」と、成果を人々にアピールするのは、狩猟民族が古来獲物を仕留めた者が「これは俺が獲ったんだ!」と宣言することからすればなんら特異なものでなく、積極的に物事の前面に出て行動する部分を多くの国民が有するところは、農耕民族である我々日本人からすれば少々「違うな」と感じる部分だと思います。

そのような状況、背景があるなかでの米国の「アマチュア無線」、「アマチュア無線家」がまず日本のそれと異なり「非常通信」が最初から法制度上可能となっている事、加えてその“位置付け”、“社会評価”を得ていることを理解しておく必要があると思います。さらに、ARESもSKYWARNも研修受講が求められています。これより、米国でこんな仕組みがあるならそのまま日本でどうか、というのは安直な考えと言わざるを得ません。

米国は国土も広大で人口も多く、様々な仕組みが幾重にもあります。我々日本人の視点でこれは良い、流用・利用したい、と思う部分も少なくありません。しかし、それらの背景部分を理解せず表面的な利点のみに視点を奪われてしまっては、日本へそっくりそのまま「輸入」しても上手くいかない事態が予想されます。私達日本人は到来する外来文化も鵜呑みせずしっかり消化して自分の物にできる器用さをもつ国民であったはずです。「防災とアマチュア無線」についても同様の事が言えるのではないか、と思います。

次回は欧州のアマチュア無線における「非常通信」についてまとめる予定です。引き続きのご愛読をお願い致します。

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