2014年10月号

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テクニカルコーナー

ID-51 50周年記念モデル用Bluetoothドングルの製作

JO3WSX 太田 太

ID-51 50周年記念モデルと新しいデータ通信ケーブルを入手し、RS-MS1Aがいよいよハンディ機でも活用できる時代が来た!と喜んでいたのですが、使い込めば込むほど気になることが出てきました。スマホにデータ通信ケーブルを接続してRS-MS1Aを使うと、スマホの電池消耗が結構気になります。またスマホで写真を撮る時はデータ通信ケーブルがジャマになり、気に入ったアングルで撮影しにくいことにも気になります。そうなると思い出すのが、昨年のハムフェアのアイコムブースで、RS-MS1Aのコンセプトモデルと一緒に展示されていたBluetoothドングルの存在です。あれを自作できないだろうか?と思い、チャレンジしてみることにしました。

接続と制御のしくみを検証

ケーブルの代わりにBluetoothでワイヤレス接続ができたとしても、リグの制御ができなければ、せっかくID-51 50周年記念モデル(以下ID-51Plus)を買い増しした意味が薄れてしまいます。ワイヤレス接続を実現させるだけではなく、ID-5100と同様ID-51Plusの制御もしたいので、接続と制御のしくみを検証しました。

ID-5100とID-51Plusは他のD-STAR機とは異なり、RS-MS1Aで画像伝送やテキスト伝送のデータ通信の他に、リグが制御できる仕様になっています。


ハムフェア2014で配布された資料(抜粋)

では同じケーブル接続するID-51Plusと他のD-STAR機との差はなにか?これがわかれば、リグの制御が可能になるはずです。


ID-31とAndroid端末を接続する方法


ID-51PlusとAndroid端末を接続する方法

ID-31もID-51Plusも、Android端末への接続方法は全く変わりがありません。次に設定を比較してみると、ID-31などの既存D-STAR機とID-51Plusで異なる項目があります。
CI-V(DATA端子)→ON(エコーバックOFF)
CI-Vトランシーブ→ON

つまりID-51Plusの制御はDATA端子で『CI-Vコマンド』をやり取りすることで実現していると思われます。一方、Bluetoothで接続するID-5100でRS-MS1Aを使う場合も『CI-Vトランシーブ→ON』にしますので、こちらも『CI-Vコマンド』でコントロールしているらしいことがわかりました。
CI-Vコマンドは、アイコム製HF機や受信機などに搭載されているシリアル通信のコントロールコマンドです。単なるシリアル通信によるコントロールなら、自分でも無線化は簡単にできそうな勇気が出てきました。

必要な部材を調達する

さっそく昨年のハムフェアのブースで撮影したBluetoothモジュールの写真を拡大してインターネットで調べてみましたが、値段が16,500円もすることがわかりました。技術基準適合証明(技適)取得済みでコンパクトなのでメーカーで使うには適したモジュールなのでしょうけど、自費で自作に使うにはちょっと手が出ない値段です。

もう少し手軽に使える物がないかと調べてみると、ロボット用として5,000円程度で入手できる製品を発見しました。5,000円でもまだ高いのですが、技適取得済みでロボット用としての製作記事も豊富に用意されており、コマンドで各種設定も記憶できそうなので、Amazonで注文することにしました。


取り寄せたBluetooth-UART変換モジュール:RBT-001。
29×29(mm)の基板内にアンテナやBluetooth通信に必要な機能を搭載している。

Bluetooth-UART変換モジュールの『UART』とは非同期式シリアル通信のことで、PCによる設定やID-51Plusへの接続にはRS-232Cレベルへのコンバートが必要になります。またRBT-001には電源回路が内蔵されていないため、共通電源とするためには3V系で動かせる物が必要です。


Bluetooth-UART変換モジュール:RBT-001の接続

3V駆動のRS-232CトランシーバーICとして今回は手持ちのMAX3221を使うことにしました。電源レギュレータはRBT-001とMAX3221へ供給するには200mA程度で十分なので、手持ちの3V出力の3端子レギュレータを利用することにしました。またせっかくのハンディ機を外部電源に接続して使いたくないので、持ち運べる電源としてスマホ用などで出回っている小型の充電式Li-ion電池を使うことにします。そうなると電源コネクタにmicroUSBコネクタが欲しいところですが、すぐに入手できないため、ジャンクのBluetoothヘッドセットをバラして調達することにしました。

後は無線機への接続用にφ2.5のステレオケーブルが必要になりますが、ID-880用に使っていたデータ通信ケーブルを使おう・・・と思ったのですが、無線機のコネクタに入らない。よく見るとID-51Plusのコネクタがスリムタイプのため物理的に入らないことが判明。これはデータ通信ケーブルのコネクタのボディをガリガリ削って加工することで解決できました。

組み立てる

AmazonからBluetooth-UART変換モジュール:RBT-001が届いたので組み立てに移りますが、PCに繋げて設定するために、配線問題が立ちはだかりました。なにしろ手持ちのMAX3221はチップ部品なので配線が難しいです。次にRBT-001に接続・・・となるのですが、モジュール上にコネクタはありますが、対応するコネクタを持っていないので、コネクタ裏のリード部に直接配線することにしました。

RBT-001を設定するにはPCからコマンドを送る必要があるのでUSBを採用する方が便利なのですが、今回は無線機への接続がシリアルタイプのデータ通信ケーブル(OPC-1529)を流用するので、D-SUBのRS-232Cタイプのコネクタを接続。配線を繋ぎ電源を投入すると、RBT-001のLEDが点灯。ここまでは順調でした。


RBT-001のLEDが点灯した!

しかし、いざPCに接続しようとすると、ドングルのコネクタもPCからのコネクタも共にオス。そう今更ながらクロスケーブルがないと繋がらないことに気づきました。クロスケーブルなんて持っていたかと探してみるとインターリンクと書かれたケーブルが。これで準備は完了。

ドングルの初期設定

RBT-001の設定にはシリアルコマンドを送る必要がありますが、ターミナルソフトでコマンド送信するのは結構面倒です。販売店のホームページにある取説を見ると専用設定ツールが用意されており基本的な設定だけなら、このツールのみで可能とのことで、設定ツールを利用することにしました。

ツールを立ち上げると、今度はエラー表示が出ます。確認するとこのソフト、起動時にCOM1ポートをいきなり接続する仕様らしい。自分のPC環境ではCOM4であったことから、設定を変更して再起動。特にエラーは出ません。作ったBluetoothドングルの電源をONにしたところ、コマンドが表示されました。取説に従いツールからコマンド発行を行い、設定済みのPINコード読み取りコマンドをsendにすると、ちゃんと返信が返ってくるので、通信に問題はないようです。

次に無線機との接続ボーレートを設定します。ID-51Plusの初期値は9600bpsですが、少しでも高速処理にしたいので、ID-51Plusの最高速である19200bpsに設定。一旦電源を切り再起動。あれ?起動コマンドが表示されない? 無線機のボーレートを変更したので、設定ツールでもボーレート設定を切り替えなければならないことを忘れていました。再度設定を切り替え再度電源ON。起動コマンドが表示されました。問題ないようです。


パソコン用のRBT-001設定ツール:SimpleBlue Commander

機器名称を変更してみます。デフォルトではEasyBTとなっていますが、ペアリング時に識別しやすいようにBTID51PLUSと変更してみました。最後に動作モードの変更をします。今回は単純に有線ケーブルを無線化したいだけなのですが、現状の設定ではコマンドモードで動作しており、RBT-001の制御コマンドに対する返答もUARTラインに出てきてしまいます。このままではID-51Plusの制御ができないので、RBT-001の設定をFull cable replacement設定にします。これでBluetoothドングルが仕上がったはずです。

自作Bluetoothドングルの電源を切ってインターリンクケーブルを外し、代わりにOPC-1529(改)を取り付け、ID-51Plusに差し込んで、ID-51Plusとドングルの電源をON。スマホのBluetooth設定でスキャンをしてみると・・・BTID51PLUSを認識しています! BTID51PLUSを選択してペアリングを開始。PINコードがデフォルトのままなので『0000』を入力して、無事にスマホとBluetoothドングルのペアリングが完了しました。


スマホと自作Bluetoothドングルがペアリングされた様子

次にAndroid端末のRS-MS1Aを起動します。
Bluetoothで接続させるため『ID-5100』を選択し、『ペアリング済みデバイス』選択画面でBTID51PLUSを選択したところ、「情報取得に失敗しました」のエラーが出ます。


CI-Vアドレスが異なる時のエラー画面

「CI-Vアドレス等を確認」とありますが、RS-MS1Aの設定がID-5100用のアドレスのままになっていることに気づきました。ID-5100のCI-Vアドレスは8Cですが、ID-51Plusを確認するとCI-Vアドレスが86になっていました。無線機のアドレスを設定し直し、再接続すると「対象機種以外の無線機に接続されました」と表示はされましたが、無線機の設定を読み込んでいます。接続成功です!


RS-MS1AがID-51Plusに接続された様子

取り敢えずID-51Plusのアンテナを外してダミーロードに繋いで実験開始です。


自作BluetoothドングルとID-51Plusを接続した様子

RS-MS1AのDRを使ってみると、ちゃんと周波数変更できました。画像伝送も問題ありません。ファーストモード設定を・・・あれ、RS-MS1Aにファーストデータの切り替えスイッチがありません。これはID-5100が現時点でファーストモード未対応のためRS-MS1AのID-5100メニューも非対応なのだろうと考え、無線機側で手動切り替えをしたところ、ファーストの速度で画像送出ができているようです。ただ、バックグラウンドでスマホのアプリ更新がかかると、Bluetoothの転送速度が遅くなるのか、送信データ枯渇して無線機の送信が途切れることがあるようです。ファースト切り替えや、送信出力設定段数が合わないなどちょっとした課題もありますが、RS-MS1AのID-5100のメニューで自作Bluetoothドングルを接続したID-51Plusの制御が実現できました。これでスマホがケーブルとの呪縛から解放されます。なお無線機をBluetoothなどワイヤレスで送受信制御を行う場合は、遠隔操作として別途、局免の変更申請が必要になります。

使用したパーツと入手先

・RBT-001:Bluetooth-UART変換ボード(RoboTech Srl社製) Amazonで入手
・MAX3221:RS-232Cトランシーバー(TI社、Maxim社製等) ジャンク品より流用
(AmazonなどでD-SUBコネクタ付きMAX3232(3Vで利用可能)が150円で売っていました)
・3V出力 3端子レギュレータ
・D-SUB 9pinコネクタ(オス)
・Micro USBコネクタ(ジャンク品より流用)電源供給用コネクタとして使用
・コンデンサ各種
・OPC-1529:DATA端子用シリアルケーブル(ID-51Plus用にはφ2.5側の加工が必要)
・スマホ用充電式Li-ion電池:Bluetoothドングル用電源として使用

回路図


参考:データ通信ケーブルの結線図。

最後に

最近のメーカー製無線機は小型化が進み、基板も多層化が進んだため改造しにくくなりましたが、回路図を書いてさらに無線機も制御できる、といった点では、今回はとても楽しい実験ができました。今後はこのBluetoothドングルと電池をID-51Plusと一緒に持ち運びやすいようなケースも作ってみたいと思っています。

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