2014年10月号

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連載記事

防災とアマチュア無線

防災士 中澤哲也

第7回 欧州のアマチュア無線における「非常通信」(1)

欧州と単純にひとくくりにはできません。ここからは、英国の状況について皆様と確かめていきましょう。

「英国」、あるいは「イギリス」と普段我々は表現してしまいがちですが、古来からの単一国家ではないことは最近のスコットランド独立投票で皆様お気づきかと思います。外務省の表記は、英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)となっています。アマチュア無線の世界では、イングランド(G)、スコットランド(GM)、北アイルランド(GI)、ウェールズ(GW)とDXCC上、別エンティティとなっています。(アイルランド(EI)は英国に併合された後、独立しています)これらの地域構成について話しを始めるとヨーロッパ史の解説になってしまうので、ここでは省略いたします。アマチュア無線家の組織としてはRSGB(The Radio Society of Great Britain)があります。この組織にはアイルランドも含まれているのがわかりにくい部分でもあります。RSGBは100年を越える歴史がありますが、非常通信を取り扱うアマチュア無線家の組織としては、現在、RAYNET(The RA(Y)dio Amateurs’ Emergency NETwork)が構成されています。今回はこの“RAYNET”について進めてまいります。

前回まで記述した米国については、その広大な国土の地理的環境より、我々の視点では大きな自然災害がしばしば発生している感があります。今回の英国はその国土は日本の約2/3です。かつては七つの海にユニオンジャックを翻した海洋国家=「島国」ですが、意外に国土は平坦で最も高い山でも1500mもない地形であることも、近代に大きな自然災害に見舞われた記録が少ないことに影響しているかと考えられます。前述のように、世界各地に領土や植民地を有したその当時は、連絡手段としての無線通信に着目し、海外との連絡に活用されたであろうことは想像に難くない部分です。また、欧州大戦という視点での2度にわたる世界大戦、特に第二次世界大戦では”Battle of Britain”に代表される枢軸国の英国本土攻撃に対する防衛時に、日本でアマチュア無線家がその当時「国防通信隊」として国家に協力したのと同様の活動があったであろうことも、資料を紐解くまでもなく容易に想像できる部分と考えられます。

米国と比較すれば、地理的地形的背景、外敵からの脅威に備える軍事的国家非常事態に関する歴史的背景より、米国では戦前から非常時緊急時の無線通信に着目されていましたが、英国ではその動きは遙かに小さなものであったかと考えられます。

1953年2月の北海洪水(高潮)を契機にRAYNETが創設された、とありますが、同じ1953年にはセイロン独立があり、東西冷戦のまっただ中という状況では災害対応のみならず、休戦中の朝鮮戦争を横目でにらみつつ、国内のデモ、暴動に対する意味合いもあったのではないかと想像できます。

RAYNETの詳細はそのホームページ http://www.raynet-uk.net/ をご覧いただければ一目瞭然です。
その概要を見て参りましょう。

“introduction”にはRAYNETが関わった「災害」が5例記載されています。この5例中、自然災害は高潮1件のみであり、残りは航空機爆破事件、鉄道トンネル事故、不発弾処理住民避難、船舶からの原油流出事故という、所謂人工災害への対応です。やはり大規模自然災害が少ない、という言い方ができましょう。
また、そのホームページには周波数がリストされています。ベテランの方はお気づきになられたと思います。
特徴的な部分があります。

・HFでは14~28MHzはリストされていない。
・144MHz FMの音声通信に6波指定している。
・433MHzではFMの音声通信3波、音声レピータ2波、パケット通信1波を指定している。


© 2012 The Radio Amateurs' Emergency Network
http://www.raynet-uk.net/main/raynetfreqs.asp

以上より、大規模な自然災害の発生により被災地内での通信環境が破壊され、短波での遠隔地との通信確保という使用法よりも、人工災害により発生した被害等の対応を主眼に近距離通信に重みをもたせた。と見ることが出来ます。

このような状況は、我々日本のアマチュア無線家にとって、東名阪をはじめとする「大都市圏」“”での非常通信のあり方を考えさせるもの、と思います。
(周波数の数、という意味で、アマチュア無線では無く消防無線の話しになりますが、阪神淡路大震災で当日の神戸市内の大火災に対応すべく全国各地の消防が救援に駆けつけました。しかし、それぞれの地域常設消防に割り当てられた周波数は異なっており、相互に連絡をするために使おうとした全国共通波は輻輳状態となり円滑な通信ができなかった、という事態が思い出されます)

ロンドンの人口と人口密度は知りませんが、デュアルバンドのハンディトランシーバーでは2m(=144MHz)と433MHzで合計「9」波がFM音声通信に使うことができるわけです。これらに加え、おそらくロンドン在住のRAYNETメンバー間のいわゆるローカルの連絡周波数は、その地域毎に予め決められメンバーに周知されているでしょうから、「通信の円滑化」という視点では我々が見習うべき部分を示している、と思われます。

さて、このRAYNETの設立当時の状況をRSGB BULLETIN(以下、「ブリテン」と略します。)から追って見ましょう。ブリテン1953年11月号には小さく設立の事実を伝える20行ほどの内容が”National Emergency Amateur Radio Communications Service”のタイトルの下に記載されています。詳細は次号にて、とあるのでブリテン1953年12月号を見ると、ここには”Radio Amateur Emergency Network”のタイトルで1ページ半にわたり掲載されていました。ここには設立趣旨と仕組み、周波数(帯)、会則、”Emergency Communications Officers”なる28名のキーパーソンの義務とそのリストがあります。周波数は3.5、28、144Mc/s※で、具合的な周波数は示されていません。ここで興味を持ったのは28と144という周波数です。この二つの周波数を一本のアンテナでカバーしようとしたのか?と考えられます。28のλ/4は2.5mであり、144の5/8λ2段コーリニアは2.5mとなります。あるいは28のλ/2となれば電圧給電が可能となるので144の5/8λ4段コーリニアとの組み合わせかもしれません。“2段”、“4段”ということで、少し工作技術が必要となりますが、一本のアンテナ(英国では“ANTENNA”とはいわず“AERIAL”といいます)もとい、一本のエアリアルで運用することに一理ある、その利便性も見越してのこと、であったのかもしれません。
※現在はMHz

(以下、次号に続きます)

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