2014年6月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第13回 0-V-1

もう50年以上も昔、真空管がまだ貴重で高価な頃、アマチュア無線の自作受信機では部品の少ない0-V-1(ゼロ・ブイ・ワン)という方式のものがよく作られていました。次の回路図は1958年JARL発行のアマチュア無線ハンドブック初版本に掲載されているものです。

当時私も同様の受信機を何台も作ったものです。表記0-V-1の意味ですが、最初の0は高周波増幅段のことです。高周波増幅はありませんので、なしの0(ゼロ)となります。次のVは真空管(Valve?)の検波で、最後の1(ワン)は低周波増幅1段ということは理解していました。

今回これに関連した記事を書こうとして0-V-1は正確にはどのような意味か調べてみますと、明確に書かれたものがないことが分かってきました。その源はたぶんアメリカだろうとインターネットでも調べてみましたが全然ヒットしませんでした。やっとたどり着いたのはNoobowSystems Lab.のOriginal of “0-V-2” Nomenclatureという記事でした。どうも源はアメリカではないらしく、また正確に意味が規定されていないようで、私も含めて多くの人が気にせず使っていたのが不思議です。

この0-V-1の方式は、検波段に高周波の正帰還をかけて発振直前にするとゲインが上がり、またコイルの見かけのQが上がるため選択度もあがるすぐれものでした。検波段は検波(復調)もしますが高周波増幅の機能もありまりした。

この検波には、グリッド検波とプレート検波の方式があります。上の回路図は、グリッド検波を示しており、グリッドの電極が整流の働きをして変調波を検波します。この時マイナスの直流が得られるので、高い抵抗をグリッドに付けることによってバイアスとして働きます。バイアス用の抵抗は1.5MΩと高い値になっています。R3のVRでゲインを変えて正帰還を調整します。

次の図はプレート検波の例です。真空管のプレート電流が流れ始めるギリギリにバイアスをかけておき、入力された変調信号のプラス側半分で電流を増して検波します。この場合も高周波のゲインがあるため正帰還をかけて感度と選択度を上げています。VC2で正帰還を調整します。一般的にはグリッド検波の方がプレート検波より感度がいいとされていますが、どの方式も正帰還をかけていますので調整を間違えると発振してしまいます。発振するとアンテナから電波がでてしまい、近所のアマチュア局に迷惑をかけてしまうことになります。

1. トランジスターの0-V-1

真空管の0-V-1は少ない真空管で一応実用になる受信機が作れることが特徴でしたが、トランジスターでも同じような性能のものはできるでしょうか。また、昔の真空管は高価なため少ない真空管で構成することに意味がありましたが、現在のように安価なトランジスターを少数使って構成する受信機に意味があるのでしょうか。このような状況でも少ないトランジスターの数で受信機ができれば、ある意味ハイテクではないかと思い受信機を考えてみます。先に机上で検討してみて可能性があれば実験していきたいと思います。

トランジスターは、真空管と違ってグリッドがなくグリッドの機能もないので当然グリッド検波は不可能です。できるとするとプレート検波です。トランジスターのコレクターに電圧をかけて、ベースにバイアスを掛けなければそのままではコレクター電流は流れないことになります。

次の図は今まで何回か使ったトランジスター2SC1815の特性図です。3本の線の内、真ん中の線が常温の25℃の時のベース・エミッタ間電圧に対するベース電流の特性を表しています。ベース・エミッタ間電圧VBEの0.6Vのベース電流は3μA位になっています。2SC1815は小電流ではHFE(直流電流増幅率)が70~700の範囲に広がっていますが、増幅率の範囲でランク分けされています。ランクは、O(橙) = 70~140、Y(黄) = 120~240、GR(緑) = 200~400、BL(青) = 350~700となっています。手持ちのものはGRなので仮にHFE = 300とするとベース電流3μAに対するコレクタ電流は、3μA x 300 = 900μAになります。

コレクターの負荷抵抗に対する電圧降下を2.5Vとすると、その負荷抵抗は2.5V/900μA = 約2.77kΩとなるため、2.7kΩの負荷抵抗にしてみます。特性図でみるとIB-VBE特性がシャープなのでベースに入力する信号が小さくても検波されるのではないかと期待しています。

ベース電流は3μAと少ないのでベースバイアスは直列に10kΩを入れました。この抵抗による電圧降下は30μVと小さく、あまり影響はないと思います。もし信号入力によってベースで整流(検波)されるのであればマイナス電圧になって自動制御になるかも知れません。このような条件で回路図を考えてみたのが下の図です。

ベース電流とコレクター電流がぎりぎりの状態でのシミュレーションはやり難いと思います。また、この状態の入力インピーダンスはあまり高くはないと思われるので、適当にコイルのタップダウンをしてみます。後でカットアンドトライになると思います。全くシミュレーションなしのカットアンドトライは最近では珍しいことです。

そして正帰還をかけてゲインを上げ、発振の手前位に帰還量を調整すると0-V-1のような動作になるのではないかと思います。帰還量の調整はベースのバイアス電圧の調整で良いと思います。

同調回路は以前からスタアータイトのボビンに巻かれたコイルを持っていたので、それを使うことにしました。自作される場合は寸法図を参考にしてください。

同調回路のバリコンは以前使ったMax 270pFのポリバリコンを使うと上の回路のようになります。その曲線は次図のようになりますが、直線性があまりよくありません。この同調特性はEXCELで作ったものですが計算式を入れるだけでグラフが作れるので便利です。


※クリックで拡大します

ベースには少しタップダウンしてインピーダンスを下げて入力します。再生検波のための正帰還はコイルにタップを付けてエミッターに接続します。

一応形だけはできたのですが、本当に0-V-1と同様な動作をするか自信はありません。次回はこの動作結果を記載したいと思いますが、どうしてもうまく行かない時は途中で中止するかも知れません。その時はご了承ください。

■トランジスターの特性
トランジスターのパラメータのいくつか主要なものを説明します。

・hfe 直流電流増幅率
単純にはベース電流とコレクター電流の比です。ベース電流のhfe倍がコレクター電流になります。

・VBE ベース-エミッター間電圧
ベースからエミッターに電流を流すと順方向の電圧降下が生じます。常温ではダイオードと同じ0.6V位ですが、温度によって変化します。

・ft 利得帯域積
ベース入力周波数(動作周波数)を高くしていくとゲインは下がってきます。hFEが1となるときの周波数をfT:(利得帯域幅積)といいます。fTとは、その周波数で動作できる限界の値です。実際の使用として動作出来るのはfT値の1/5~1/10程度です。

・簡易計算法
エミッターに抵抗のついた回路では簡易計算法が役立ちます。トランジスターのhfeが非常に高いとするとベース電流は無視でき、抵抗の分圧だけでベース電圧を決めます。
ベース-エミッター間の電圧は常温として0.6Vとすると、ベース電圧-0.6Vでエミッター電圧が分かります。この電圧を抵抗で割るとエミッター電流がでます。
ベース電流を無視しているので、コレクター電流=エミッター電流とするとすべての電流が分かることになります。
この計算方法で実用的な回路はほぼ問題なく働きます。

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