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ラジオ放送100周年記念展開催される

2025年4月15日掲載

100年前の1925年3月22日、東京都芝浦にある仮放送所から「ジェー オー エー ケー、ジェー オー エー ケー、こちらは東京放送局であります」と送信されたのが日本で初めてのラジオ放送だ(のちに同年6月に東京都港区の愛宕山から本放送が開始)。今年はラジオ放送100周年を記念し全国各地で記念展などが企画されている。

ちょうど100年を迎える直前の2025年3月19日、国産第1号の鉱石ラジオを開発したシャープ株式会社により、奈良県天理市シャープ総合開発センター内にあるシャープミュージアムで「ラジオ放送100周年記念展」が開催された。


手前の建物がシャープミュージアム


シャープミュージアム見学者ホール


開催案内

記念展はシャープ社友会ラジオ愛好者同好会(代表世話人JO3QVT藤林氏)の協賛で行われた。同好会のプロジェクトとして放送開始100年の記念番組を古いラジオで聞いてみようと、メンバー有志によりシャープが開発した国産第1号鉱石ラジオ(1925年製)のレプリカの作成や、同じくシャープが開発したシャープダインSG5球受信機31型(1931年製)の整備が実施された。そしてアンテナ線であるビニール電線を敷設し、実際にAM中波ラジオ放送を聴取できるよう展示された。


国産第1号鉱石ラジオのレプリカ


シャープダイン31型


冒頭のあいさつで、シャープミュージアム管理・運営担当の内田氏より、記念展のプログラムの説明があった。

プログラム
1. あいさつ
2. ラジオ/テレビの歴史に関した切手について
3. ラジオの歴史とレプリカ作成について
4. 鉱石ラジオ/真空管ラジオの音を聞こう!
5. 歴代収蔵ラジオ、放送関係切手の展示
6. ミュージアム常設展示見学ツアー

記念講演

・「ラジオ/テレビの歴史に関した切手について」
「ラジオ/テレビの歴史に関した切手について」と題し、シャープ社友会 ラジオ愛好者同好会のJA3AER荒川氏による講演があった。

荒川氏は郵趣の趣味も持ち、これまで切手の発行の経緯や図案によりラジオやテレビの歴史について裏付けが取れることから、収集された切手をテーマごとに整理しているという。これらをもとにラジオ/テレビの歴史を物語る郵趣作品を、会場の後ろの壁面に展示していると紹介し、その作品の一部をスライドで示しながら説明した。


収集した切手などにより放送の歴史について語る荒川氏

まず西側諸国では一般的にイタリアのマルコーニ氏が無線通信の実験に成功したと知られているが、東側諸国ではロシアのポポフ氏が無線通信の実験に成功したという事で知られている。両方とも知っている人はなかなかおられないと思うが、これらは記念切手となっており、荒川氏が収集し整理したところ、わずかであるがポポフ氏が早く実験に成功していたのではという。


左: ポポフの記念切手  右: マルコーニの記念切手

ラジオ放送は、1920年11月2日にアメリカペンシルべニア州ピッツバーグでKDKAが世界で初めて行った。また日本では冒頭に触れた通り、1925年3月22日に東京で東京放送局(JOAK)による仮放送ののち、同年7月12日に本放送が始まった。その後1925年6月に大阪放送局(JOBK)で仮放送ののち、翌1926年12月に本放送が始まり、1925年6月に名古屋放送局(JOCK)で試験放送ののち、同年7月15日に本放送が始まった。また1926年8月にこの3局が合同で社団法人日本放送協会(現在の日本放送協会)が設立された。

ここで荒川氏より聴講者に問いかけがあった。



――JOAKは東京、JOBKは大阪、JOCKは名古屋です。ではJODKはどこでしょうか?

会場内「・・・」

――皆さんご存じなかったようですね。実は私も以前は知らなかったのですが、韓国の放送局なのです。切手を集めているうちに韓国のラジオ放送50周年記念のハガキの消印の中に『JODK』と入っていて、なぜ日本のコールサインなのかと調べてみると、かつて日本統治時代の1927年2月に京城放送局(JODK)として放送を開始したのです。そして今は韓国放送(HLKA)となっています。




JODKの文字の消印の入ったはがき

またかつてはラジオ放送を受信するには、免許をもらわないと受信できなかった(海外でもそのような制度があった)そうである。

また放送25周年(1950年)、50周年(1975年)には記念切手が発行されたそうだが、100周年では記念切手は発行されなかった。そこで荒川氏が日本郵便株式会社のオリジナル切手作成サービスを利用し、国産1号鉱石ラジオの写真を図案とした切手を作成したそうだ。また記念展当日にはミュージアムの地元である天理郵便局の風景印を押されたものが展示された。


オリジナル切手を貼って、天理郵便局の風景印を押した記念カバー(封筒)と案内チラシを手にする荒川氏


荒川氏による放送100周年記念切手を貼って、天理郵便局の風景印を押した記念カバー(封筒)

・ラジオの歴史とレプリカ作成について
次に「ラジオの歴史とレプリカ作成について」と題し、国産第1号鉱石ラジオのレプリカ作成やシャープダインSG5球受信機31型の整備を行った、シャープ社友会 ラジオ愛好者同好会のJR3XUH吉田氏による講演があった。

シャープ(当時、早川金属工業研究所)が開発した国産第1号鉱石ラジオのミュージアム所蔵品は、2009年に近代化産業遺産として経済産業省より認定を受けているため、安易に触れること、ましてや当時の状態に手を加えてしまうわけにはいかないため、レプリカを作成し聞いてみようとプロジェクトが立ち上がった。
※この鉱石ラジオのほかに、徳尾錠(穴をあけずに調整できるベルトバックル)、早川式繰出鉛筆(シャープペンシル)、シャープダイン31型(ラジオ)の計4点が認定されている。


左: 国産第1号鉱石ラジオ収蔵品  右: 近代化産業遺産認定証

国産第1号鉱石ラジオのレプリカは、現存するサンプル(収蔵品)を参考にして、当時の姿を推定して作成することとし、以下の目標が立てられた。
・外観: ミュージアムの収蔵品を目標に寸法や色合い、質感などを極力合わせる
・聴取性: 実際に動作するようにする
・内部: 内部の公開ができるよう、写真などを参考に当時の内部を極力再現する
・部品: 入手可能な当時の風合いにあう部品を用い、手に入らない場合は工夫して作る
・回路: 実験を行い聴取性に優れた回路を実装する

これをもとに、様々な調査などを行った結果、実現可能な以下の方針ですすめることとなった。
・外観は、シャープミュージアム所蔵品を精密にコピーする
・バリコン、スパイダーコイルは、外観が近く現在でも動作する当時の部品の入手に努める
・検波器は、当時の部品に近い物を入手するのは困難であり、ラジオの完成を優先させるため、鉱石検波器の代わりにゲルマニウムダイオードを使用したゲルマニウムラジオとし、オリジナルに取付けられている古河フォックストン製の検波器の外観を模したものに内蔵することし、将来的には鉱石検波器式に置き換えたい

講演では、レプリカ作成のために収蔵品のほか、シャープ社史の写真などの資料から、外観はもとより内部の部品の配置や配線のルートなどを調べた結果や、実際に作成した時の苦労話も語った。


レプリカ作成にあたっての苦労話などを語る吉田氏

鉱石ラジオ/真空管ラジオの聴取

講演後には再現された国産第1号鉱石ラジオとシャープダイン31型の聴取が行われた。


当時のヘッドフォンで聴取が行われた


収蔵品では見ることのできない内部も見ることができた



シャープダイン31型


内部も見ることができた


シャープダイン31型について説明を行っていたJO3QVT藤林氏に伺ったところ、近代化産業遺産の展示品である31型のひとつ前の型の30型として預かった個体を調べていたところ、それは展示品と同じ31型であることが判明した。こうして偶然にも触ることができた31型を詳しく調べたところ、内部の部品は、真空管は当時のものが奇跡的に動作しており、改修したのは劣化していたコンデンサと、目盛板の照明電球が切れていた程度であったと説明があった。ただ古いものであるため電源を印加するときは、スライダックで徐々に電源電圧を上げる必要があるそうだ。

どちらも、現代のラジオのように鮮明に聞こえるわけではないが、当時の人はこのラジオの音に耳を傾けていたかと思うと、真空管のフィラメントの明かりや懐かしくて柔らかい音質に非常に感慨深いものがあった。またJO3QVT藤林氏が率いるラジオ愛好者同好会のメンバーがこのシャープのイベントに協力して、受付をはじめ、レプリカの作成や改修作業、各展示品の説明員として来客の対応などに活躍していたのにはラジオに対する情熱を非常に感じた。

実際の音は以下のリンクから聞いていただきたい。
国産第1号鉱石ラジオのレプリカ
シャープダイン31型

ミュージアム常設展示見学ツアー

ミュージアムの見学ツアーは、説明員の案内で行われた。月刊FB NEWSでは以前に「Masaco、大人の社会科見学」でも訪問している。

国産第1号鉱石ラジオを開発した当時、前述の通り大阪放送局の放送はまだ始まっていなかった。そこで電信による電波の送信で調整やテストが行われており、その様子を再現した模型が展示されていた。


創業者 早川徳次氏と技術者による鉱石ラジオのテスト風景

当時輸入品のラジオは非常に高価であったが、この第1号鉱石ラジオは3圓50銭(現在の17,500円程度)で販売された。またキットや部品の販売も行っていたという。東京、大阪、名古屋の3か所で放送が始まるころには月産1万台を超え全国に広まっていったそうだ。


1934年にキット販売されたラジオ


内部



トランスやコンデンサなど様々な部品が単体でも販売された(1933年~1940年頃のもの)

また美術品のような真空管式ラジオからトランジスタ式ラジオへの過渡期の小型真空管式ラジオや太陽電池を付けたトランジスタ式ラジオなど様々なラジオが展示してあった。


1948年製の美術品のようなラジオ


1949年製の小型真空管式ラジオ



1961年に試作された太陽電池付トランジスタ式ラジオ



このほか液晶テレビの技術では、長方形に限らず円形などの形を実現することができるようになったそうだ。またこの液晶技術の研究の結果、湿度を一定にすることができる調湿材(TEKIjuN)や適温蓄冷材(TEKION)を開発することができたという。これらは紳士靴の素材やピアノ品質維持のための湿度調整などに利用されているそうだ。

なおミュージアムの見学については、臨時休館の場合もあるため事前に電話で空き状況を確認の上、予約が必要となっている。

・問い合わせ先
シャープミュージアム
住所: 奈良県天理市櫟本町2613-1(シャープ総合開発センター内)
開館時間: 09:30~16:30
休館日: 土、日、祝日及び会社休日
入館料: 一般1,000円/人
電話: 050-5433-1543 または 050-5433-4635
詳細は、以下のURLリンク先を参照
https://corporate.jp.sharp/showroom/

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